上 下
174 / 215
地球へ

第174話 強制終了は機械を傷める

しおりを挟む
 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 北部戦線での激戦は終わった。
 そしてリムはアバター体に支障をきたし、脱出用システム前提での戦闘が不可能になった。
 そんなリムは新人パイロットの教官任務についた。
 その教え子達は、北部戦線の激戦を終わらせた英雄、マイの実力を信じなかった。
 戦闘機の性能、優秀なサポートAIのおかげだろと、マイの実力を認めない。
 そこでリムは、マイと教え子達との対戦を組んだ。
 同じ条件下で戦い、マイとの実力差を分からせる。
 マイの伴機に苦戦する教え子達だったが、教え子のひとりは、仲間を犠牲にして、マイの伴機二機を落とす事に成功した。


「なんて事を、なんて事をするのよ!」
 今目の前で起きた光景に、マイは怒りを抑えられない。
 仲間をふたり犠牲にしたのだ。
 マイの伴機を落とす戦法は、他にもあったはずだ。

「あんたに言われたくないわよ!
 伴機ごときだけで、自分で攻めてこなかったくせに!」
 最早一機だけになった教え子も、怒鳴り返す。
 教え子の機体も、マイの機体も、止まったままだ。

「それは仕方ないんだよ、ゼロスリー。」
 ここでふたりの会話にリムが割り込む。
「マイの機体は、そろそろエネルギーが尽きる。」
「え?」
 リムに言われて、マイは初めて気がつく。
 燃料が残り少ない事に。
 今高速飛行したら、一分も保たない。
「あっははは。」
 それを聞いて、ゼロスリーは笑い出す。
「私達を格下だと思ってなめてるから、そうなるのよ!」
 ゼロスリーは戦闘機を急発進させ、バルカン砲を撃ちながらマイの機体に迫る。

「ヒューマノイドチェンジ!」
 マイは戦闘機を人型機体に変形させ、バルカン砲をかわす。
「な、ヒューマノイドチェンジ?何考えてるのよ!」
 ゼロスリーには、マイの意図が分からない。
 人型機体は、地上戦において、その効力を発揮する。
 宇宙空間にただ浮いてるだけの人型機体は、戦闘機のいいマトでしかない。
「いや、最低限の動きでかわせる。
 燃料の少ない今、とれる戦法は、これしかない。」
 とリムは解説する。
 言われてゼロスリーはバルカン砲を撃ってみるが、マイの人型機体はわずかな動きで、たくみにかわす。

「リム!」
 解説してくるリムに、思わずマイはどなる。
 燃料切れ間近のマイの機体。
 しかし、伴機とともに自機も攻撃に加われば、この状況になる前に、戦闘は終わっていた。
 それをさせなかったのは、リムだ。
 リムはマイを燃料切れにさせ、負けさせたかったのか。
 そんな考えも一瞬わいた。
 だけどリムに対する怒りの感情は、そこではなかった。
「あなた、教え子になんて事教えてるのよ!」
 マイは怒っている。
 仲間を犠牲にしたゼロスリーの行為を。
 それを教えたであろうリムの事を!

 リムは無言のまま、帽子のつばをつまむと、帽子を目ぶかにかぶり、うつむく。
「あら、リム教官を悪く言わないでくださいな。」
 リムの代わりに、ゼロスリーが反論する。
 バルカン砲を撃ちながら。
 当然マイも、全弾最低限の動きでかわす。
「リム教官には、仲間との連携の大切さを学びました。」
「それがなんで、仲間を犠牲にする事になるのよ!」
 マイは思わず反論する。
「すまんな、マイ。私にはうまく教えられなかったみたい。」
 とリムはつぶやくが、マイの耳には入らない。

「戦闘に犠牲はつきもの!
 あなたも仲間の死で、勝利をつかみ取った事くらい、あるでしょ!」
 ゼロスリーの言葉に、マイはユアの事を思い出す。
 自分が躊躇してたら、ユアが死んだ事。
「あんたねえ!
 目の前で仲間が死ぬ哀しみが、分からないの!」
 マイは反射的に怒鳴る。
 そんなマイの身体は、いつしかほのかな青白い光に包まれる。

 バルカン砲を撃ち尽くしたゼロスリーは、今度はレーザー光線に切り替える。
 軌跡が見えるレーザー光線は、バルカン砲よりもよけやすい。
 このままでは、下手すればゼロスリーの方が先に燃料が尽きるかもしれない。
 ゼロスリーはあせる。

「頑張れゼロスリー!」
「もう少しだ、あきらめるな!」
 ここで落とされた教え子達が、ゼロスリーを応援する。
「みんな。」
 ゼロスリーはつぶやく。
「そうだ、勝ってくれ、ゼロスリー!」
「私達を犠牲にしたんだ。負けたら許さないよ!」
「あんた達まで。」
 ゼロスリーは、自分が見殺しにしたふたりからの声援が、うれしかった。

「みんなのためにも、私が勝つ!」
 ゼロスリーはレーザー光線を撃ちながら、マイの人型機体に突っ込む!
 このまま距離をとって撃ってたら、燃料が尽きるからだ。
 ゼロスリーも勝負にでた。
 しかしそんなゼロスリーの攻撃も全て、マイの人型機体は最低限の動きでかわす。
 今のマイを倒すには、もう一機あればよかった。
 例えそれが、伴機だったとしても。
 一機だけの相手に意識を集中させてればいいので、今のマイには、負ける要素はなかった。
 すれ違いざま、マイの人型機体は右腕のパンチをくりだす。
 そのパンチは、ゼロスリーの機体の右翼を破壊する。

 この動きで、マイの機体の燃料が尽きる。
 そしてゼロスリーの機体も、右翼をやられ、制御不能になる。

「うおおおお!」
 突然、マイは叫び声をあげる。
 そして蒼白い光に包まれたマイは、右手をかかげ、叫ぶ。
「来い、王狼機!」
 シミュレータの宇宙空間に、雷が走る。
 そしてマイの人型機体の背後に、巨大な人型機体のワイヤーフレームが浮かぶ。
「終了よ!この勝負、マイの勝ち!終了よ!」
 リムは叫ぶ。
 だけどリムの叫びは、マイには届かない。

 もう一度、シミュレータの宇宙空間に雷が走る。
 ワイヤーフレームの人型機体は、実体化する。

「強制終了よ、ゼロスリー!
 逃げて!」
 リムは叫ぶ。
「出来ません、強制終了出来ません!」
「そんな。」
 ゼロスリーの言葉に、リムの表情に絶望の色が浮かぶ。

 巨大な人型機体の胴体部分の装甲が開く。
 それは、マイの人型機体が収まるのに、ぴったりの大きさだった。
 つまり、超高次元空間でオメガクロスを格納したバイワンラァンよりも、この人型機体は小型だった。

「リム教官、そちらから出来ませんか、強制終了!」
「は、そうだわ!」
 ゼロスリーの言葉に、リムは思い出す。
 教官機のシミュレータからなら、強制終了が出来る事を。
「駄目。なんで止まらないのよ!」
 リムはシミュレータを叩く。
 強制終了は出来なかった。

「狼機の嘆きが大宇宙に響く時、
 次元を超え、時空を超え、狼機の王が顕現する!」
 マイの人型機体は、すでに燃料は尽きているのにもかかわらず、巨大な人型機体の開けた装甲内に吸い寄せられる。
「駄目ぇ、マイ!」
 なす術なく、リムは叫ぶ。

 ガゴン!
 突然、なんの前触れもなく、シミュレータは強制終了される。

「どうやら、間に合ったようだな。」
 絶望の表情のまま、リムは声のした方を振り向く。
 そこに居たのは、メカニックマンのジョーだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

TS調教施設 ~敵国に捕らえられ女体化ナノマシンで快楽調教されました~

エルトリア
SF
世界有数の大国ロタール連邦の軍人アルフ・エーベルバッハ。彼は敵国アウライ帝国との戦争で数え切れぬ武勲をあげ、僅か四年で少佐にまで昇進し、救国の英雄となる道を歩んでいた。 しかし、所属している基地が突如大規模な攻撃を受け、捕虜になったことにより、アルフの人生は一変する。 「さっさと殺すことだな」 そう鋭く静かに言い放った彼に待ち受けていたものは死よりも残酷で屈辱的な扱いだった。 「こ、これは。私の身体なのか…!?」 ナノマシンによる肉体改造によりアルフの身体は年端もいかない少女へと変容してしまう。 怒りに震えるアルフ。調教師と呼ばれる男はそれを見ながら言い放つ。 「お前は食事ではなく精液でしか栄養を摂取出来ない身体になったんだよ」 こうしてアルフは089という囚人番号を与えられ、雌奴隷として調教される第二の人生を歩み始めた。 ※個人制作でコミカライズ版を配信しました。作品下部バナーでご検索ください!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

戦艦大和、時空往復激闘戦記!(おーぷん2ちゃんねるSS出展)

俊也
SF
1945年4月、敗色濃厚の日本海軍戦艦、大和は残りわずかな艦隊と共に二度と還れぬ最後の決戦に赴く。 だが、その途上、謎の天変地異に巻き込まれ、大和一隻のみが遥かな未来、令和の日本へと転送されてしまい…。 また、おーぷん2ちゃんねるにいわゆるSS形式で投稿したものですので読みづらい面もあるかもですが、お付き合いいただけますと幸いです。 姉妹作「新訳零戦戦記」「信長2030」 共々宜しくお願い致しますm(_ _)m

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

全ての悩みを解決した先に

夢破れる
SF
「もし59歳の自分が、30年前の自分に人生の答えを教えられるとしたら――」 成功者となった未来の自分が、悩める過去の自分を救うために時を超えて出会う、 新しい形の自分探しストーリー。

処理中です...