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異次元からの侵略者

第144話 精密機器の点検なんて、よくわからない

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 北部戦線での戦闘も、いよいよ佳境に突入。
 この侵略戦争をしかけたブルードラゴンをとめる。
 コアブレイカーが撃ち込まれて衛星基地ソゴムが破壊される前に、残った住人を避難させる。
 その避難のための時間をかせぐ。
 この場にいる八人のやるべき事が、決まった。


「ケイ、外の連中は私達がくい止めるから、あなたは残ってる人達の説得を頼むわ。」
 ミイの別動体であるケイネシアが、アバター体のケイネシアに指示を出す。
 今やこの場の指揮は、別動体のケイネシアがとっていた。

「だけど、ヤツらはここに残る事決めたヤツ達だぜ。
 説得がきくのか?」
 アバター体のケイネシアの不安に、別動体の方のケイネシアが一枚のチップを渡す。
「これには、レイアとレウスの音声データが入ってます。
 これを放送で流せば、説得も可能でしょう。」
「レイアとレウス?誰だそれ。」
 そのふたりは、ケイのアバター体に召喚された双子の姉弟の事である。
 だけど千年の時の流れの中で、本人はその事を覚えていない。

「分かった。やってみるよ。」
 気持ちを切り替え、アバター体のケイネシアは走り出す。
 そして思う。
「どこか懐かしい名前だな。」

「次は、おまえ達に頼む。」
 別動体のケイネシアは、アイ達サポートAIの三人に声をかける。
 同時に、マザーコンピュータミイの姿がフォログラフ投影される。
 巨大な円筒形をした、マザーコンピュータミイ。
 ミイにとっては1900年ぶりの再会になるのだが、そこにミイの意思は、すでにない。

「これはまた、随分と旧型だな。」
 久しぶりに会ったミイを見て、ユウはひと言。
「ええ。なにせミイがひとりで、創り上げなければなりませんでしたから。」
 ユウの感想に、ケイネシアが答える。
「そっか。確かに私がひとりで創るなら、この形式になるな。」
 ユウはマザーコンピュータミイを見上げる。

 この様な姿を、仲間達に見せたいと思うだろうか。
 自分なら、ごめんだ。
 だけどここに居る自分達は、本体ではない。
 本体とは通信を切られた、自律したフォログラフだ。
 それならば、ぎりぎり許せるかな。
 とユウは思った。

「この次元空間を安定させるのに、チカラを貸して。」
 ケイネシアはフォログラフの三人に声をかける。
 この形式のマザーコンピュータなら、どこがどの様な機能を持っているのか、三人なら、見ただけで分かる。
 フォログラフである、三人もマザーコンピュータミイも、宙間物質アークスピリットを取り込めば、フォログラフの任意の箇所を実体化する事が出来る。
 サポートAIの三人は、今いる次元空間の拡張と安定に尽力する。

 そう、マイ達の戦闘機が、ブルードラゴンのいる高次元空間へと、飛び立てるように。

「頼んだよ、マイ、ユア、メドーラ。
 ブルードラゴンを救って。」
 ケイネシアの言葉にマイ達三人はうなずき、戦闘機に乗り込む。

「マイ。」
 戦闘機に乗り込むと、パートナーであるサポートAIのアイから通信が入る。
 普段ならはちまきに仕込まれたチップが額に当たる事により、パートナー同士の意思疎通が出来る。
 だけどこの空間は、その交流を遮断する。
 だから、今のふたりはいつもと違う。
 自分の感覚の一部だったのが、今はそれが、身体の外にある。
 そう、まさに他人同士と言える。

「なんか、不思議な感覚だね。」
 アイの声を聞いても、いつもの様なつながりを、マイは感じない。
「私もです。」
 その感覚は、アイも同じだった。

「ところで、ブルードラゴンに会ったら、どうするつもりです?」
 アイは、自分の目や耳としてフォログラフを投影したのだが、その通信は途切れてしまった。
 具体的には、ケイネシアがシリウス構想を口にした辺りから、通信は途切れる。
 ブルードラゴンの事は、聞いている。

 これは、フォログラフのアイが、自発的に通信を切ったからだ。
 通信を切ると言っても、数センチほど戦闘機から離れればいいだけだった。
 マイは、ケイネシアに協力しようとしている。
 そこへ第一級特別機密事項が、マイにバラされようとしていた。
 この時点で、問答無用のケイネシア射殺もありえた。
 バルカン砲搭載の戦闘機が、ここにあるのだ。
 それをさせないための、フォログラフのアイの配慮だった。
 その事はアイ本体も分かっていた。
 そしてこの事は、ミイの記憶を引き継ぐケイネシアにも、分かっていた。
 マイにも知らせる時では、ない事を。

「そんなの、会ってみなけりゃ分からないよ。」
 マイはコックピットの点検がてら、アイに答える。
 アイとはつながっていないため、普段はアイ任せの点検作業も、マイ自身でこなさなければならない。
 マイは、コックピットに何かを挿入するための窪みがある事に気がつく。
 マイはケイネシアから貰ったスティック状の物体を差し込もうとする。

「待って、マイ。」
 そんなマイを、アイが止める。
「それを使うのは、ブルードラゴンに会った時です。」
「ふーん。」
 マイは差し込む動作を止める。
「これって一体、なんなの?」
 マイは、改めて聞いてみる。
 このスティック状の物体の事を。

「それは、機体を変形させるための、媒体です。」
「媒体?変形機能なんてあったの、この機体。」
 それは、マイにも知らない機能だった。
 つか、この機体に関しては、全てアイ任せだった。
 その時に必要な情報を、アイからダウンロードしてもらってた。
 だからマイは、自分の機体の事を、詳しくは知らない。

「それと同じ物が六種類、私達の基地にもあります。」
 アイは小出しの真実を、マイに告げる。
「六種類?
 じゃあ、これはそのうちの一種類と同じなの?」
「いいえ、それは全くの別物です。
 ケイネシアを名乗る者が、なぜそれを持っていたのかは、謎です。」

 マイは、改めてスティック状の物体を見つめる。
 自分の知ってる事って、本当に少ないんだな。

 そんな事を思ってると、マイの目の前コックピットから、フォログラフのアイが姿を現す。
 コックピットから、上半身が生えてきた様な感じだ。
「マイ、そろそろ出発するよ。
 準備はいい?」
「わ、びっくりした。」
 コックピットから突然現れて、びっくりするマイ。

「ええ、いつでもいけるわ。」
 マイの代わりに、アイが答える。本体の方のアイが、通信を通じて。
「そう、私はここに残るけれど、マイの事は頼むね。」
 フォログラフのアイは、本体の方のアイに、そう告げる。

「あら、それはどう言う事。って、聞くだけ野暮ですね。」
 問い詰めようとしたアイだが、その行為を思い直す。
 それは、自分もフォログラフの立場なら、そうしたからだ。

 ミイに協力する。

 これは、アイ本体としては、出来ない選択だった。
 しかし、マイの行動を手助けするには、それが一番の良策である事は、間違いなかった。

 マイは、ユアとメドーラの機体に、通信を入れる。
 そして、三体の機体は発進する。
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