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異次元からの侵略者

第142話 戦争するなら、落とし所を決めておけ

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 ついに北部戦線の戦闘が開始された。
 両陣営とも、今回の戦闘に対する切り札を持っていた。
 そのための前哨戦は、いつもより開戦は早かった。
 これには、マザーコンピュータミイがもたないかもしれない。
 ならば、ミイの別動体であるケイネシアの力添えを借りようと、その場所へ出向く。
 顔を会わせるふたりのケイネシア。
 そしてマイとユアとメドーラ。
 それとアイとユウとアイツウ。
 ついでに三人の戦闘機も、そこにあった。


 お腹をぶたれたケイネシアは、気を失いかける。
「コアブレイカー、なんですか、それは。」
 だがケイネシアには、ふたりの魂が召喚されていた。
 姉レイアと弟レウスの双子の魂。
 どちらかが気を失っても、もうひとりの気はたもっている。
 だけど、千年もの長い時間を過ごしたこのアバター体に、そんな記憶は既に無かった。

「星を破壊する兵器さ。
 このソゴムは、もうすぐ破壊される。」
 ミイの別動体の方のケイネシアが、説明する。
「そう、全てが終わったって、そう言う事だったのね。」
 アバター体の方のケイネシアは、そのまま涙ぐむ。
「私達のやって来た事が、全て無駄に終わる。
 なんだったの、今までの苦労は。」

「いいえ、これは無駄ではありません。
 私達の潮時に、丁度良かったのかもしれません。」
 別動体の方のケイネシアが、もうひとりのケイネシアに声をかける。
「何を言ってるの?」
 アバター体の方のケイネシアは、理解出来なかった。
「所詮私達は、日陰者。
 ここに留まるには、長すぎたのです。」
「また、追われる身になれってのかよ。」
「今度の滞在先なら、その心配も無いでしょう。」
「それもそうかもしれんが、今度はいつまでもつのかな。」
「それは、マイ達に委ねましょう。」

「え、僕?」
 突然自分の名前が出てきて驚くマイ。
 アバター体の方のケイネシアは、マイ達に視線を向ける。
 そこには、マイの他にも、ユアにメドーラ、フォログラフだがサポートAIのアイ、ユウ、アイツウがいる。
「そっか、おまえはこいつらを、取り込んでくれたんだな。」
「何?」
 ケイネシアの言葉に、ユアが反応する。
 何か言いた気なユアを、メドーラが無言で制する。
 メドーラはユアを見つめ、首をふる。

 そんなふたりの横で、別動体の方のケイネシアが、もうひとりのケイネシアに声をかける。
「このタイミングで、マイが来てくれました。
 ヤツらへの報復も、最後に盛大なのをぶちかまして、終いにしましょう。」
「最後?何言ってるの?」
 もうひとりのケイネシアは、反論する。
「ヤツらが攻め続ける限り、我らの報復は終わらないでしょ!」

「それは、全宇宙を敵に回すって事ですよ。」
 別動体の方のケイネシアは、右手の手のひらを、もうひとりのケイネシアの顔面に向ける。
「おっと、同じ手を何度もくらわないぜ。」
 迫る手のひらを、はたき落とすケイネシア。
 数話前にて、顔面を鷲掴みにされて床に叩きつけられている。
 続けてくらうほど、うすのろではなかった。
「甘い。この右手は、死んでませんよ」
 はたき落とされた右手で再び顔面をとらえようとするが、その台詞を言い終わる前に、反撃をくらう。
 アバター体の方のケイネシアは、もうひとりのケイネシアの両手の手首をつかみ、攻撃を封じる。
「口より先に、手を動かしましょう。」

 それを聞いて、別動体の方のケイネシアはにやける。
「懐かしいな。昔の手合わせの時に、私がよく言った言葉だな。」
「なんの事だ?」
 だが、もうひとりのケイネシアには、分からなかった。

 それは、ケイのアバター体に双子の姉弟が召喚された頃の出来事。
 そのアバター体になじむため、ミイの別動体であるケイネシアが、色々手解きをした。
 だが千年を経たこの記憶は、アバター体のケイネシアには、すでになかった。
 別動体の方のケイネシアにも、記憶として引き継がれてはいるが、実感はなかった。

「いや、忘れてんなら、それでいいさ。
 私も懐かしい気がしただけで、詳しくは知らないしな。」
 ケイネシアは、上記の説明を、あえてさける。
「時どきおまえは、訳の分からない事を言うな。」
 ケイネシアは掴んでいるもうひとりのケイネシアの手首を離す。
「だから、はっきり言っておくよ。
 全宇宙が相手だろうが、ここを攻めるヤツらは、皆殺しだ。
 それが、マザーコンピュータミイの意志だろ。」

 その言葉に、ケイネシアは首をふる。
「いや、マザーコンピュータミイは、そんな事望んじゃいないよ。」
「はあ?」
 ケイネシアはちょっと困惑する。
 今目の前にいる相手はマザーコンピュータミイの別動体。
 その発言はマザーコンピュータミイに近いと思われるが、その発言は最近のマザーコンピュータミイの行動とは、かけ離れている。

「だったらなんで、こんな報復攻撃にでたんだよ。」
 ケイネシアのこの問いは、目の前のミイの別動体のケイネシアに向けられているが、その向こうにいる、マザーコンピュータミイにも向けられる。

「ただの、怒りの爆発さ。」
「何?」
「いっ時の感情に身を任せちまったのさ。」

 それで甚大な被害を出されちゃ、かなわんな。
 はたから聞いてるユアはそう思ったが、あえて口をはさまなかった。

「おいおい、いっ時の感情って、そりゃなんだよ。」
 自分で聞いておいて、ケイネシアはちょっとあきれる。
「まるで、振り上げた拳の降ろし処が、分からないって聞こえるぜ。」
「実際、そうなんだよ。」
「ははは。」
 ケイネシアは笑い出す。

「じゃあ、なんだったんだよ、この戦いは。
 理知的に行ってれば、最初の報復の後は、話し合いで解決出来たんじゃないか。」
 ケイネシアの表情が、自虐的にゆがむ。
「だから、コアブレイカーでのソゴム破壊は好都合なのさ。」
「何?」
 自虐的にゆがんだ表情も、もうひとりのケイネシアの発言でひきしまる。
「私達の拠点を失う事が、好都合だと言うのか?」
「すでに住民の多くは、移転している。だろ?」
「それはそうだが。」
 もうひとりのケイネシアの発言に、言葉がつまる。

 そう、住民の多くは、新天地に移転済み。
 今ソゴムに残ってるのは、ソゴムと命運を共にしようとする者達だけだった。

「我々が無念の最期を遂げるしかなかった所に、マイ達が来てくれた。
 私達の命も、無駄にならなく済んだ。」

 今回は、ふたりのケイネシアの会話劇で話しが進んだ。
 しかしこの場には、マイとユアとメドーラがいる。
 それにフォログラフであるが、アイとユウとアイツウもいる。
 みんなのチカラを合わせれば、この窮地は乗り越えられる。
 だが、残された時間は少ない。
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