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異次元からの侵略者

第136話 救難信号は時空をも越える道になる

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 北部戦線での激戦の始まりは、神武七龍神であるブルードラゴンの怒りの爆発だった。
 それは、自らの存在そのものを賭してでも、消えない怒りだった。
 それは、人間であるケイを取り込んだ事により、人に近い感情を持つようになってしまったからだった。
 そんなブルードラゴンを止めたくても、ブルードラゴンはすでにこの世には存在しなかった。
 ブルードラゴンの存在をかけた総攻撃まで、すでに10時間をきった。
 そして衛星基地ソゴムを破壊するコアブレイカーの使用は、16時間後だった。


「ブルードラゴンは、この世に存在しない。
 だけど、その概念は存在する。」
 前回の話しをふまえケイネシアは、ちょっと理解が難しい事を言う。

 この世には存在しない、ブルードラゴンの概念。
 その言葉に、マイは覚えがあった。
 そう、はるか7500億光年のかなたに飛ばされる超空間の中で、マイは青い竜を見た。
 哀しい眼をしたあの竜こそ、ブルードラゴンなのだろう。

「それは、ブルードラゴンの意志を継ぐ者。
 もうひとりのケイネシアに関連するのですか?」
 マイが青い竜に思いを馳せる横で、メドーラもブルードラゴンの存在の可能性を探る。

「ああ。奴にはブルードラゴンの一部が憑依している。」
 ケイネシアは、メドーラの言うブルードラゴンの存在の可能性を肯定する。
 だが、その可能性は利用不可能なものだった。
「だが、ヤツの意思とブルードラゴンの意思は共存しない。
 だから、ヤツを止めても、ブルードラゴンには影響しない。」

 ひとつの身体に、ふたつの魂は共存出来ない。
 どちらかの意識がある時は、もう片方の意識は完全になくなる。
 ドルフレア編でサポートAIミイと、憑依したグリーンドラゴンのナツキの意識が共存出来たのは、ミイが人間ではなく、サポートAIだったからである。

「ブルードラゴンと対峙するには、次元を超越してほしいんだけど、くそっ。おせーな。」
 そう言ってケイネシアは、ふところから小さな箱状の物体を取り出す。
「それは?」
「次元超越型ビーコン。」
 マイの疑問に、ケイネシアは答える。

 それは、多次元空間に迷い込んだ時に使う、救難信号みたいな物である。
 無理なワープをする時、次元の狭間に落ち入る事も、ままある。
 そんな時に使うのだが、マイ達にはサポートAIがいる。
 マイ達が次元の狭間に落ちて、サポートAIとのつながりが切れたとしても、おおまかな位置は特定出来る。
 だから、次元の流れに巻き込まれた時以外に、マイ達がその場でビーコンを使用する事は、まず無い。

「普通に、罠だと思うぞ。」
 ユアはケイネシアの行為を否定する。
 ケイネシアは、マイ達三人の戦闘機を、ここに呼びたいのだろう。
 だけどサポートAI達は警戒する。
 様々なレーダー類を駆使して、索敵する。
 だが、この空間に突入しただけで、パートナーとのつながりが切れる次元空間である。
 マイ達三人の現状を、サポートAI達が知るすべはない。
 そして、マイ達三人なら、自分達のチカラで、現状を打破出来ると信じている。

「分かった。アイ達を呼べばいいんだね。」
 マイはマジカルポシェットに手を突っ込み、ビーコンを発動させた。
 と同時に、次元の壁が崩れ、一機の戦闘機が現れる。
 それはマイの機体、シリウスアルファーワンだった。
「マイ、無事ぃ?」
 戦闘機の外部スピーカーから、アイの声がする。
 それは、マイが久しぶりに聞くアイの声だった。
「僕は無事だよぉ。」
 と答えるマイだが、今のマイの戦闘機に、この次元空間を索敵するすべはない。
 つまりマイの声は、アイには届かない。

 そこでアイは、マイの戦闘機から自らのフォログラフを投影する。
 このフォログラフが見た事、聞いた事が、アイの実体に伝わる仕組みだ。
「アイー。」
 久しぶりに見るアイの姿に、マイは思わず抱きつく。
 しかし相手はフォログラフ。触れる事は出来なかった。
 この作品では、フォログラフに質量を持たせて実体化させるのが常だった。
 その実体化には、宇宙空間に存在する宙間物資アークスピリットが必要になる。
 だがそのアークスピリット濃度は、この周辺では著しく低下していた。

「マイ、無事でよかった。」
 マイの無事に安堵するアイ。
 だが、周囲を見回して、愕然とする。
 ユアとメドーラは倒れたままであり、その傍らにはなんと、ケイがいる。
「どう言う事?なぜケイがここに?」
 アイは当然の事ながら、ケイの姿をするケイネシアに警戒する。

「違うよ、あの人はケイネシアだよ。」
 マイはちょっと不足した説明をする。
「ケイネシア?そのケイネシアがユアとメドーラを倒して、今、マイまで倒そうとしてるのね。」
「いや、私はふたりのリミッターを発動しただけさ。」
 警戒するアイをよそに、ケイネシアは発動させたふたりのリミッターとやらを、解除する。

 ユアとメドーラは、やっと立ち上がる事が出来た。
 と同時に、ふたりの戦闘機も、この次元空間に姿を見せる。
 ユアの機体、シリウスガンマスリー。
 メドーラの機体、シリウスガンマファイブ。
 その二機の機体からも、サポートAIであるユウとアイツウの姿が、フォログラフ投影される。

 召喚者のリミッター。
 人間の身体は、常にその実力の三割程度しか発揮出来ない。
 それは、十割のチカラに、人間の身体は耐えられないからだ。
 だから人間の身体には無意識のリミッターがかけられている。
 召喚者のアバター体には、その様な機能はない。
 しかし、その三割の感覚は、魂に染みついているため、召喚者はそれ以上のチカラを発揮しようとはしない。
 しかし、感情の高まりなどにより、十割のチカラに身をまかせる事もある。
 そんな状態を、サポートAIは止める事が出来る。
 召喚者のアバター体もまた、十割のチカラには耐えられないのである。

「ケイネシア、あなたはいったい。」
 アイは疑問に思う。
 召喚者のアバター体のリミッターを知る者は、サポートAIだけである。
 これは、召喚者も自ら体験するまで、その存在を知らない。

「私は、ミイの意志を継ぐ者。
 いや、君たちの仲間だったミイの成れの果てと言うべきかな。」
「それは、どう言う事?」
 アイ達サポートAIは、ミイは今、惑星ドルフレアに居ると思っている。
 そのミイの成れの果てとは、意味が分からなかった。

「ミイはね、ケイに会いに行ったんだよ。」
 代わりにマイが説明する。
「でもね、会えなかったんだって。」
 マイの瞳から、涙がこぼれる。
 ユアもメドーラも、顔をしかめてうつむく。
 ふたりとも、マイと同じ気持ちだった。

「だけど、マイには会えた。私はそれで満足だよ。」
 涙ぐむマイに代わり、ケイネシアが続ける。
 三人のサポートAIには、よく事情が飲み込めない。
「詳しくは、後でパートナーの記憶を探ってくれ。
 今は、時間がないんだ。」
 ケイネシアは、サポートAI達三人を見渡す。

「君たちが来てくれて、助かった。
 これで、ブルードラゴンを止められる。」
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