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異次元からの侵略者

第127話 侵略の真相

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 マイは数日ぶりにミイと再会した。
 ミイはその姿を円筒形のマザーコンピュータに変えていた。
 ケイの後を追って、湖のほこらから千年前の時代を目指したミイ。
 ケイは次元の狭間から、神武七龍神のブルードラゴンの導きで、千年前の時代にたどり着いた。
 しかし、ブルードラゴンの助けが無かったミイ。
 ミイがたどり着いたのは、1900年前の惑星ドルフレアだった。
 ミイは900年の時を、待たなければならなかった。
 ミイは、後に魔族と呼ばれる事になる、惑星ドルフレアに流れ着いた宇宙移民の人達と、共に過ごす事にした。
 その生活が百年経った頃、異変が起きた。
 サポートAIであるミイの身体に、経年劣化の跡が見え始める。
 ミイの身体は、保ってあと百年だった。
 ミイは宇宙移民の人達の助けをかり、眠りについた。
 再びケイと巡り会うための、八百年の眠りである。
 しかし、いつしかミイの願いは忘れ去られた。
 八百年の年月を経るうちに、ミイの寝所は荒らされた。
 八百年の眠りを覚ます目覚ましは、壊された。
 ミイはこんな事もあろうかと、寝所を三重に作っていた。
 ミイが目覚めたのは、ケイがこの時代に来てから、二十年後の事だった。
 ミイがブルードラゴンと出会えた頃、触媒になったケイの人格は、すでに消えていた。



「しいたげられし者よ、北を目指せ。」
 北部戦線の説明をする前に、ケイネシアはこの言葉を口にした。
「この伝承を知ってるか?」

 ケイネシアに言われ、マイとユアとメドーラの三人は、お互いの顔を見合わせる。
 その伝承とやらを、誰も知らなかった。
 そんな三人の様子を見て、ケイネシアは続ける。
「そっか、誰も知らないか。
 そりゃあ、千年くらい前の、新興宗教だからな。」

 つまり、この時代の千年前。
 およそ西暦9000年頃の話しである。
 三人はそれより前の時代から召喚されてたので、知るよしもなかった。

「で、その新興宗教が、どうしたのですか?
 今回の侵略と、どんな関係なのですか。」
 メドーラは少しいらだつ。
 侵略行為のいきさつを語るところ、そんな新興宗教の話しをされても、話しの流れが分からない。

「メドーラ、聞きましょう。
 ミイが関係ない無駄話しをするとは、思えないわ。」
 そんなメドーラを、マイがなだめる。
 目の前のケイの姿をした人物を、ミイと言うのは気が引ける。
 だが、目の前の人物はマザーコンピュータミイの、別動体である。
 ミイ本人とも、言えなくもない。
 本人は、ケイネシアと名乗っているのだが。

「流石マイ。戦闘狂どもとは違うな。」
「え?」
 ケイネシアのその言葉に、マイは何かを感じる。
 今回の潜入任務。
 自分と他のふたりとの違いを、思い知らされたマイ。
 マイの何か聞きたげな表情に、ケイネシアはその話しを続けようとする。
 マイが召喚された理由は、他のふたりとは違う。
 そんな話しをしようとするが、その流れをユアが遮断した。

「戦闘狂の私達だって、話しくらい聞く。
 さっさと続きを話しなさい。」
 戦闘狂と言われ、ユアも少し頭にきていた。
「そうだな。」
 ケイネシアは自分が言った戦闘狂と言う言葉に、少し吹き出してしまう。
「何がおかしい。」
 当然、ユアの怒りをかう事になる。
「いや、どっちかって言うと、マイが召喚される事の方が、おかしいよな。」
 ケイネシアはユアに同意を求めるように、自分の言葉を補足する。

 マイの異質さ。
 マイは戦闘に向いていない。
 それは共に行動した、ユアとメドーラが、少なからず感じていた事だった。

「話しがそれたな。
 その、しいたげられし者が目指す北が、ここなんだよ。」
 ケイネシアは右手の人差し指を下に向ける。
「衛星基地ソゴムとゴソラ。
 このふたつは、そのために作られた。」

「どう言う事?」
 マイ達が今いる次元空間と、元いたソゴムとゴソラの次元空間は違う。
 ケイが千年前の時代に、魔族と呼ばれた宇宙移民を移住させた次元空間。
 それと今いる次元空間は、同一なのかもしれない。
 だが、それとソゴムとゴソラとの関係が、いまいち分からない。

「同時に存在している、って事かしら。」
 メドーラがマイの疑問に答える。
 複数の多次元空間に同時に存在する。
 この作品ではおなじみだ。
 だが、その説明でもしっくりこない。
「でも、それだったら、こちらのソゴムも半壊してるはず。」
 メドーラは自ら言った答えの、矛盾点をつく。
 元いたソゴムと違い、こちらのソゴムは無傷だった。
 ソゴムの中心付近の次元の歪みに向かった際も、内部通路は半壊状態だった。
 だけどこちらのソゴムは、普通に生活空間が広がっていた。

「同時に、ではない。」
 メドーラの疑問に、ケイネシアが答える。
「どちらの衛星基地も、元は同一の存在だった。
 だけど、ふたつの次元空間に分離させたから、別の存在になった。」
「はい?」
 マイには、意味が分からなかった。
 同一?同時?
 マイの頭がこんがらがる。

「つまり、マイのいた次元空間で虐げられた者が、北の果ての衛星基地ソゴムとゴソラを目指す。
 たどり着いたら、次元の扉を通って、こちらの次元空間のソゴムとゴソラに来る。」
 ケイネシアは、ちょっとかみくだいて説明する。

「そんな目的があったのか?」
 ソゴムとゴソラが作られた目的など、三人とも知らない。
 北の最果ての衛星基地。
 さらにその先の、未知なる領域に対しての防衛基地。
 ユアもメドーラも、そんな意識だった。
 いつもだったらサポートAIから情報を聞き出すのに、今はサポートAIとはつながっていない。
 その事をユアは、はがゆく思った。

「全ての建造物には、意味がある。
 だが、その全てを知るヤツなんて、いないさ。」
 ケイネシアは、無知を恥じるユアに、救いの言葉を投げかける。
「そこに関係ある者しか、知らない。
 任務に関係なければ、調べもしない。」
「そうですわね。」
 ケイネシアの言葉に、メドーラも同意する。

「私だって、サポートAIだった頃は、ソゴムとゴソラなんて知らなかった。
 まさか私が過去で作った衛星基地が、元の時代の物だったなんて、思いもしないよ。」
 そう言って、ケイネシアは軽く笑う。
「話しがそれてるな。」
 だがケイネシアはすぐに、真顔になる。

「長い年月の間、その伝承も忘れ去られたのさ。
 このソゴムでも。」
「虐げられし者が、北を目指す、ってヤツ?」
 ケイネシアの言葉に、マイはうろ覚えな伝承を口にする。
「ああ、そうだ。
 ソゴムにも、人が増えたのさ。虐げられていない者も。」

 衛星基地ソゴムの人口は、今や二百万。
 普通に都市を形成している。
 そこに虐げられし者など見当たらない。
 その虐げられし者は、多次元空間のソゴムで暮らしていた。
 いつしか、ふたつの次元空間をつなぐ扉は、閉じられた。
 だが、次元のほころびは存在した。

「元は、子供の戯れだった。」
 ケイネシアは、事の発端を振り返る。

「ふたつのソゴムの子供が、次元のひずみを見つけて、お互いの交流が始まった。」
 ケイネシアの言葉に、マイ達三人はうなずく。
「子供は無邪気なもんさ。
 姿が少し違っても、普通に受け入れてくれる。
 だが、おとなは、そうじゃない。」
 優しげな表情で語っていたケイネシアが、険しい表情になる。
「異形の子供を、そっちのソゴムのおとなが、撃ち殺したのさ。」

「え、そんな事が。」
 ケイネシアの発言に、マイはショックを受ける。
 ケイネシアは続ける。
「これに、ブルードラゴンが怒ったのさ。」
「なんでそこで、ブルードラゴンが出てくる?」
 いきなり出てきた神武七龍神に、ユアがつっこむ。

「怒りが蓄積されてたんだよな。」
 ケイネシアは説明する。
「ブルードラゴンはケイを取り入れて、人間らしい感情が芽生えたんだよ。
 千年前に、魔族と呼ばれて虐げられた者達に関わって以来、弱者の救済に尽力するようになった。」
「まさか、神武七龍神のブルードラゴンが、人間の、それも弱者のために動くなんて、そんな事があるのですか。」
 ケイネシアの説明に、メドーラは驚く。

 宇宙開闢以前から存在するという、神武七龍神。
 彼らの行動原理は、人智を超えている。
 戯れに人類と関わる事も、少なからずあった。
 だが、人類にも分かるような明確な意志を持って、千年という長期間にわたり、弱者救済というピンポイントな目標を持って行動する事など、本来であれば、考えられない事だった。

「なんせ、ケイの意識を取り込んだからな。」
 メドーラの疑問も、そのひと言で片付いた。
「ケイは惑星ドルフレアの魔族を救った後、全宇宙で同じ目に会ってる人達をも救いたいと考えた。
 神武七龍神のチカラを使えば、それもたやすいだろう。」
「流石ケイだね。」
 マイは嬉しく思った。

「ケイはブルードラゴンとして、宇宙中の虐げられた者達を、かの地に導いた。
 私がブルードラゴンと出会った頃、すでにケイの意識はなかったけど、ブルードラゴンはケイの意志を継いでくれていた。」
「そう、ミイはケイに会えなかったんだ。」
 マイは少し落ち込む。
「だけどケイの意識は感じた。」
 落ち込むマイを、勇気付けるように、ケイネシアは力強く答える。
「そりゃあ、私も最初は落ち込んださ。
 でも、ブルードラゴンと一緒に行動してた、ローラン・ウル・ロトレンスの孫達に説明されて、理解したよ。
 私がケイのために、やるべき事が。」
 ケイネシアが口にした人物に、マイは心当たりがあった。

「ローランって、千年前にケイと一緒に行動してた人だよね。」
「そうだ。私はその孫達と一緒に、ケイの意志を継ぐ事にした。」
 ケイネシアを当時を懐かしむ。
 ケイには会えなかったけれど、ブルードラゴンに感じたケイの意識。
 だがそのケイの意識も、いつしか感じられなくなった。
 完全にブルードラゴンと一体化してしまったのである。

「そして、ブルードラゴンは苦しむ事になる。
 虐待を受ける者達を、長い間、見続けていたのだからな。」
 ケイネシアは、ブルードラゴンがキレた経緯に話しを戻す。

「そっか、子供が殺されて、ブルードラゴンは怒ったんだね。
 ごめんなさい。」
 マイはソゴムの住人の代わりに、謝った。
 それを聞いて、ケイネシアは言う。

「みんながマイみたいだったら、この戦闘もなかったのにな。」
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