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異次元からの侵略者

第94話 本物と偽物

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話。
 人類が宇宙へと飛び出したこの時代、いまだに人類は争っていた。
 それも、過去の時代から、波長の合った魂を召喚してまで。
 召喚された者は、脱出用ポッドにより、死なない戦争を繰り広げていた。
 召喚者はどこか、ゲーム感覚だった。
 しかし、そんな現状が一変する。
 北部戦線に現れた侵略者は、それまでの常識は通じなかった。
 召喚者達にも、死という物が身近に迫る。
 そんな恐怖の戦場、北部戦線にて、ユアとメドーラは、ひとりの人物に出会う。
 彼女は、行方不明になった仲間のケイの姿をしていた。
 ユアもメドーラも、彼女をケイ本人だと信じた。
 だが、彼女の発言内容により、彼女はケイ本人ではないことが、証明されてしまう。


「あんたは、ケイじゃない。誰なのよ?」
 ユアの声が震える。
 信じてた者に、裏切られた気分だ。
 ユアはソウルブレイドのクダを手にする。
 ケイの名を語る人物は、相変わらず微笑んでいる。

「メドーラ、ごめん。こいつはケイじゃない。離れろ。」
 ユアの言葉に、メドーラはうなずき、数歩後ろへ下がる。

「いやだなあ。私だよ、ケイだよ。」
 その人物は、あくまでケイの名前を語る。
「ケイの名を語るなぁ!」
 ユアはソウルブレイドの剣を展開する。
 その剣先を、その人物に向ける。
「もう一度聞く。おまえは誰だ?」
 ユアの表情は真剣だ。

「それは、君がよく知ってるんじゃないかな。」
 ケイの姿をした人物のこの発言に、ユアは剣を振り下ろす。
 だが、ケイの姿をした人物は、素早く右の方へ移動して、ユアの剣をかわす。

 ユアは戦慄する。
 こんな動き、ケイには出来ない!
 ユアの剣をかわすには、達人の域に達してないと、ほぼ不可能だ。
 何気なくかわしたように見えるが、ユアはこれだけで、この人物がかなりのツワモノだと認識する。
 だからこそ、戦慄したのだ。

 ケイの姿をした人物は、剣をかわした動きから、そのまま次の動作に移る。
 完全に虚を突かれたユアは、反応が遅れる!
 ケイの姿をした人物は、なんと、いきなりユアの胸をもむ!

「ひゃん!」
 ユアは咄嗟に両手を交差させて、相手の腕を弾く。
 その際、ソウルブレイドを落としてしまった。
 後で、叩き斬るべきだったと、後悔する事になる。
 そのまま後ろへバックステップ。
 そのバックステップは不格好で、つまずいてこけそうになる。
 ユアは軽くジャンプすると、両膝を曲げて、そのまま着地する。
 ジャンプと言っても、両膝を同時に曲げただけだったが。

「何すんのよ、いきなり!」
 ユアはしゃがんで両手を胸に当てたまま、ケイの姿をした人物をにらむ。
 その人物はニヤけたまま、ユアの胸をもんだ手を、にぎにぎする。
「ふーん、君はそんな反応をするんだ。」
 その言葉にユアは、もう一本のソウルブレイドのクダを、光線銃に変える。
 ユアは目の前の、ケイの姿をした人物に狙いをつける。

「ユアお姉さま、おちついてください。」
 銃を持つユアの右手に、メドーラは左手をそえる。
 そして目の前の相手をにらむ。
「あなたは、何がしたいんですか、私達の敵ですか!」

 ケイの姿をした人物は、メドーラの問いかけに答えず、にやりと笑う。
「君は、どんな反応を見せてくれるのかな?」
 そのままメドーラに近づくと、メドーラの胸に手を伸ばす。
 メドーラは右手でその手をはたき落とすと、そのまま裏拳を顔面にぶちこむ!
 だが、相手にバク転されてかわされた。

「へー、君はそういう人だったんだ。」
 ニヤけた笑顔とあいまって、メドーラもユアも、心の底からゾッとする。
「こいつは、やっぱりケイじゃない。ただの変態だ。」
 心のどこかでは、まだケイだと思いたかったユアも、ここできっぱりとその気持ちを否定する。
 ユアは左手で胸をおさえ、右手に光線銃を持ったまま立ち上がる。

 ユアが决め顔で語ってる横で、メドーラは思った。
 ケイお姉さまなら、普通にやりそうだと。

 ユアは胸をおさえてた左手をだらりと下げると、床に転がるソウルブレイドの剣を引き寄せる。
 ソウルブレイドは展開状態なら、使い手の意思で、思うように操れる。
 ユアは引き寄せたソウルブレイドの剣を左手に握ると、右手の光線銃を下にさげ、左手に握った剣先を、相手に向ける。
「おまえのようなヤツを見てると、ムシサンがはしるぜ!」
 ユアはそう吐き捨てるのだが、他のふたりはキョトンとしてしまう。

 むしさん?
 メドーラは虫が走る姿を想像し、気持ち悪いって意味なのかな、と思った。
 だが、ユアのパートナーであるサポートAIのユウには、分かってた。
「ユア、虫酸と書いて、むしずと読むのよ。」
 ユウの言葉は、ユアにしか届かない。
 だがユアの顔も、少し赤くなる。
「い、今はそこに触れなくていい。」
 ユアは赤くなった顔をうつむかせる。
 それを見て、メドーラも察してしまう。
「か、漢字の読み方なんて、ふりがなふってないと、分かりませんですわよね。」
 メドーラがフォローに入るも、ユアはうつむいた顔を、さらに赤くするだけだった。
「い、今はそこに触れなくていい。」

「ぷ、ははははは。」
 ユアとメドーラとのやりとりを見ていた謎の人物が、突然笑いだす。
「だ、誰にでも読み間違いくらい、あるでしょ!」
 ユアは思わず反論してしまう。
「ごめんごめん。いやあ、本物の君達は、こんなやりとりをするんだなぁって思ったら、おかしくなっちゃって。」
 謎の人物は、なぜか普通に謝ってくれた。

「本物?」
 メドーラはその言葉に引っかかる。
「まるで、偽物の私達には、お会いしてるみたいですわね。」
「ああ、会ってるんだよな。」
 謎の人物の口調が、笑い声から、含みを持たせた感じの口調に変わる。
「なんですって?」
 メドーラも驚きの表情を浮かべる。

「ふふふ。」
 メドーラの表情を見て、不適な笑みを浮かべる、ケイの姿をした謎の人物。
「じゃあ、会わせてあげるよ。」
 謎の人物が指先をパチンと鳴らす。
 すると、ふたりの人物が、この部屋の中に入ってきた。

「な。」
 ユアもメドーラも、その人物を見て驚く。
 その人物達の姿は、ユアとメドーラだった。
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