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異次元からの侵略者

第81話 異次元からの侵略者

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話。
 この時代に召喚されたマイは、行方不明になった仲間のケイを探しに、惑星ドルフレアに行ってきた。
 ケイは罠にはめられ、千年前の世界に飛ばされていた。
 結局、ケイを探し出して連れ戻す事は出来なかった。
 マイ達がケイ捜索に帆走していた時、北部戦線では激しい戦闘が行われていた。
 実力者として名が知られているあのリムも、重症を負ってしまう。
 そんな北部戦線とは、どんな戦場だったのだろうだか。

 その者は、突然現れた。
 ブルレア連邦の北の端に、何の前触れもなく現れた。
 そして侵略が始まった。
 以上、説明おしまい。
 それほど情報が無かった。
 別に、考えつかないとかではないからね。
 そりゃあ、創作活動には、ある一定以上の精神力が必要になる。
 それが過労で尽きてるとか、今は関係ないからね。

 この宇宙には、三つの勢力圏がある。
 マイ達の所属するブルレア連邦。
 メドーラがいたレドリア合衆国。
 それともう一つグリムア共和国。
 だが、広大な宇宙に、この三つだけとは限らない。
 この三つの勢力圏にも知られていない勢力が、あっても不思議ではない。
 それにこの作品には、多次元空間なるものがある。
 それは、異次元の存在を意味している。
 この異次元に召喚されて無双する事も、可能かもしれない。
 そう、北部戦線はまさに、異次元転生者に無双されて蹂躙されたというに、ふさわしかった。

 マイ達の脳裏に、その映像が浮かぶ。
 戦闘機の性能が段違いだった。
 敵の戦闘機は、レーザー光線よりも早かった。
 敵の戦闘機がこちらの集団を突っ切ると、こちらの戦闘機は次々と誘爆する。
 脱出用ポッドも機能する前に爆破され、戦死者は続出。
 一方的な戦場だった。
 腕の良いパイロット、性能の良い戦闘機。
 そのふたつがあって、初めて生き残れた。
 そんな戦場だった。
 シリウスシリーズの機体に乗るリムとマインでさえ、生き残るのが精一杯だった。

 敵は、四日間休まず攻め続け、その後三日間は完全に姿を消した。
 そして次の日から四日間、休まず攻め続ける。
 これの繰り返しだった。
 味方の戦力として、レドリアとグリムアの精鋭部隊も駆けつける。
 人は、未知の敵、共通の敵を前にして、初めて協力しあえるのかもしれない。
 だがその戦闘は、今までにない規模で、凄惨な戦闘だった。
 リムが落とされ、マインも撃墜された。


「こんな事が。」
 脳裏に浮かぶ北部戦線での戦闘の記録。
 それを見せつけられたマイは、言葉も無かった。
「酷すぎます。敵は誰なのですか。」
 メドーラのその問いに、答えられる者はいなかった。
「異次元からの侵略者。そう定義されてるようです。」
 メドーラのパートナーであるアイツウが、今言える範囲での事を告げる。
 それは、何も分かっていないのと同義だった。

「マインは、無事なの?」
 しばらく続く沈黙を、ふとマイが破る。
「メディカルルームに居るわ。会ってくれば?」
 そう答えるナコは、笑顔だった。
 それはマイの知るいつものナコの様だった。
 だが、いつもとは違い、何か裏のある、含みのある笑顔であると、マイは感じた。

「だめ、あわないで。」
 リムは右半身がほぼ動かない口で、なんとか言葉にする。
「無理しちゃ駄目よ、リム。」
 ナコはマイに向けてた笑顔を、そのままリムに向ける。
 そう、何か裏のある笑顔だ。
 リムは、思わず涙があふれる。
 ナコをこんなにしてしまった不甲斐なさ。
 その無念な思いが、こみ上げてきた。

「どうしたの、リム。」
 リムの涙見て、ナコは優しく話しかける。
 まるで母親が泣く子をあやすように。
「ナコ、ごめんなさい。」
 リムは動かせる左腕を上下させる。その動作で、ナコを手招きする。
「どうしたの、リム。」
 近づくナコ。
 リムの左手は、近づくナコの頭をがっちりつかむ。

「最初から、こうしとくべきだったわ。」
 この言葉を発したのは、ナコだった。
「ナコの声帯を借りたわ。これで自由に話せるわ。」
 話してるのはナコだが、その意思はリムのものだった。

「えと、リム?リムが話してるの?」
 マイは目の前で起きてる状況を、なんとか理解する。
「そうよ。ナコはあんた達に怒ってるからね。
 私の意思を代弁する気もないみたいだから、最後の手段よ。」
 召喚者とパートナーであるサポートAIは、額のチップで意思疎通が出来る。
 サポートAIは、召喚者の気持ちを代弁する事も出来る。理論上は。
「すっごーい、そんな事も出来るんだ。」
 マイはリムが今やってる行動に、驚く。
「私達の身体はアバターでしょ。サポートAIはアバターに合わせて作られてるから、これくらい出来て当然よ。」
「へー、そうなんだ。」
 マイもおもむろにアイの頭に左手を置いてみる。
「あのう、マイ、これはなんのマネですか?」
 アイはマイに乗っ取られる事なく、自分の意思で言葉を発する。
「あれ、出来ないじゃん。」
「出来るわけないじゃん。」
 マイの疑問に、ナコが答える。
 これはリムの意思ではなく、ナコ本人の言葉だった。
「アイはあんたのために作られた訳じゃ、ないからね。」

 そう、初めにアイが作られた。
 そのアイに見合った魂の波長の持ち主として、マイが召喚された。
 それも、十人目であった。
 先に召喚された九人は戦死している。
 これはシリウス構想におけるアイの特別性を意味してるのだが、今は関係ない事である。

「そんな事はどうでもいいから。マイ、あんたマインに会うつもりなの?」
 リムがナコの声帯を通じて、マイに問う。
「そりゃあ、会いたいよ。心配だもん。」
 マイは即答する。
「マインは、私より重症よ。」
「え?」
 リムのその言葉に、マイは言葉を失う。

 リムは、右半身が軽く麻痺していて、車椅子に座ってる。
 右脚が動かないし、右腕も肘から先が動かない。
 しゃべるのもままならず、ナコの声帯を借りてる状態だ。

 マインは、これより酷いのか。
 そんな思いが、マイの脳裏をよぎる。
 だが、そんな弱気な想いを、すぐに払拭する。
「僕は、リムとマインのためにも、戦わなくちゃいけない。
 リムとマインの現状を、知る必要がある。」
 マイは力強く答える。
「私は、マイお姉さまを支えます。」
 メドーラもマイと同様に、力強く答えて、マイの手を握る。

 リムはにこりと笑う。
「そう、頼もしいわね。マインはメディカルルームにいるわ。
 後は、頼むわね。」
 ナコの声帯を借りてリムはそう言うと、ナコの頭からリムの左手が落ちる。
 同時に、リムは眠りについた。
 リムの支配から解放されたナコ。
「リムは、あなた達を恨んでないみたいね。」
 ナコはマイ達に視線を向けると、そう告げる。
「でも、私は違う。あなた達がいれば、リムもこうはならなかったわ!」
 ナコの瞳に、涙がにじむ。
 ナコは涙を見られないよう、マイ達に背を向ける。
「あなた達に何かあったら、リムもあなた達を恨むわ。
 絶対死ぬんじゃないよ。」
「僕達は死なない。」
 マイはナコの言葉に即答する。

「リム、仇はとるからね。」
 マイはそう言い残すと、メディカルルームへ向かう。
 マイの後に、メドーラとアイとアイツウが続く。
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