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異次元からの侵略者

第80話 傷ついたプロローグ

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話。
 この時代に召喚されたマイは、行方不明になった仲間のケイの捜索任務を終え、惑星ドルフレアから巨大宇宙ステーションに帰還した。
 結局ケイは見つからなかった。
 それと同時に、ケイのパートナーであるサポートAIのミイも、惑星ドルフレアから帰れなくなった。
 ケイが過去の時代に飛ばされた事が判明した時点で、任務は終了のはずだった。
 しかし、ケイの残したメッセージにより、任務を続行した。
 この続行の判断は、間違いだったと言える。
 ケイは結局、帰ってこなかったのだから。
 マイとメドーラの報告を受けたジョーは、激怒した。
 任務の続行は無意味だったからだ。
 それに反論するマイであったが、ジョーは聞く耳持たなかった。
 今の戦局が、それを許さなかった。


「はあ、あんなに怒んなくてもいいのにね。」
 司令室から出てきたマイとメドーラ。
 ふたりの後ろには、サポートAIのアイとアイツウが続く。
「お兄さまがあんなにおっかないなんて、私、知りませんでしたわ。」
 初めてみるジョーの怒りっぷりに、メドーラもショックを受ける。
「だけど今、何が起きてるの?」
 マイは後ろに続くアイ達に尋ねる。
「そうですわ。お兄さまがあんなに怒るんですもの。きっと大変な事に間違いありませんわ。」
 メドーラもマイと同じ気持ちだ。今何が起きてるのか、それを知りたい。

 アイとアイツウは、お互い顔を見合わせる。
 このふたりを見分けるポイントは、アイツウの右目の目尻にあるほくろだけだ。
 アイツウが右を向いて左側を前にしている今、このふたりを見分ける事は出来ない。
「私達も詳しくは分かりません。何やら、大きな戦闘があったようです。」
「今は落ち着いたみたいですが、戦闘は長く続いたようです。」
 先にアイが答え、その後をアイツウが補足した。

 サポートAIは任務中、専用のカプセルに入って、パートナーの召喚者と交信している。
 そのため任務中は、カプセルの外で何が起きてるのか、分からない。
 しかし、今回のケイ捜索任務は、そんなに密なサポートは必要なかった。
 つまり、かなり暇だった。
 惑星ドルフレアの情報も、ケイが上げた報告以上の事は、サポートAIも知らない。
 やれる事は現地語との翻訳作業くらいだが、それはチップのフルオート機能でなんとかなる。
 そんな状況なので、カプセルの外に出て、居酒屋に飲みに行くのもざらだった。
 召喚者とのやりとりは、カプセルの外でも出来る。
 ただ、綿密なやりとりが出来ないだけだ。
 先のケイ捜索編で、アイ達の台詞が少なかったのはそのためだと、後付けしとく。
 カプセルの外に出ても、ジョー達はピリピリしていた。
 アイ達も一応任務中であるため、話しかけられなかった。
 だが、周りから入ってくる会話から、北部戦線で激しい戦闘が起きてる事は分かった。

「ラウンジに行きましょう。そこにリムとナコが居ます。」
 サポートAIは、お互いのネットワークを持っている。
 これも専用のカプセル内にいる時は、意識を共有するみたいに同調出来る。
 普段でも、お互いの位置探知くらいは出来る。
 その気になれば、テレパシーみたいな会話も可能だ。

 マイ達は、ラウンジに向かう。
 ラウンジに入ってマイ達が見たのは、車椅子に座るリムだった。
 ナコは車椅子の後ろに立って、車椅子を押している。
 ナコはマイ達を見ると、つかつかと近づいてくる。
 そして、いきなりマイとメドーラを殴る。
「あなた達は、何をやってたのですか!」
 ナコは怒っている。
 マイは、いつもにこやかなナコしか知らない。
 そのナコがこうも怒ってるのだ。
 凄く申し訳ない気持ちになる。
「あなた達も、あなた達です!」
 ナコの怒りは、アイとアイツウにも向けられる。
「今何が起きてるのか、分かってたでしょ。なんでふたりを呼び戻さなかったのよ!」
 アイとアイツウは、返す言葉がない。
 ふたりはマイとメドーラの意志を尊重したかった。
 もし中断命令があっても、しらばっくれてただろう。

「ナコ、やめて。」
 リムは車椅子から声をかける。
 その声は、以前の元気のいいリムの声ではなかった。
 満足に言葉を話せないなか、なんとか言葉にしたような、たどたどしい言葉だった。
「リム、無理しないで!」
 ナコはリムに駆け寄る。
 リムは今、右半身が軽く麻痺していた。
 右脚はまったく動かず、右腕も肘から先は、感覚がなかった。
 立派だったツインテールも、今は首の後ろで一本に縛られている。
「マイ、メドー、きにしないで。」
 リムは駆け寄るナコを無視して、マイ達に話しかける。

「わたしだって、おなじことを、した、おもうわ。
 ケイを、みすてる、できない、よね。」
 リムはほほ笑みかける。
 だが、右半身は軽く麻痺しているため、その笑顔はいびつだ。
「リム、ごめんなさい。」
 マイは車椅子のリムの左側にしゃがみこむと、リムの左手を両手で握る。
「ごめんなさい。」
 マイは握りしめたリムの左手を、自分の額にあてる。
「だから、あやまらないで。わたしも、おなじこと、した。」
 リムの言葉に、マイは頭を上げられない。
 身体が小刻みに震える。
 最早、なんて言葉をかけたらいいのか、分からなかった。

「ナコさん、教えて下さい。何があったのですか。」
 この状況に耐えられず、メドーラはナコに問いただす。
「ええ、教えてあげるわ。北部戦線での出来事を。」
 そう言うナコの表情がゆがむ。
「だめ。言葉に出来ないわ。」
 ナコは涙を流す。
「アイとアイツウに伝えるから、あとはふたりからダウンロードしてちょうだい。」
 ナコは眼を閉じると、北部戦線での出来事を、アイとアイツウに伝える。
 サポートAIであるこの三名は、意思の共有が可能だった。

 そして、アイとアイツウから、マイとメドーラは北部戦線での出来事を知る。
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