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惑星ファンタジー迷走編

第74話 山のほこらを目指して

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話。
 この時代に召喚されたマイは、行方不明の仲間のケイを探しに惑星ドルフレアに来ていた。
 ケイは千年前にタイムスリップしていて、千年後のマイ達に、三つの封印のほこらを託した。
 ひとつ目のほこらの封印を解き、ふたつ目の山のほこらに向かう途中、立ち寄った冒険者ギルドでゴンゴル三姉妹のエアレーに出会う。
 エアレーは復讐に燃えるのだが、この星に来た任務のため、復讐は宇宙でつける事にする。
 エアレー関連のお話しだったため、出番の無かったローラスが冒険者ギルドで馬を借りていて、一同は山のほこらを目指す。


「何があったのか、私は聞かないわ。」

 冒険者ギルド内で号泣していたメドーラ。
 それを優しく抱きしめるマイ。

 メドーラが落ち着いた頃、ローラスが声をかけた。
 ギルド内は異様な雰囲気に包まれていた。
 エアレーがマイに斬りかかった時から、その異様な雰囲気は続く。
 マイとメドーラがロトリアの冒険者ギルドでしでかした事は、ここアムテッドの冒険者ギルドにも伝わっている。
 もしここでも問題行動起こしたら、ふたりは冒険者ギルドへの立ち入りを禁止され、冒険者としての身分を剥奪されていた。
 それは、この星での自由な往来を禁じられたのも同じで、この星での任務が出来なくなる。
 それこそ、エティコで縮緬問屋にでも引き篭もるしかない。

「ごめん、そうしてもらうと、僕も助かるよ。」
 冒頭のローラスの言葉に、マイは前回の回想を思い出した後、答える。
 ゴンゴル三姉妹、エアレーとメドー。
 宇宙で起きた出来事を、宇宙を知らないこの星の人間に語る事は出来なかった。
 それは千年前から、ケイとの因縁のあるローラスも、例外ではない。

 マイ達は、馬を走らせる。
 山のほこらへ向かって。
 山のほこらは、鉱山の側にある。
 人の往来の激しいこの場所では、戦闘機をはじめとした、この星にはない乗り物が使えない。
 だから馬を走らせる。
 マイもメドーラも、馬に乗るのは初めてだった。
 しかし、すぐに乗りこなす事が出来た。
 サポートAIであるミイは、この星の人間であるローラスとふたり乗りだ。
 ローラスはここ数話出番がなかったので、説明が必要かもしれない。
 ローラスは千年前に魔王を倒した勇者ローランの子孫である。
 勇者ローランと共に旅をしたケイは、勇者の子孫とマイに、封印のほこらを託したのである。

 今回初めてこの作品を読むお友達のためにも、説明は必要だろう。
 けっして文字数稼ぎではない。

「つけられていますわね。」
 それは、アムテッドの街に着く前から感じていた。
 街中では襲ってこなかったが、街の外なら襲ってくるだろう。
「いや、その心配はないじゃろ。」
 追っ手の襲撃に気を張るみんなを見て、ナツキが声をかける。

 ナツキは神武七龍神のひとり、グリーンドラゴンが化身した少女。
 その姿を顕現出来る場所が限られてるため、サポートAIのミイの身体に憑依している。
 憑依されたミイも、意識はある。
 ミイの身体に、ミイとナツキのふたりの意識が混在する。

「それって、どういう事?」
 ナツキの言葉に、一緒の馬に乗るローラスが問いかける。
「ほほほ、山のほこらの位置は、誰にも分からん。
 ヤツらはほこらまでつけてくるつもりじゃろうて。」
「それって、ヤバいじゃん。」
 ナツキの言葉に、マイは思わず馬を止める。
 他のふたりもつられて、馬を止める。
「どうしたの、マイ。」
 馬を止めたマイに、ローラスはその理由を尋ねる。
「ここは僕が食い止めるから、ふたりは先に行って!」
 マイは叫ぶ。
 前回のエアレーとのやりとりで、だいぶ気がたっていた。
「え、でも。」
 ローラスはマイがこの場に残るという選択肢が、考えられなかった。
「いいから、早く!」
 戸惑いこの場を離れないローラスとメドーラに、マイはいらだつ。
 高ぶる怒りを、このふたりにもぶつけてしまいそうだ。
「マイお姉さま、落ち着いてください!」
 メドーラがそんなマイをたしなめる。
 マイはメドーラを睨む。
 メドーラはひるまない。
「早く行きなさい!追っ手は僕がやっつけるんだから!」
「マイお姉さま!」
 ぱしん。

 激昂するマイの頬を、メドーラがはたく。
「ごめんなさい、マイお姉さま。ですが、忘れないでください。
 封印を解けるのは、マイお姉さまとローラスさんだけなのです。」
 メドーラの言葉に、マイはうつむく。
「でも。」
 マイはこの場に残りたかった。
 怒りをぶつけたかった。
「マイお姉さま、私のために怒ってくださって、ありがとう。」
 メドーラはマイの気を汲んで、優しく声をかける。
「マイお姉さまは、ステーノの時も、怒ってくださいました。」
 メドーラは、ステーノが宇宙ステーションを襲撃した時の事を思い出す。
 あの時も、ステーノの言葉にマイはキレた。
「今度も、私のために怒ってくださって、私は嬉しいです。」
 メドーラの言葉を聞いて、マイの閉じた瞳から涙が溢れる。
 マイは、別にメドーラのために怒ったのではない。
 ただ自分の感情のままに怒っただけだ。
 それを、メドーラがその様に思ってくれて事は、嬉しかった。
 そして、自分が恥ずかしく思えた。

「ですが、マイお姉さま。」
 メドーラの優しかった口調が、厳しい口調へと変わる。
「はき違えないでください。マイお姉さまの怒りをぶつける相手は、エアレー本人です。こんな雑魚どもでは、ございません!」
 その言葉に、マイの閉じた瞳が開かれる。
「そう、だね。」
 マイはメドーラの言葉に、我にかえる。
「ごめん、メドーラ。」
 メドーラに謝ったマイは、ローラス達の方へと振り向く。
「ごめん、ローラス、ナツキ、ミイ。」
 マイはもう一度メドーラの方に振り向く。
「メドーラ、ここは任せたよ。」
「はい、マイお姉さま。任されました。」
 メドーラは笑顔で答える。その瞳には光るものがあった。

「行こう、みんな!」
 マイはローラスに声をかけると、馬を走らせる。
 ローラスも後に続く。
 ひとり残されるメドーラ。
「ええ、マイお姉さま。怒ってるのは、マイお姉さまだけではございませんですわ。」
 メドーラはひとりつぶやくと、馬を降りる。
「私の怒りも、爆破寸前でございますわ!」
 メドーラは両手を地面にかかげ、紫系のマナを注ぐ。
 地面からは五体の泥人形が現れる。

 メドーラは追っ手を迎え撃つ!
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