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宇宙召喚編

第14話 滅んだ?民族の誇り

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話。
 この時代に召喚されたマイは、三国対抗の星間レースにブルレア連邦代表として、参加する事となった。
 代表者はマイ、ユア、ケイの三人。
 対する相手の発表は、まだ先だった。
 勝利を期待されていないこのレース、これに勝つ事を考えると、マイのわくわくがとまらなかった。


 マイは、部屋を出ていった銀髪のロングヘアの召喚者を追いかける。
「あの、待ってくださぁい。」
 走り寄ってくるマイの声に、銀髪の召喚者は立ち止まって振り返る。
「あの、あなたも日本人なんですか?」
「何?」
 マイの言葉に、銀髪の召喚者はマイを睨みつける。
「日本刀って、知ってたじゃないっすか。」
「黙れ、くそジャップ!」
 銀髪の召喚者は、右手でマイの口元を鷲掴みにし、そのまま壁に叩きつける。
「日本刀を知ってただけで、日本人だと?図に乗るなよ、劣等民族が!」
「れ、劣等って、ひどいよ。」
 壁に叩きつけられたマイは、なんとか口を開く。
「そ、そりゃあ、この時代には滅んでるみたいだけどさ、」
「何?」
 マイの言葉を聞いて、銀髪の召喚者の握力が鈍る。
 マイはその手を振り解く。
「それって、禁則事項だぞ。」
 銀髪の召喚者は、考えこむ。

 禁則事項とは、その者に知られてはならない事。
 主に、その者の将来に関わる事が、それに当たる。
 マイにとっては、はるか未来の事とはいえ、日本人の絶滅なんて知ってはいけない事だ。
 それをなぜ、マイは知ってるのだろうか?
 そして、それを知ってしまったらには、ここにはいられない。
 記憶を消去され、元の時代に戻された後、徐々に衰弱死に向かう。

「なんでそれを知ってるんだ?」
「ジョーが教えてくれたから。」
「何?」

 マイの解答に、さらに疑問が深まる。
 だけど同時に、見えてきたものもある。マイの特別性。
 メカニックマンという肩書きではあるが、実質このチームの司令官。
 そんなジョーが、あえて教えた。
 これには、何かある。
「なあ、ふたりきりで話しがしたいなあ。」
 銀髪の召喚者は、顔はマイに向いてるが、自分のサポートAIに対してそう言った。
「そうですね。あなたの気のすむように。」
 そう言って銀髪の召喚者のサポートAIは、マイのサポートAIであるアイと、がっしり肩を組む。
 そしてそのまま歩きだす。
「あの、ミサさん?何するのかしら?」
「なあ、たまには私達も、話し合わないか?アイ。おまえには聞きたい事があるんだよ。」
「私には無いですよー。」
 ふたりのサポートAIは、その場を後にした。
 残されたのは、マイと銀髪の召喚者のふたりだった。

「紹介が遅れたな。私はマイン。西暦2300年のハワイから来た。」
「ぼ、僕はマイ。西暦2020年頃の日本の、あれ?日本のどこから来たのでしょう?」
 マインという銀髪の召喚者の自己紹介に、つられたマイであったが、自分の出身地が分からなかった。さらに言えば、年代も定かではなかった。

「なるほどな、記憶が定かではないのか。なら禁則事項に少しくらい触れても問題ないって事か。」
 マイの様子を見て、マインはそう確信する。
 この確信が正解なのか、今のマインには分からない。
「あの、西暦2300年って事は、何か知りませんか?日本について。」
 西暦2000年頃からはその存在が曖昧になって、西暦3000年には確実に滅んだとされる日本。
 西暦2300年のマインなら、何か知ってるかもしれない。
 その時代、日本はどうなっていたのだろう?
「それは、私の口からは言えないな。どこから禁則事項なのか分からないからな。」
「そう、ですか。」
 マインの言葉に、少し落ちこむマイ。
 そんなマイを見て、自分が言える範囲の事を、マインは口にする。
「マイ個人ならそこそこ優秀っぽいが、集団になると、ダメだ。」
「なんの事ですか?」
 マイは、マインの言わんとする事が分からない。
「おまえら日本人の事だよ。とにかく個性を潰す。昆虫のコロニーのような人種だろ。」
「そう、ですね。だから滅んだのかな。」
 マインの言葉は、マイにとってどこか納得のいくものだった。
 そしてマインも、この言葉を口にして、何か分かった気がした。

 シリウス構想。
 個性を潰された日本人ほど、この構想にはふさわしいのかもしれない。

 そしてマインは言葉を続ける。
「私のおばあちゃんのおじいちゃんが、日本人だった。」
 マインのその言葉に、マイはやっぱりと思った。口にはしなかったが。
 ハワイという土地柄、日系人が多い気がするのは、マイの偏見かもしれない。
 ふたりの外見はアバターであるが故に、その外見からは人種の判断が出来ない。
 その行動と言動によって、推測するしかないが、それこそ偏見なのかもしれない。

「私は、私の中に流れる劣等民族の血が、死ぬほど嫌だった。」
 マインは、それで馬鹿にされた日々を思い出す。
「ちょっと待ってよ。マインはマインでしょ。」
 マインはその言葉にハッとする。そして怒りの感情もわいてくる。
 言わないでくれ、その先を。
 とマインは思った。
「マインはマイン。僕は僕だよ。劣等民族だなんて、関係ないから!」
 その後、しばしの沈黙。マインはマイの言葉の続きを待っていた。
 その様子に、マイも何か異質なものを感じとる。
「マイン?」
 マイの呼びかけで、マインは安堵する。
「その言葉、よくおばあちゃんが言ってたよ。マインはマインだって。劣等民族だなんて関係ないって。
 でも、その後にこう続けるんだ。日本人としての誇りを忘れるなって!」
 マインはその言葉を口にする事で、怒りの感情が込み上げてくる。
「私は、アメリカ人だ!アメリカ人の誇りはあっても、劣等民族の誇りなんて無い!無いんだよ…。」
 マインがいくら否定しても、その体に日本人の血が流れているのは、事実である。
「そんな誇りなんて、どうでもよくない?」
 マイには、マインの気持ちがいまいち分からない。民族の誇りみたいな事を言ってるが、その前に自分は自分だし、民族なんて大きな括りよりも、まずは自分自身の誇りの方が大切ではないのか?
 そんな事を考えているマイに、マインは言う。
「劣等民族だろうが、自分の民族に誇りを持てないヤツは、もっとくずだ!」
「そんな誇り、持ちたくないよ。」
 マイは、自分の薄れた記憶をたどっても、日本人としての誇りなんてものを、感じる事は出来なかった。
 どちらかと言うと、恥ずかしいぞ。
 そんなマイを見て、マインは何か分かった気がした。
「なるほど、そりゃ滅ぶわ。自分の民族に誇りを持てないんじゃな。」
「何?」
 マイも少しカチンとくる。
「ユダヤ人を見てみろよ。あいつら紀元前に国を滅ぼされたのに、しぶとく残ってただろ、おまえの時代でも。
 民族の誇りを持つって事は、そう言う事だ。」
 そのマインの言葉に、マイも納得してしまった。
 少なくともマイの時代、日本人である事に誇りを持っている日本人は、そう多くはなかった。
 これは時代のウネりの中に消えたとしても、歴史の必然だとしか思えない。

 そして、ここで疑問が浮かぶ。

 なぜマインのおばあちゃんは、日本人としての誇りを持てと言うのだろう。
 ああ、そうか。
 その答えは、マイにはすぐに分かった。
「おばあちゃん、おじいちゃんの事が大好きだったっんだよ。」
「え?」
 それは、マインが考えた事も無かった事だった。
 民族の誇りなんて分からず、個人の誇りの方が大事だと思うマイだからこそ、導き出された答えだった。
「大好きなおじいちゃんの血に、誇りを持ってたんだよ。」
「そう、なのか、?」
 確かに、そう考えると納得がいく。しかし、そんな単純なものなのだろうか?
「マインは、おばあちゃんの事嫌いなの?」
 その言葉に、マインは思わず涙ぐむ。
 日本人の誇りを持てと、しつこく言ってきたのは嫌だった。
 でも、それ以外の事は…。

「大好きだったよ、おばあちゃん。」
 それは、マインが自分の体に流れる日本人の血に、誇りを持てた瞬間だった。
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