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第23話 龍脈の変調

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 緑の国の龍脈のパワースポットである、鳳凰谷を目指すユウト達は、その道中で野宿した。


「ふわー。」
 森の中の開けた場所で、ユウトは目を覚ます。
 こんな屋外で眠れるかよ、と思ってたユウトだが、普通に爆睡してしまった。
 これは龍脈を通じて、緑の王妃様が優しく見守ってくれてたからなのだが、ユウト達には分からなかった。

「遅いわよー、ユウト。」
 フィーナの声に、ユウトは振り向く。
 見ると、フィーナもミクもさっぱりしていて、焚き火でお魚を焼いている。
 ふたりとも近くの川で、朝の水浴びをしてきて、ついでに朝食のお魚を調達してきた。
 青の水魔法と緑の風魔法があれば、造作もない事だった。

「おはようございます、ユウト様。」
「ん、おはよう。」
 ミクは寝ぼけまなこで近づくユウトに、焼けたお魚を渡す。
 お魚を受け取ろうとするユウトの手を、フィーナが握る。
「ダメでしょ、ユウト。
 ちゃんと手を洗わなくっちゃ。」
「えー、めんどくさいー。」
「わがまま言わないの、お魚食べたくないの?」
「じゃあ、食べさせてよ、あーん。」
 ユウトは目を閉じたまま、大きく口を開ける。

 ユウトは連日の連戦で、疲労が溜まっていた。
 そして緑の国の龍脈のそばで、眠りについた。
 この龍脈には、緑の国の王妃様が調整した魔素が流れていて、リラックス効果は絶大だった。
 そのリラックス状態から、ユウトはまだ戻ってこない。

「あーん、フィーナ、あーん。
 いじわるしないでよー、あーん!」
「あーもう、しつこいわね。」
 ユウトは口を開けて、フィーナにつきまとう。
「くすくす。なあに、ユウト様ったら。」
 そんなユウトに、ミクも笑いが止まらない。

「ミクさーん、フィーナがいじめるー。
 お魚くれないー。」
 ユウトはミクの声に反応して、今度はミクに泣きつく。
「はいはい、ユウト様。お魚ですよー。あーん。」
 ミクは近づくユウトに、お魚を食べさせる。
「あーん。」
 ユウトは、しゃがんだままのミクに、よつんばいになって、口を開けて近づく。

「んぐ!」
 そんなユウトの首根っこを、フィーナが背後から引っ張る。
「何すんだよ、フィーナぁ。」
 ユウトは寝ぼけまなこのまま、フィーナをにらむ。
 そんなユウトに、いつもの迫力はないのだが、フィーナはある異変に気づく。

 今の衝撃でも、ユウトは寝ぼけたままだ。
 正気に戻らない。

 フィーナはユウトの首根っこを掴んだまま、歩き出す。
 首がしまって、声が出ないユウト。
「な、何してんですか、レスフィーナさん。」
 突然のフィーナの奇行に、ミクも驚いて後を追う。

 フィーナは川原までユウトを引きずると、そのままユウトを川に放り投げる。
「な、レスフィーナさん?」
 フィーナの奇行もここまで来ると、ミクはドン引き。
「ねえミク、夕べはどこまで結界魔法張ってたの?」
 そんなミクに、フィーナは唐突に話しかける。
「え、結界魔法、ですか?」
 ミクはフィーナの行動についていけない。
 唐突に聞かれても、その意図が分からず、戸惑ってしまう。

「私は広めに張ってたつもりだったんだけど、ユウトが寝てた場所までは、カバーしてなかったわ。」
 ミクからの答えがないので、フィーナが先に答える。
「わ、私もです。」
 ミクはやっと、フィーナの意図が分かった。

「私は焚き火くらいまでしか、張ってませんでした。
 ユウト様が、あんな所で寝るなんて、思わなかったから。
 ユウト様は、なぜあんな場所で寝たのかしら。
 私のそばが、一番安全だと言うのに。
 それをあんな場所で寝るなんて、自殺願望でもあるのかしら。
 は、まさか、レスフィーナさんと喧嘩して、居づらくなったとか。」
「してないわよ、喧嘩なんか。」
 と喧嘩を否定するフィーナだが、ちょっと心がいたむ。
 ユウトを遠ざけたのは、自分なのだから。

「ひどいよ、フィーナぁ。」
 川からあがって来たユウトも、正気に戻った様子がない。
 そんなユウトを見て、フィーナは確信する。
 ユウトの身に起こった事を。

「ねえ、今緑の王妃様って、どんな状態なの。」
 フィーナはミクに尋ねる。
「それは、」
 と言ってミクは、ハッとする。

 ユウトは龍脈を流れる王妃様の意識に、毒されてしまったのだ。

「ねえ、答えてよ、緑の王妃様って、どんな状態なのよ。」
 ミクから答えが返ってこないので、再び尋ねるフィーナ。
 フィーナの声には、涙が混じる。

「お、お母様、み、緑の王妃は今、安らぎ魔法を使い続けていて、よ、幼体化、」
 そこまで言うと、ミクは膝から崩れる。
 今のユウトの姿が、ミクの母である緑の王妃に重なったのだ。

 緑の王妃様は、魔素の淀みからくる魔石獣の凶暴化に対して、リラックス効果のある安らぎ魔法を龍脈に流した。
 魔石獣の凶暴化を抑えるには、並の安らぎ魔法では無理だった。
 度の過ぎた安らぎ魔法の影響で、王妃様は幼児退行してしまった。
 そのおかげもあって、魔石獣の凶暴性は抑えられていた。
 魔石獣の邪魔をしない限り、魔石獣は襲ってこない。
 だけど通り道に居る魔石獣は、対峙しなければならない。

 そんな緑の王妃様の安らぎ魔法を、龍脈からダイレクトに浴びてしまったユウト。
 その効果は絶大すぎた。

「ミク、あなたの安らぎ魔法で、ユウトを戻せない?
 私の浄化魔法では、無理なのよ。」
 フィーナの瞳から、涙がこぼれる。
 フィーナに川へ投げ込まれたユウトは、しゃがみこんで大泣きしている。

「私の、安らぎ魔法。」
 ミクはつぶやいて、大泣きするユウトに近づき、両手をユウトの頭にかざす。
 しばらくして、ミクは首をふる。
 フィーナは膝から崩れる。

「ごめんなさい、私にはお母様の安らぎ魔法には、対抗出来ません。」



次回予告
 よ、私だ。エメラルド・ジュエラル・マドカリアスだ。
 異世界パルルサ王国の危機に、五人の伝説の戦士はそろった。
 だけど異世界パルルサ王国の支配を目論む、魔女パラデスイアはさらに上を行く。
 二千年前の緑の王女が遺してくれた遺産兵器も、魔女パラデスイアには通用しない。
 こうなったら、残された手段は、ただひとつ。
 だけど、これは最後の手段。
 これを使えば、私はジュエガルドに戻れなくなる。
 すまない、ミク。
 緑の国の事を、全てお前に任せっきりで。
 だけど急いでくれ。鳳凰谷でルビーと戦ってるコマチが、限界をこえる。
 レスフィーナ、ユウト。
 ミクを、緑の国を頼む!
 次回、異世界を救ってくれと、妖精さんに頼まれました、猛襲の女性戦士。
 お楽しみに。

※今回は鳳凰谷の決戦の予定でしたが、たどり着けませんでした。
 次回も、どうなるか分かりません。
 この予告と異なる可能性もありますが、ご了承下さい。
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