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第12話 魔素の塊の青い龍

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 王妃様に悪夢を見続けさせる元凶。
 その元凶と思しき青い龍を退治しに、ユウトとフィーナとアスカの三人は、龍神山の洞窟の奥へと向かう。

「危ない、フィーナ!」
 洞窟内に溜まった魔素の塊は、魔石獣となって三人を襲う。
 その魔石獣を、ユウトが迎え討つ。
 溜まった魔素の量は大した事なく、魔石獣自体も大した事なかった。
 しかし、数は多かった。
 ユウトは襲いくる魔石獣達を、次々と斬り倒す。
 斬られた魔石獣達は、魔素の霧となって四散する。
 この魔石獣達には、洞窟の外で戦った時みたいな手ごたえはなかった。
 漂う霧が、たまたま魔石獣の姿をとった、そんな感じだった。
 この四散した魔素の霧は、妖精体となったフィーナとアスカが吸い込み、浄化する。

 ぐおおおおーぉぉ!

 洞窟を進むと、奥からけたましい雄叫びが響く。
 洞窟が開けた場所に、その雄叫びの主はいた。
 青い龍である。

 ユウトの三倍の高さに、青い龍の牙が煌めく。
 あふれ出た魔素が具現化した、青い龍。
 その輪郭はぼやけてはいるが、凶暴そうな青い龍を形作っている。

 青い龍は飛翔して、いきなりユウトに突進して襲いかかる。
 ユウトは素早く身をかわして、刀を青い龍にあわせる。
 ユウトの刀は、ユウトの横を飛び去る青い龍の身体を引き裂く。
 だけど相手は、魔素の塊。
 確かな手ごたえはあっても、斬り裂きの効果は、あまりなかった。

 ぐおおおお!
 一度飛び去った青い龍は、向きを変えて再びユウトに突進してくる。
 ユウトはまた身をかわして、刀をあわせるのだが、これが有効打になってるとは思えなかった。

「なあ、こいつ、どうすれば倒せるんだよ!」
 あまりの手ごたえの無さに、ユウトは根をあげる。
「そのまま続けてれば、大丈夫よ。」
 妖精体のフィーナが答える。
 と言っても妖精体のフィーナとアスカの区別は、ユウトにはつかなかった。
 そして青い龍を構成する魔素は、次第に薄れていく。
 実際このまま続ければ、青い龍は弱まるだろう。
 しかしユウトには、そんな実感はなかった。

「ユウト、これを使え!」
 人間体に戻ったアスカは、自分が帯剣する剣を、ユウトに投げ渡す。
 この剣には魔素の浄化作用があり、いわゆる退魔の剣だ。
 暴走する魔素を具現化した青い龍とは、相性が良いはずだ。
「今のおまえなら、使えるはずだ。」
 剣を受け取ったユウトを見て、アスカはそう続ける。

 退魔の剣は、いわば魔法剣。
 これを魔法剣として使うには、ある程度のレベルが必要。
 今のユウトは、直前に無数の魔石獣を倒した事で、それなりにレベルが上がってた。
 本人にその自覚はないが。

「分かった。ありがとうアスカ!」
 ユウトは剣を鞘から抜くと、鞘を横へ放り投げる。
「な、」
 アスカはユウトのこの行動に、少し驚く。
 鞘とは、戦い終わった時に、剣を納める物。
 そんな鞘を投げ捨てるとは、勝つ意志を、自ら捨てた事を意味する。
 それは考えすぎかもしれないが、アスカは不吉なモノを感じた。

 ユウトは駆け出し、青い龍にひと太刀浴びせる。
 ぐおおお!
 青い龍は悲鳴をあげる。
 ユウトは勝機とばかりに距離をつめるが、身の危険を感じて、すぐさま飛び退く。
 辺りを漂う魔素の霧が、急速に青い龍へと集中しだす。

 ぐぎゃああああ!
 青い龍は凶暴さを取り戻す。
「何してるフィーナ、慈しみ(いつくしみ)の舞だ!」
「分かってるわよ、それくらい!」
 徐々に巨大化する青い龍を前に、アスカが叫ぶ。
 フィーナは妖精体のまま、ユウトの後方で優雅に舞い踊る。
 ユウトの身体に、フィーナが浄化した魔素が流れ込む。
 ユウトは、身体の奥底からチカラが湧いてくるのを感じる。

「ユウト、集中しろ。
 おまえの体内の気を、その剣に集めるんだ!」
 アスカはユウトに指示を出す。
「分かった。」
 ユウトは剣を構えて目を閉じる。
 剣の刀身が淡く青い光に包まれる。
 ふと、ユウトの脳裏に人影が浮かぶ。
 何故か覚えがあるその人影に、ユウトは思わず目を開ける。

 ユウトが目を開けた時、戦いはすでに終わっていた。

 凶暴化した青い龍は、剣を構えるユウト目がけて突進。
 ユウトが構える退魔の剣に、そのまま斬り裂かれてしまったのだ。

 今ユウトの目の前には、浄化された魔素によって構成された青い龍がいた。
 人と同じくらいの大きさになった青い龍からは、凶暴さを感じない。
 どちらかと言うと、優しくて優雅な気品を感じる。

「異世界からの戦士よ、礼を言います。
 私を戻してくれて、ありがとう。」
 突然青い龍は、ユウトに話しかけてきた。
 その声は、気品に満ちた女性の声だった。
 と言われても、ユウトはただ剣を構えただけで、何もしていない。
 青い龍にそう言われても、戸惑うだけだった。

「お母様?」
 青い龍の声を聞いて、フィーナがつぶやく。
「ええ、そうよ。
 フィーナ、素晴らしい戦士を連れ帰ってくれましたわね。」
 青い龍は、優しく声をかける。
「お母様、うわーん。」
 妖精体のフィーナは、そのまま青い龍に泣きつく。
「これこれ、ほんとフィーナは甘えんぼさんね。」
「だってお母様が、うわーん。」

「本当に、お母様、なのですか?」
 人間体のアスカは、冷静に現状を把握しようとする。
「もう、アスカはほんとに疑いぶかいのね。」
 青い龍は、少しぷんぷんする。
「ほんとよ。なんでアスカは、お母様の言葉が信じられないのよ。」
 フィーナは青い龍のかたを持つ。

 いや、それを素直に信じる方がおかしいだろ。
 傍らで見ているユウトは、アスカと同意見だった。
 しかし母娘の会話に入っていいものなのか、判断出来ずにいた。

「アスカ、この国の王族に連なる者は、この国の龍脈を流れる魔素と一体化出来る事は、知っていますよね。」
 青い龍は、優しく語りかける。
 アスカは、龍脈という言葉を、ついさっき知ったばかりだ。
 当然、青い龍の言ってる事は分からない。
「知らない、みたいですね。」
 バカ面をさらすアスカを見て、青い龍は困ったようにつぶやく。
「フィーナは、知ってますよね。」
 青い龍は、今度はフィーナに話しをふる。
「嫌ですわ、お母様。聞いてもいない事を、知ってるはずが無いではありませんか。」
 フィーナは満面の笑みで答える。
 と言っても妖精体の笑顔など、小さすぎてユウトには分からない。
「ほほほ、それもそうですわね。」
 青い龍も、にこやかにほほえむ。

「まずった。伝え忘れてたわ。」
 青い龍は一転、落ち込んだ。
「お母様?」
 そんな青い龍の表情を、フィーナは心配そうに覗き込む。
「つ、つまりね、」
 そんなフィーナを心配させまいと、青い龍はカラ元気をふりまき、説明する。
「マスタージュエルが砕かれちゃったから、龍脈を流れる魔素を調べてた訳よ、分かる?」
 青い龍の言葉に、フィーナはこくこくうなずく。
「したらね、丁度魔素が具現化しちゃってね、私が取り込まれちゃったのよ。
 いやー、まいった、まいった。」
 笑いとばす青い龍。
「つまり、お母様が眠り続けていたのは、その青い龍に取り込まれちゃったから?」
 とフィーナは尋ねる。
「ええ。」
 青い龍はうなずく。
「でも、あなたが連れて来てくれた戦士のおかげで、解放されたわ。
 私の本体も、じき目を覚ますわ。」
 青い龍は、フィーナに微笑みかける。

「そう、良かった。」
 フィーナは安堵の表情を浮かべる。
「ええ、ありがとう、フィーナ。」
 青い龍も、にっこりと礼を言う。


 そんな青い龍が突然、炎に包まれる!

「ほんと、礼を言うわ。
 龍を弱らせてくれて、ありがとう。」
 フィーナ達三人は、声のした方を振り返る。

 そこには妖精体のルビーと、地球で一緒に共闘した女性戦士が立っていた。
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