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荒野を行く

第183話 勇者手紙を読む

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 俺が魔王を倒すために残された時間は、少ない。
 なぜそう思うのかは謎だが、森の奥のほこらに戻れば、何か分かる気がする。
 そこに行くのは、魔王を倒した後だと、俺の中のナニかが告げている。


 そんな俺は、かつてローザとドラゴンさんが住んでいたと思われる海底洞窟内の一軒家で、手紙を見つけた。
 どうやら、ドラゴンさんが書いた物らしい。


 ここを訪れし勇者達へ。
 君たちに、ローザ姫を託す。
 私の弟が何者かにそそのかされ、魔王を名乗るようになってしまった。
 確かに私たちの兄は、このサーイターマルドを護るための犠牲になった。
 しかしそれは、私たち兄弟の運命。
 三人等しくサーイターマルドの風になる所を、兄がひとりで背負ってくれたにすぎない。
 勇者ウラワの時代から、このサーイターマルドに魔物が絶えなかったのは、兄ひとりに押しつけてしまったがためだ。
 そんな使命を全うしなかった私たちふたりを、精霊ルギア様も、快く受け入れてくれた。
 感謝こそすれ、恨む様な事は何もない。
 しかし弟は、どこか不満があったようだ。そこをつけ込まれてしまった。
 オオミヤ城を襲撃の際、あろう事かローザ姫を亡き者にしようとしてしまった。
 だから私はローザ姫を護るため、この海底洞窟に隠れ家を建てた。
 心の清らかなローザ姫と一緒にいると、私の心も安らぐのを感じる。
 私はこのまま、ローザ姫と一生を添いとげたい。
 だけど、人間であるローザ姫を、一生暗い洞窟に閉じ込めておく訳にもいかない。
 それに私は、所詮魔物。
 いつか勇者に倒される運命だろう。
 もしかしたらローザ姫は、勇者を憎むかもしれない。
 だけどローザ姫は、人間なのだ。私とは違う。
 だからここを訪れし勇者たちよ。
 君たちに、ローザ姫を託す。


「う、ううう。」
 ドラゴンさんの書き置きを黙読した俺は、涙が止まらない。

 孤児を託す。と言う言葉がある。
 大切な孤児を託せるのは、心の底から信頼できる人のみである。
 ドラゴンさんは、俺にローザを託したのだ。

 そんなローザも、自由意志を失った。
 俺とあんなに語りあったローザも、今やツンとすまし顔。
 ローザの笑顔を取り戻すためにも、俺は早く魔王を倒さなければならない。
 それがドラゴンさんの弟だったとしても。

 俺は決意も新たに、この一軒家を後にする。
 ここはローザとドラゴンさんとの思い出の場所。
 あまり俺が長居していい場所ではない。

 だけど俺がローザと言いあってた時、傍らに誰かいたような気がするのだが、誰だか思い出せなかった。
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