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Episode4 京子
305 35点
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立体駐車場の屋上へ駆け上がってきた桃也を、彰人は「お疲れ」と迎えた。
すぐ後ろに居た京子と綾斗を避けての行動だが、上からは二人が桃也に気付いたのが丸見えで「必死だね」と笑う。
「二人に遠慮なんかしなくて良いのに」
「うるせぇよ」
「さっきの気配凄かったよね。綾斗くんに京子ちゃんの事探して貰ったんでしょ? お礼くらい言えばいいのに」
「京子が無事ならそれで良いんだよ」
桃也がぶっきらぼうに言ってそっぽを向く。
「子供なんだから。良いトコ持って行かれて不満だった?」
「んなコトねぇよ」
さっき二人が居た辺りを覗き込む桃也に、彰人は一本残っていたショートブレッドをポンと投げた。
「綾斗くんの事になるとムキになるの良くないよ。嫉妬してるだけなら笑って済ませられるけど、私情を混同させて判断を見誤ったら君や僕たちの命取りになりかねないからね。忠告だと思って」
「分かってるよ。別に京子とヨリを戻したいとか、未練がある訳じゃねぇんだ。ただ、アイツ等見てるともどかしいって言うか、イラつくっていうか……」
「お父さんみたいな事言ってる」
「はぁ?」
「要らない心配しすぎってこと」
桃也は赤面した目を逸らしたまま受け取ったショートブレットにかじりつき、「なぁ」と声を潜めた。視線がスロープの陰を警戒する。
「あそこに何か居るだろ」
「気にしなくて良いよ。何かしたら殺すって脅しておいたから」
「怖ぇよ」
「そのくらいハッキリ言わないと通じない事は多いからね」
「……だな。あの男もそろそろ何かしてくる頃だろうから、俺もきちんと立ち回らねぇとな」
今回の戦いは『大晦日の白雪』を起こした桃也が、アルガスの次期長官だと認めさせるものでもある。
勝利条件は、桃也か忍の敗北か死だ。アルガスがもし負ければ桃也の肩書は白紙になるだろう。
「僕も出来る範囲でサポートするから」
「いらねぇよ」
桃也はハッキリと断るが、「けど」と曖昧な言葉を繋げる。
「居てくれたら助かる」
「どっちなんだよ。ハッキリ言わないと通じないって話をしたばかりじゃないか」
「……頼む」
気不味そうに頭を下げる桃也に、彰人は「オッケー」と返した。
「僕だって元バスクでアルガスを敵に回した男だからね、バスクとして育つ子供は一定数居るけど、そこからの境遇はバラバラだ。だからこそ能力者と一般人が共存する世界をうまく作って行かなきゃね。それが僕たちの仕事だよ?」
バスクが敵になるか味方になるかは紙一重だ。
「僕は京子ちゃんが居なかったら、あのままトールになってたよ。彼女が居たからキーダーも悪くないって思えたんだからね」
「お前は初恋の王子様だからな」
桃也はめいっぱいに皮肉を言って、ドンと立ち上った遠くの光を見据えた。
「なぁ彰人、俺はキーダーになって少しは成長したと思うか?」
「今弱気になってどうするんだよ。まぁ、しいて言うなら35点くらいじゃないの?」
「5点しか増えてねぇのかよ」
──『30点』
初めて戦った時の事を思い出して、彰人は「懐かしいね」と笑った。
すぐ後ろに居た京子と綾斗を避けての行動だが、上からは二人が桃也に気付いたのが丸見えで「必死だね」と笑う。
「二人に遠慮なんかしなくて良いのに」
「うるせぇよ」
「さっきの気配凄かったよね。綾斗くんに京子ちゃんの事探して貰ったんでしょ? お礼くらい言えばいいのに」
「京子が無事ならそれで良いんだよ」
桃也がぶっきらぼうに言ってそっぽを向く。
「子供なんだから。良いトコ持って行かれて不満だった?」
「んなコトねぇよ」
さっき二人が居た辺りを覗き込む桃也に、彰人は一本残っていたショートブレッドをポンと投げた。
「綾斗くんの事になるとムキになるの良くないよ。嫉妬してるだけなら笑って済ませられるけど、私情を混同させて判断を見誤ったら君や僕たちの命取りになりかねないからね。忠告だと思って」
「分かってるよ。別に京子とヨリを戻したいとか、未練がある訳じゃねぇんだ。ただ、アイツ等見てるともどかしいって言うか、イラつくっていうか……」
「お父さんみたいな事言ってる」
「はぁ?」
「要らない心配しすぎってこと」
桃也は赤面した目を逸らしたまま受け取ったショートブレットにかじりつき、「なぁ」と声を潜めた。視線がスロープの陰を警戒する。
「あそこに何か居るだろ」
「気にしなくて良いよ。何かしたら殺すって脅しておいたから」
「怖ぇよ」
「そのくらいハッキリ言わないと通じない事は多いからね」
「……だな。あの男もそろそろ何かしてくる頃だろうから、俺もきちんと立ち回らねぇとな」
今回の戦いは『大晦日の白雪』を起こした桃也が、アルガスの次期長官だと認めさせるものでもある。
勝利条件は、桃也か忍の敗北か死だ。アルガスがもし負ければ桃也の肩書は白紙になるだろう。
「僕も出来る範囲でサポートするから」
「いらねぇよ」
桃也はハッキリと断るが、「けど」と曖昧な言葉を繋げる。
「居てくれたら助かる」
「どっちなんだよ。ハッキリ言わないと通じないって話をしたばかりじゃないか」
「……頼む」
気不味そうに頭を下げる桃也に、彰人は「オッケー」と返した。
「僕だって元バスクでアルガスを敵に回した男だからね、バスクとして育つ子供は一定数居るけど、そこからの境遇はバラバラだ。だからこそ能力者と一般人が共存する世界をうまく作って行かなきゃね。それが僕たちの仕事だよ?」
バスクが敵になるか味方になるかは紙一重だ。
「僕は京子ちゃんが居なかったら、あのままトールになってたよ。彼女が居たからキーダーも悪くないって思えたんだからね」
「お前は初恋の王子様だからな」
桃也はめいっぱいに皮肉を言って、ドンと立ち上った遠くの光を見据えた。
「なぁ彰人、俺はキーダーになって少しは成長したと思うか?」
「今弱気になってどうするんだよ。まぁ、しいて言うなら35点くらいじゃないの?」
「5点しか増えてねぇのかよ」
──『30点』
初めて戦った時の事を思い出して、彰人は「懐かしいね」と笑った。
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