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Episode4 京子
295 綾斗到着
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「ちょっと早すぎ」
廃墟になったショッピングモールの屋上で、忍は対岸からやってくる紫色のテールランプを眺めていた。双眼鏡よろしく両手を目元に押し当てて、機体から降下する黒い影を数える。
「二つか」と呟いて、すぐ側にある観覧車を見上げた。
停止したままのゴンドラが、風に煽られてギイと揺れる。京子が居るのは上から二番目の箱だ。隔離壁を最小限にした効果で、思った以上に長持ちしている。
アルガスからの増援は想定内だが、到着まで壁を保てた事には忍が一番驚いていた。
「いよいよ出揃ったかな」
最初ここへ来たキーダーは4人で、もう大分人数は増えていた。
本部の待機がゼロだとは思えないが、恐らく今降下したうちの片方は京子の恋人だというバーサーカーだろう。
「そうこなくちゃ」と忍がほくそ笑むと、足元でキンと光が立ち上る。
地上では一人のキーダーに対し、高校生くらいの少年が3人がかりで挑んでいる最中だ。けれど上手く攻撃する余裕など与えては貰えず、呆気なく方々に吹き飛ばされる。
廃墟の外壁に衝撃波が突っ込み、忍は飛び上がってきた壁の一部を目の前で粉砕させた。
「若いって良いね」
熊のような体格のキーダーは、こちらに気付いてはいないようだ。制服のタイをはためかせながら次のターゲットを探しに走り去っていく。
いよいよこちらも人数の底が見える頃だ。
「次の手を使わないとね」
忍はスマホを操作して、繋がった相手に「頼んだよ」と一言だけ言葉を添えた。
再び京子の居るゴンドラを一瞥する。湧き上がる高揚感に足を弾ませて、忍は廃墟の裏側へと姿を消した。
☆
綾斗と曳地がヘリから下りたのは、戦闘区域の外側だ。
最寄り駅の側で地面に落ちたパラシュートを手繰ると、テントに待機していた施設員が数人駆け寄って来て「お疲れ様です」とそれを引き継いだ。
「おぅおぅ、ありがとなぁ」
コーラの入ったビニール袋を手に歩いていく曳地の後ろを綾斗は追い掛ける。
空に居た時よりも地上は気配が強く、とても個々を判別できる状態ではなかった。
昔よく大舎卿が『気配を消す意味などない』と言っていたのを思い出しながら、京子の趙馬刀を腰の横で握り締める。
テントのすぐ手前に久志が待ち構えている事に気付いて、綾斗は「お疲れ様です」と駆け寄った。
曳地も「よぅ」と声を掛けるが、返って来るのは浅い会釈だけだ。
二人の確執に久志の恋愛事情が絡んでいる事がいまだに信じられないが、今はそんな事を考えている余裕はない。
一人でテントへ入って行く曳地を横目に、綾斗は「あの」と声を潜めた。
「久志さん、アレは最終手段にさせて貰っても構いませんか?」
「そうなの? 綾斗がそうしたいなら構わないよ?」
もしこの戦いで京子と連絡が取れなくなってしまったら──久志が冗談半分にそんなことを言い、綾斗に一つの提案をくれた。
実行すればすぐにでも彼女を見つけ出すことが出来るかもしれないが、その前に少しだけ時間が欲しい。
「ありがとうございます。ちょっとだけ悪足掻きさせて下さい」
「いいよ。けどヤツには気を付けるんだよ?」
さっき桃也に連絡を貰った時、綾斗はふと4年前を思い出していた。
浩一郎がアルガスを襲撃した時も、京子は突然居なくなった。あの時、綾斗もその居場所に気付いたが、当時恋人だった桃也が先に彼女を瓦礫の中から救ったのだ。
できるなら今度は自分が──綾斗は視界に入る全域へ向けて感覚を研ぎ澄ませた。
廃墟になったショッピングモールの屋上で、忍は対岸からやってくる紫色のテールランプを眺めていた。双眼鏡よろしく両手を目元に押し当てて、機体から降下する黒い影を数える。
「二つか」と呟いて、すぐ側にある観覧車を見上げた。
停止したままのゴンドラが、風に煽られてギイと揺れる。京子が居るのは上から二番目の箱だ。隔離壁を最小限にした効果で、思った以上に長持ちしている。
アルガスからの増援は想定内だが、到着まで壁を保てた事には忍が一番驚いていた。
「いよいよ出揃ったかな」
最初ここへ来たキーダーは4人で、もう大分人数は増えていた。
本部の待機がゼロだとは思えないが、恐らく今降下したうちの片方は京子の恋人だというバーサーカーだろう。
「そうこなくちゃ」と忍がほくそ笑むと、足元でキンと光が立ち上る。
地上では一人のキーダーに対し、高校生くらいの少年が3人がかりで挑んでいる最中だ。けれど上手く攻撃する余裕など与えては貰えず、呆気なく方々に吹き飛ばされる。
廃墟の外壁に衝撃波が突っ込み、忍は飛び上がってきた壁の一部を目の前で粉砕させた。
「若いって良いね」
熊のような体格のキーダーは、こちらに気付いてはいないようだ。制服のタイをはためかせながら次のターゲットを探しに走り去っていく。
いよいよこちらも人数の底が見える頃だ。
「次の手を使わないとね」
忍はスマホを操作して、繋がった相手に「頼んだよ」と一言だけ言葉を添えた。
再び京子の居るゴンドラを一瞥する。湧き上がる高揚感に足を弾ませて、忍は廃墟の裏側へと姿を消した。
☆
綾斗と曳地がヘリから下りたのは、戦闘区域の外側だ。
最寄り駅の側で地面に落ちたパラシュートを手繰ると、テントに待機していた施設員が数人駆け寄って来て「お疲れ様です」とそれを引き継いだ。
「おぅおぅ、ありがとなぁ」
コーラの入ったビニール袋を手に歩いていく曳地の後ろを綾斗は追い掛ける。
空に居た時よりも地上は気配が強く、とても個々を判別できる状態ではなかった。
昔よく大舎卿が『気配を消す意味などない』と言っていたのを思い出しながら、京子の趙馬刀を腰の横で握り締める。
テントのすぐ手前に久志が待ち構えている事に気付いて、綾斗は「お疲れ様です」と駆け寄った。
曳地も「よぅ」と声を掛けるが、返って来るのは浅い会釈だけだ。
二人の確執に久志の恋愛事情が絡んでいる事がいまだに信じられないが、今はそんな事を考えている余裕はない。
一人でテントへ入って行く曳地を横目に、綾斗は「あの」と声を潜めた。
「久志さん、アレは最終手段にさせて貰っても構いませんか?」
「そうなの? 綾斗がそうしたいなら構わないよ?」
もしこの戦いで京子と連絡が取れなくなってしまったら──久志が冗談半分にそんなことを言い、綾斗に一つの提案をくれた。
実行すればすぐにでも彼女を見つけ出すことが出来るかもしれないが、その前に少しだけ時間が欲しい。
「ありがとうございます。ちょっとだけ悪足掻きさせて下さい」
「いいよ。けどヤツには気を付けるんだよ?」
さっき桃也に連絡を貰った時、綾斗はふと4年前を思い出していた。
浩一郎がアルガスを襲撃した時も、京子は突然居なくなった。あの時、綾斗もその居場所に気付いたが、当時恋人だった桃也が先に彼女を瓦礫の中から救ったのだ。
できるなら今度は自分が──綾斗は視界に入る全域へ向けて感覚を研ぎ澄ませた。
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