567 / 620
Episode4 京子
270 寝返りたい彼女
しおりを挟む
建物の周りに並ぶ街灯の明かりは、ほんの数メートル先までしか届かない。
4つのポイントで示された戦闘範囲の内側は、その殆どが闇に包まれていた。
能力による力の発動は、闇に青白い軌跡を残す。さっきからずっと激しい光を飛ばしているのは修司だろう。
彰人は光と気配でそれぞれの位置を確認しながら駅の方角へ向かった。
途中に手付かずの状態で残る小さな公園があり、通路で区切られた芝生の前にベンチが並んでいる。木々も多めで遮蔽物の多いエリアだ。
ここへ来るまで3人の男に襲われた。殺してはいないが、暫く動けないだろう。
ようやく一人になれたと思ったが、近くに二つの気配がうろついている。数だけはやたら多く、敵は戦闘の手を休ませてはくれなかった。
「雑魚だけどね」
向こうはこちらに気付いていないらしく、彰人は様子を見ながら電話を掛ける。相手は諜報員の田中だ。
コールなしで返事が聞こえた。
『彰人さん』
「うん。そこに居る?」
『はい。駅の二階で待機してます。始まりましたね』
ホルスとの戦闘に伴い、駅に閉鎖の指示を出したのは1時間ほど前だ。田中の報告だと既に避難は済んでいるらしく、彰人は早口で用件を伝えた。
「今言ったルールで桃也が条件を飲んだから。二陣の大舎卿たちも含めて、情報共有を頼むよ」
『了解しました』
返事を聞いて、彰人が先に通話をオフにした。
電話の声でさっきの気配主がこちらに気付いたらしい。すぐ側に来たのが分かって、彰人は迎えるようにその方向へ足を向けた。
お互いのシルエットが見えた所で、若い男女が「ひゃあ」と驚く。
「アンタ、キーダーなのか!?」
遠い明かりがぼんやりと顔を映し出す。寄り添うように現れた二人は恋人同士だろうか。
秋だというのに白Tシャツ姿の男が、制服姿の彰人を疑うような目つきで見上げて行く。
「一応ね」と答えると、男は何処かホッとしたように強張っていた顔を緩めた。
「その割にはアンタから気配ってのを感じねぇな。さっき向こうで見たヤツは異常だったぜ? キーダーにも能力の差ってのがあるのか?」
「まぁ、人それぞれだよね」
男は感じたままの状況に安堵して、指先に灯した小さな光を彰人へ掲げる。その顔が露になった途端、同行の女が「きゃあ」とテンションを上げた。
「ちょっとカッコイイ。お兄さん、めっちゃイケメン!」
「はぁ?」
彼女の態度に、男は動揺を隠せない。彰人は「そりゃどうも」と微笑んだ。
女は目をぱあっと見開いて、男を掴んでいた手を強引に引き剥がす。
「私、お兄さんに付いて行っても良いよ?」
二人は恋人同士ではなかったのだろうか。
急な裏切りに男は怪訝な顔を刻んだ。
「俺を捨てて敵に寝返んのかよ」
「捨てるも何も、アンタなんか好みじゃないのよ。強そうだったからボディーガードに良いと思って一緒に居てやっただけ。勘違いしないで」
「はぁ?」
「私やっぱりお兄さんの事守ってあげる」
女はトンと前に出て、彰人を背中に庇った。強めた気配の量は、男のそれに勝っている。どうやら口だけではないようだ。
「や、やんのかよ」
「アンタがやるならね。かかってきなさい?」
「マジかよ……」
男は怒りの矛先を彼女に向けきれずにいる。
このまま二人を見ているのも一興だと思いつつ、彰人は「そんな事しなくて良いよ」と女に声を掛けた。
「仲間撃ちなんてしなくていいし、君に守られるほど僕は弱くないから」
長年能力者をやっているなら、能力の気配は息をするのと同じレベルで消すことが出来る。
少しずつその枷を解いてみせると、二人の表情がみるみると青ざめて行くのが分かった。
ただ、これでも最大値の半分にも満たない。
明らかな能力の差に、二人は全身を震わせる。
「僕たちはこうやって生きてるんだよ。まぁ例外もいるけどね。今日能力を得たばかりの君たちが、自分の実力を判断できるのは、それなりに才能があるって事だと思うよ」
「が……が……」
しかし男は意思を言葉にする事すらできなかった。
「戦わなくて良いから、暫く眠ってて」
そう言って彰人は、二人へ向けて細い光の筋を飛ばした。
4つのポイントで示された戦闘範囲の内側は、その殆どが闇に包まれていた。
能力による力の発動は、闇に青白い軌跡を残す。さっきからずっと激しい光を飛ばしているのは修司だろう。
彰人は光と気配でそれぞれの位置を確認しながら駅の方角へ向かった。
途中に手付かずの状態で残る小さな公園があり、通路で区切られた芝生の前にベンチが並んでいる。木々も多めで遮蔽物の多いエリアだ。
ここへ来るまで3人の男に襲われた。殺してはいないが、暫く動けないだろう。
ようやく一人になれたと思ったが、近くに二つの気配がうろついている。数だけはやたら多く、敵は戦闘の手を休ませてはくれなかった。
「雑魚だけどね」
向こうはこちらに気付いていないらしく、彰人は様子を見ながら電話を掛ける。相手は諜報員の田中だ。
コールなしで返事が聞こえた。
『彰人さん』
「うん。そこに居る?」
『はい。駅の二階で待機してます。始まりましたね』
ホルスとの戦闘に伴い、駅に閉鎖の指示を出したのは1時間ほど前だ。田中の報告だと既に避難は済んでいるらしく、彰人は早口で用件を伝えた。
「今言ったルールで桃也が条件を飲んだから。二陣の大舎卿たちも含めて、情報共有を頼むよ」
『了解しました』
返事を聞いて、彰人が先に通話をオフにした。
電話の声でさっきの気配主がこちらに気付いたらしい。すぐ側に来たのが分かって、彰人は迎えるようにその方向へ足を向けた。
お互いのシルエットが見えた所で、若い男女が「ひゃあ」と驚く。
「アンタ、キーダーなのか!?」
遠い明かりがぼんやりと顔を映し出す。寄り添うように現れた二人は恋人同士だろうか。
秋だというのに白Tシャツ姿の男が、制服姿の彰人を疑うような目つきで見上げて行く。
「一応ね」と答えると、男は何処かホッとしたように強張っていた顔を緩めた。
「その割にはアンタから気配ってのを感じねぇな。さっき向こうで見たヤツは異常だったぜ? キーダーにも能力の差ってのがあるのか?」
「まぁ、人それぞれだよね」
男は感じたままの状況に安堵して、指先に灯した小さな光を彰人へ掲げる。その顔が露になった途端、同行の女が「きゃあ」とテンションを上げた。
「ちょっとカッコイイ。お兄さん、めっちゃイケメン!」
「はぁ?」
彼女の態度に、男は動揺を隠せない。彰人は「そりゃどうも」と微笑んだ。
女は目をぱあっと見開いて、男を掴んでいた手を強引に引き剥がす。
「私、お兄さんに付いて行っても良いよ?」
二人は恋人同士ではなかったのだろうか。
急な裏切りに男は怪訝な顔を刻んだ。
「俺を捨てて敵に寝返んのかよ」
「捨てるも何も、アンタなんか好みじゃないのよ。強そうだったからボディーガードに良いと思って一緒に居てやっただけ。勘違いしないで」
「はぁ?」
「私やっぱりお兄さんの事守ってあげる」
女はトンと前に出て、彰人を背中に庇った。強めた気配の量は、男のそれに勝っている。どうやら口だけではないようだ。
「や、やんのかよ」
「アンタがやるならね。かかってきなさい?」
「マジかよ……」
男は怒りの矛先を彼女に向けきれずにいる。
このまま二人を見ているのも一興だと思いつつ、彰人は「そんな事しなくて良いよ」と女に声を掛けた。
「仲間撃ちなんてしなくていいし、君に守られるほど僕は弱くないから」
長年能力者をやっているなら、能力の気配は息をするのと同じレベルで消すことが出来る。
少しずつその枷を解いてみせると、二人の表情がみるみると青ざめて行くのが分かった。
ただ、これでも最大値の半分にも満たない。
明らかな能力の差に、二人は全身を震わせる。
「僕たちはこうやって生きてるんだよ。まぁ例外もいるけどね。今日能力を得たばかりの君たちが、自分の実力を判断できるのは、それなりに才能があるって事だと思うよ」
「が……が……」
しかし男は意思を言葉にする事すらできなかった。
「戦わなくて良いから、暫く眠ってて」
そう言って彰人は、二人へ向けて細い光の筋を飛ばした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる