562 / 597
Episode4 京子
265 一本取られたね
しおりを挟む
直径十数メートルまで広がった光の球体が、建物をドンとくり抜く。激しい振動に足を踏ん張って、京子たちは目の前で起きた光景に息を呑んだ。
丸く円柱型に切断された壁の内側が剥き出しで、暗い空がその奥に覗いている。
崩れた破片は粉々になって地面に落ち、風に吹かれた残骸が辺りに塵の雨を降らせた。
警戒する京子を庇うように、修司がその背後に立つ。
「行儀の悪い連中ですまないね」
「まだ何もしていませんでしたよ? あの程度なら避ける事だってできたのに」
飄々とする忍から目を逸らし、京子は砂埃を払って暗い穴を見上げた。
建物に沸いた気配は明らかにこちらを狙っていたが、迎撃する余裕は十分にあった。有無を言わさぬ一発を叩き込んだ忍は、「何かあってからじゃ遅いんだよ」と腰に手を当てる。
建物に隠れているだろう幾つもの気配が、シュンと小さくすぼんだのが分かった。
攻撃の寸前で感じた勢いはもうない。幾つかの気配がゼロになった感じも否めない。ここからは良く見えないが、現場は過酷な情況だろう。
「へぇ」と彰人が腕を組んだ。
「だからって仲間や協力者を呆気なく殺すんだ。今の攻撃で三人死んでるよね? それとも自分の命が狙われる心配してるのかな」
「俺を殺したいと思ってる奴は居るだろうね。だからこそ躊躇はしないよ」
そういえば彰人と初めて戦った時も、似た光景を目にした事があった。
彰人もまた容赦なく、顔色一つ変えない。それなのに挑発的なセリフも、ポーカーフェイスのせいで日常会話のように聞こえてしまう。
もし本当に敵の大半が素人の寄せ集めなら、戦いにさえならないかもしれない。ただ、だからこそ予測できない状況もあり得るだろう。
京子がモヤモヤと頭の中を巡らせていると、忍が「よし」と改めて桃也に向き合った。
京子と背丈の変わらない彼からは、桃也の顔はだいぶ上にある。
「俺は別に戦いを長引かせようなんて思ってない。だから勝利条件とルールをある程度こちらで決めさせて貰っても構わないかい?」
「何だよ、言ってみろよ」
「大将がイライラするなよ。気が短い男は嫌われるよ? だから京子と別れたんじゃない?」
「はぁ?」
相手の情報量は計り知れない。
「一本取られたね」と笑う彰人に、桃也は「ふざけんなよ」と鋭い視線を飛ばした。
丸く円柱型に切断された壁の内側が剥き出しで、暗い空がその奥に覗いている。
崩れた破片は粉々になって地面に落ち、風に吹かれた残骸が辺りに塵の雨を降らせた。
警戒する京子を庇うように、修司がその背後に立つ。
「行儀の悪い連中ですまないね」
「まだ何もしていませんでしたよ? あの程度なら避ける事だってできたのに」
飄々とする忍から目を逸らし、京子は砂埃を払って暗い穴を見上げた。
建物に沸いた気配は明らかにこちらを狙っていたが、迎撃する余裕は十分にあった。有無を言わさぬ一発を叩き込んだ忍は、「何かあってからじゃ遅いんだよ」と腰に手を当てる。
建物に隠れているだろう幾つもの気配が、シュンと小さくすぼんだのが分かった。
攻撃の寸前で感じた勢いはもうない。幾つかの気配がゼロになった感じも否めない。ここからは良く見えないが、現場は過酷な情況だろう。
「へぇ」と彰人が腕を組んだ。
「だからって仲間や協力者を呆気なく殺すんだ。今の攻撃で三人死んでるよね? それとも自分の命が狙われる心配してるのかな」
「俺を殺したいと思ってる奴は居るだろうね。だからこそ躊躇はしないよ」
そういえば彰人と初めて戦った時も、似た光景を目にした事があった。
彰人もまた容赦なく、顔色一つ変えない。それなのに挑発的なセリフも、ポーカーフェイスのせいで日常会話のように聞こえてしまう。
もし本当に敵の大半が素人の寄せ集めなら、戦いにさえならないかもしれない。ただ、だからこそ予測できない状況もあり得るだろう。
京子がモヤモヤと頭の中を巡らせていると、忍が「よし」と改めて桃也に向き合った。
京子と背丈の変わらない彼からは、桃也の顔はだいぶ上にある。
「俺は別に戦いを長引かせようなんて思ってない。だから勝利条件とルールをある程度こちらで決めさせて貰っても構わないかい?」
「何だよ、言ってみろよ」
「大将がイライラするなよ。気が短い男は嫌われるよ? だから京子と別れたんじゃない?」
「はぁ?」
相手の情報量は計り知れない。
「一本取られたね」と笑う彰人に、桃也は「ふざけんなよ」と鋭い視線を飛ばした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します
Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。
女性は従姉、男性は私の婚約者だった。
私は泣きながらその場を走り去った。
涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。
階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。
けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた!
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる