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Episode4 京子
257 魔が差した
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空へ発つ京子たちを見送り、颯太は一度医務室へと下りた。
大きな荷物は移動用のバスに積み込んであるが、携帯用の鞄がまだ部屋に置いたままだ。
そこに銀次が居る事を予想しなかった訳じゃないが、改めて顔を合わせた彼に「連れてかねぇよ」と先に答えを突き付けた。
ホルスと戦うこの日を彼なりに待っていたのだろう。敢えて口にはしなかったが、想像する事など容易い。
この間京子と三人で話をしてから、銀次は毎日ここへ来るようになった。
薬の後遺症が抜けてからも彼がここへ足を運んでいた理由は、アルガスへの関心に尽きる。それを颯太は面倒だと思った事はないし、思った以上に話しのできる賢さをかっていたのは嘘じゃない。
ただ、今回の事に関しては別だ。命に係わる事態に彼を付き合わせる訳にはいかない。
「まだ何も言っていませんよ」
「そんなの言わなくたって顔に書いてあんだよ」
突き放すように声を強めるが、眼鏡の奥に光る強い意志は揺るがなかった。
「場所は聞きました。一人でも行けます。俺も側に居させて下さい」
「行きたいから行ける場所じゃねぇって事くらい分かるだろ? 京子ちゃんだってお前が出れる話じゃねぇって言っただろ。別にここへ来るなって言ってる訳じゃねぇんだ、今日は家に帰って落ち着いたらまた来いよ」
「こんな時に帰りたくありません。俺だって怪我の処置ぐらいできます。邪魔にならないようにしますから」
必死に頭を下げる銀次が勢いのままに土下座しそうになるのを、颯太は「やめろ」と制した。
「そんな事したって連れて行かねぇよ。現場で何が起きるかなんて分かったもんじゃねぇ。誰かが暴走でも起こせば、一瞬で消えるんだよ」
「それでも構いません」
「馬鹿野郎!」
一喝した声が部屋の空気を震わせる。
銀次は衝動を抑えつけるように唇を噛みしめるが、納得した顔にはならなかった。
ホルスとの戦闘を前にこんなシーンは予測していたが、いざそうなると相手は思った以上にしぶとい。
「いいか、お前はただの高校生なんだよ。そのくらいわきまえろ」
言い捨てるように背を向ける。颯太は椅子に乗せておいた鞄を肩に掛け、飲みかけのペットボトルを掴んだ。
何と言われようが連れて行く気はない。
「俺は……」
銀次はやりきれない気持ちを腹の前に握り締めた拳へ逃がして、その心境を零す。
「俺はノーマルに生まれた事をずっとハズレだと思っていました。けど、能力なんて関係ない、当たりかハズレかなんて自分次第でどうにかなるってようやく考えられるようになったんです。俺は、颯太さんみたいになりたいです!」
「キーダーに生まれた事なんて、俺にとっちゃ大ハズレだ。お前の眼鏡には、どんなおかしなフィルターくっついてんだ?」
「そんな風に語れる颯太さんが羨ましいんです!」
「やめとけよ」と笑いながら颯太はガラス棚の扉を開けて、奥にしまっておいた一錠の薬をポケットへしまった。銀次はそれに気付いていない。
「お前の事は連れて行かねぇよ。けど、ここで待ってるくらいなら許してやる」
「……ここですか?」
「不服なら帰って良いぜ。ただ、ここも安全とは限らねぇから、間違って死ぬんじゃねぇぞ」
「は、はい。勿論です」
銀次に背を向けたまま、颯太は続ける。
それが間違った甘い考えだと頭では分かっているが、ふと魔が差してしまった。
「もしここが攻撃を受けて危険だと判断したら、一目散にシェルターへ逃げろ。それだけは約束な? ただ、それでも踏ん張れるって言うならお前にできる事をしても構わねぇよ。怪我人も出るだろうしな」
「颯太さん──?」
「そん時ゃ俺の白衣を着な」
銀次の気持ちは声のトーンではっきりとわかった。
颯太は部屋の端にあるロッカーを指差して「死ぬなよ」と部屋を後にした。
大きな荷物は移動用のバスに積み込んであるが、携帯用の鞄がまだ部屋に置いたままだ。
そこに銀次が居る事を予想しなかった訳じゃないが、改めて顔を合わせた彼に「連れてかねぇよ」と先に答えを突き付けた。
ホルスと戦うこの日を彼なりに待っていたのだろう。敢えて口にはしなかったが、想像する事など容易い。
この間京子と三人で話をしてから、銀次は毎日ここへ来るようになった。
薬の後遺症が抜けてからも彼がここへ足を運んでいた理由は、アルガスへの関心に尽きる。それを颯太は面倒だと思った事はないし、思った以上に話しのできる賢さをかっていたのは嘘じゃない。
ただ、今回の事に関しては別だ。命に係わる事態に彼を付き合わせる訳にはいかない。
「まだ何も言っていませんよ」
「そんなの言わなくたって顔に書いてあんだよ」
突き放すように声を強めるが、眼鏡の奥に光る強い意志は揺るがなかった。
「場所は聞きました。一人でも行けます。俺も側に居させて下さい」
「行きたいから行ける場所じゃねぇって事くらい分かるだろ? 京子ちゃんだってお前が出れる話じゃねぇって言っただろ。別にここへ来るなって言ってる訳じゃねぇんだ、今日は家に帰って落ち着いたらまた来いよ」
「こんな時に帰りたくありません。俺だって怪我の処置ぐらいできます。邪魔にならないようにしますから」
必死に頭を下げる銀次が勢いのままに土下座しそうになるのを、颯太は「やめろ」と制した。
「そんな事したって連れて行かねぇよ。現場で何が起きるかなんて分かったもんじゃねぇ。誰かが暴走でも起こせば、一瞬で消えるんだよ」
「それでも構いません」
「馬鹿野郎!」
一喝した声が部屋の空気を震わせる。
銀次は衝動を抑えつけるように唇を噛みしめるが、納得した顔にはならなかった。
ホルスとの戦闘を前にこんなシーンは予測していたが、いざそうなると相手は思った以上にしぶとい。
「いいか、お前はただの高校生なんだよ。そのくらいわきまえろ」
言い捨てるように背を向ける。颯太は椅子に乗せておいた鞄を肩に掛け、飲みかけのペットボトルを掴んだ。
何と言われようが連れて行く気はない。
「俺は……」
銀次はやりきれない気持ちを腹の前に握り締めた拳へ逃がして、その心境を零す。
「俺はノーマルに生まれた事をずっとハズレだと思っていました。けど、能力なんて関係ない、当たりかハズレかなんて自分次第でどうにかなるってようやく考えられるようになったんです。俺は、颯太さんみたいになりたいです!」
「キーダーに生まれた事なんて、俺にとっちゃ大ハズレだ。お前の眼鏡には、どんなおかしなフィルターくっついてんだ?」
「そんな風に語れる颯太さんが羨ましいんです!」
「やめとけよ」と笑いながら颯太はガラス棚の扉を開けて、奥にしまっておいた一錠の薬をポケットへしまった。銀次はそれに気付いていない。
「お前の事は連れて行かねぇよ。けど、ここで待ってるくらいなら許してやる」
「……ここですか?」
「不服なら帰って良いぜ。ただ、ここも安全とは限らねぇから、間違って死ぬんじゃねぇぞ」
「は、はい。勿論です」
銀次に背を向けたまま、颯太は続ける。
それが間違った甘い考えだと頭では分かっているが、ふと魔が差してしまった。
「もしここが攻撃を受けて危険だと判断したら、一目散にシェルターへ逃げろ。それだけは約束な? ただ、それでも踏ん張れるって言うならお前にできる事をしても構わねぇよ。怪我人も出るだろうしな」
「颯太さん──?」
「そん時ゃ俺の白衣を着な」
銀次の気持ちは声のトーンではっきりとわかった。
颯太は部屋の端にあるロッカーを指差して「死ぬなよ」と部屋を後にした。
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