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Episode4 京子

253 零時ちょうどに彼を待つ

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「ビンゴなんじゃねぇの?」

 口元をヒクリと震わせて、颯太そうたがテレビ画面に苦笑する。
 ここ数日、都内で若者の行方不明事件が相次いでいるというテレビニュースが流れた矢先の事だった。
 遅れて現れた銀次ぎんじが、同じ状況にあるクラスメイトの話を持ち出したのだ。
 日直だった男が、突然行方をくらまして学校に来なかったという。

「その消えた日直、お前みたいな奴だったのか?」
「俺みたいというと? 全然似てないとは思いますけど」
「顔の話じゃねぇよ。ヒーローになりたいとか言ってる奴なのかって事だ」

 銀次は学校の荷物をソファに乗せながら、眼鏡の奥の瞳を見開いた。

「ちょっ、恥ずかしいんで止めて下さい」
「俺は真面目に聞いてんの」

 赤面する銀次に颯太は「いいから」と腕を組む。

「仲が良い奴でもないんで分かりませんよ。ただ、男ってのはみんなキーダーに憧れるものなんじゃないですか?」
「はぁ? 俺は迷惑なだけだったぜ?」
「それは颯太さんが能力者として生まれてきたからですよ。選択権がある人間と、スタートにさえ立てない人間とじゃ違うんです」

 銀次の熱い主張に、颯太は「そんなもんかね」とボヤいた。元キーダーだった彼は、アルガス解放とともに力を捨てて今に至る。

「けど、だったら余計に当たりかもな」

 颯太がテレビを指差すと、まだニュースは続いていた。今確認されているだけでも、直近ちょっきんで12人が居なくなっているという。
 銀次はようやく話を理解して、部屋の隅にまとめてある荷物を一瞥いちべつした。颯太が『現場』へ行くために用意したものだ。

「もしかしてホルスが人を集めてるって事ですか? アルガスの中がやたらざわついている感じがしましたけど、いよいよなんですか?」
安直あんちょくな考えかもしれねぇけどな」

 銀次はホルスとの詳しい事情を知らない。颯太がそれを言うべきかの判断を委ねるように京子を見る。
 彼に話したら、自分も関わりたいと言うだろう。それはあまり望ましい事ではないが、京子は「あのね」と今の状況を説明した。

 銀次の反応は思った通りだ。「本当ですか!」と興奮して、勢いのままに京子のパーソナルスペースへ飛び込んだ。

「落ち着いて、銀次くん。銀次くんが出れる話じゃないよ? 颯太さんを困らせないでね?」
「…………」

 京子はそっと距離を離して銀次を宥める。颯太も「そういう事だぞ」と言い聞かせた。

 銀次はノーマルだ。龍之介りゅうのすけのようにアルガスと契約を交わしたバイトでもなく、ここへ通う理由は治療の延長に過ぎない。

「──分かりました」

 胸に詰まる思いをこらえて吐き出した一言は重かった。

 その後夜を迎えたアルガスには、一層慌ただしい空気が取り巻いていた。
 若者の失踪事件に関しては、もしそれが事実だとしても現時点でどうにかできる事でもなく、情報共有に留まった。

 ホルスの予告した7日の零時開戦を視野に、迎撃態勢を整える。
 けれど、時計の長針が大きく傾いても忍たちが現れる事はなかった。



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