530 / 597
Episode4 京子
233 地下牢の彼女
しおりを挟む
鉄格子の向こうに、安藤律が居る。
壁にある机に向いて座る彼女は、綾斗の脳にインプットしてある記憶よりも若干若く見えた。横浜での戦いで出口の警護を任されていた事もあり、綾斗は直接話をしたことが無い。
アルガスに捕らえられた彼女を何度か遠目に見ている記憶よりも、資料に載った写真の印象の方が強かった。ただ長い髪に艶が無くなっているのは、ここに長く居るせいだろうか。
白い長袖のシャツに土色のスカート。質素な服は、彼女の魅力を逆に引き立ててしまっているように見えた。
大きく開いた二重の丸い目や、小さなホクロの位置に耳の形──美弦が良く騒いでいる胸や直接見たあれこれの情報を数秒で更新していく。
「久しぶりだね、元気だった?」
取りこぼしがないようにと律を見る綾斗とは対照的に、彰人はまるで入院する友人にでも会いに来た態度で気さくに声を掛けた。
律は無表情で彰人を見つめていたが、数秒の沈黙を挟んで何かを諦めたように力を緩める。
「元気じゃないわ。何しに来たのよ」
キーダー二人の左手首に視線を走らせる彼女に、彰人が苦笑した。銀環代わりの時計をそっと撫で、目の前の鉄格子を目の高さで握り締める。
「そう言わないで。君がここを抜け出すんじゃないかと思って様子を見に来たんだよ」
「今更? 私の事なんて忘れてると思ってたわ」
「まさか。君の事を忘れた日なんてないよ」
淡々とした彰人の答えに、彼女の心を揺らす音は含まれない。
律は彼を睨むように黙って、短く溜息を漏らした。
「ならキーダー様が直々に来る理由は何? 外は私が抜け出すような事態にでもなっているのかしら」
左の壁を向いて座っていた身体をゆっくりとこちらへ向けて、律は試すように問う。
キーダーとホルスが戦いを控えている事を知られるのはマズいだろう──綾斗は平静を装うが、
「勘が良いね、その通りだよ」
「彰人さん!」
平然と答える彰人に、思わず声が出た。本人は「いいから」と緩い笑顔を鉄格子に近付ける。
「隠そうとしたって、いずれバレるよ。それより、ここでは随分大人しいみたいだね。部下が口を割らないんだって嘆いていたよ。今の時代、拷問にかけるわけにもいかないってね」
「返事する理由もなければ、答える事実もないだけよ。私はホルスの上層部の事なんて殆ど知らないもの」
修司の話では、律は忍に会ったことが無いという。それが事実かどうかは怪しいところだが、ホルスとの戦いに彼女が出る状況などあり得るのだろうか。
「そうだね。けど、そういう態度取ってたら、こっちの警戒は厚くなるだけだよ」
「……面倒」
ボソリと呟いた声が、狭い牢に響いた。
「ねぇ律、もしホルスとキーダーが戦いになったら、君はその場所に戻ろうと思う?」
「…………」
ストレートな質問だ。
挑発的な彰人を更に睨みつけ、律は唇をぎゅっと結んだ。
壁にある机に向いて座る彼女は、綾斗の脳にインプットしてある記憶よりも若干若く見えた。横浜での戦いで出口の警護を任されていた事もあり、綾斗は直接話をしたことが無い。
アルガスに捕らえられた彼女を何度か遠目に見ている記憶よりも、資料に載った写真の印象の方が強かった。ただ長い髪に艶が無くなっているのは、ここに長く居るせいだろうか。
白い長袖のシャツに土色のスカート。質素な服は、彼女の魅力を逆に引き立ててしまっているように見えた。
大きく開いた二重の丸い目や、小さなホクロの位置に耳の形──美弦が良く騒いでいる胸や直接見たあれこれの情報を数秒で更新していく。
「久しぶりだね、元気だった?」
取りこぼしがないようにと律を見る綾斗とは対照的に、彰人はまるで入院する友人にでも会いに来た態度で気さくに声を掛けた。
律は無表情で彰人を見つめていたが、数秒の沈黙を挟んで何かを諦めたように力を緩める。
「元気じゃないわ。何しに来たのよ」
キーダー二人の左手首に視線を走らせる彼女に、彰人が苦笑した。銀環代わりの時計をそっと撫で、目の前の鉄格子を目の高さで握り締める。
「そう言わないで。君がここを抜け出すんじゃないかと思って様子を見に来たんだよ」
「今更? 私の事なんて忘れてると思ってたわ」
「まさか。君の事を忘れた日なんてないよ」
淡々とした彰人の答えに、彼女の心を揺らす音は含まれない。
律は彼を睨むように黙って、短く溜息を漏らした。
「ならキーダー様が直々に来る理由は何? 外は私が抜け出すような事態にでもなっているのかしら」
左の壁を向いて座っていた身体をゆっくりとこちらへ向けて、律は試すように問う。
キーダーとホルスが戦いを控えている事を知られるのはマズいだろう──綾斗は平静を装うが、
「勘が良いね、その通りだよ」
「彰人さん!」
平然と答える彰人に、思わず声が出た。本人は「いいから」と緩い笑顔を鉄格子に近付ける。
「隠そうとしたって、いずれバレるよ。それより、ここでは随分大人しいみたいだね。部下が口を割らないんだって嘆いていたよ。今の時代、拷問にかけるわけにもいかないってね」
「返事する理由もなければ、答える事実もないだけよ。私はホルスの上層部の事なんて殆ど知らないもの」
修司の話では、律は忍に会ったことが無いという。それが事実かどうかは怪しいところだが、ホルスとの戦いに彼女が出る状況などあり得るのだろうか。
「そうだね。けど、そういう態度取ってたら、こっちの警戒は厚くなるだけだよ」
「……面倒」
ボソリと呟いた声が、狭い牢に響いた。
「ねぇ律、もしホルスとキーダーが戦いになったら、君はその場所に戻ろうと思う?」
「…………」
ストレートな質問だ。
挑発的な彰人を更に睨みつけ、律は唇をぎゅっと結んだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる