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Episode4 京子
【番外編】32 松本のキモチ 2
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銀環を外してぶっ倒れた俺は、ベッドの中で長い夢を見ていた。
忍と会ってからの記憶だ。録画しておいたつもりはないのに、能力を縛った事でスイッチが入ったのか、一通りの過去が脳裏に再生された。
あれは1ヶ月ほど前の事だ。
『よし、これでお前はもう能力者じゃないぜ』
能力者の力を消してトールにする作業は、そんなに難しい事じゃない。
アルガスでは『能力者の体力を考慮して』なんて理由を付けて15歳まではそれを禁止するという規則を作ったが、そんなのは上の都合に過ぎない。
実際、忍はまだ9歳だ。生まれた時に銀環を付けないと覚醒が早いとは聞いていたが、ヤツはもう大人のキーダー並みに力を使うことが出来る。
アルガスへ来ないかと何度か誘った事もあるが、心変わりする事はなく決して首を縦に振らなかった。
忍と初めて会ったのは、それから更に3ヶ月ほど前になる。
アルガス解放で自由を得た俺は、暇があると外をぶらついていた。そんな夕方の繁華街で、唐突に声を掛けられたんだ。
『お兄さん、キーダーなの?』
銀環を付けている事がイコールでキーダーだという認識は、もう大分浸透しているらしいが、問題はそこじゃない。
そこは9歳のガキがうろつく場所でも時間でもなく、訳アリなのは一目瞭然だった。
ガキは育ちの良さそうな身なりを見せつけるように行く手を阻み、何か焦ったように銀環ごと俺の左手を掴む。
「何すんだよ」
大人げなく声を強めたのは、面倒事に巻き込まれたと思ったからだ。
けれど触れた接点から気配が流れ込んできて、ガキも能力者だという事を悟る。
「お前バスクか」
「分かる?」
そう言った顔が嬉しそうに緩んだのは一瞬だった。すぐにそれが陰ったのは、この状況が何を意味するか分かっていたからだろう。
キーダーはバスクを見つけたらアルガスに連れて行かなければならない。それがキーダーの仕事だ。
けれどガキはそれを拒んだ。
「アルガスには行かないよ。ウチの親はキーダーを悪だって言ってる。だから俺がキーダーになる訳には行かないんだ」
「だったら何でお前から声掛けて来たんだよ」
そっちから来なければ気付かなかった。それくらいにちゃんと力を制御できている。
キーダーを嫌っている奴なんて腐るほどいるだろう。世の中にはこんなガキがまだまだ居ると思ったら、俺は魔が差してしまったのかもしれない。
『助けて欲しい』と言われた訳じゃない。けれどこれはSOSだ。
俺はずっとアルガスの外へ出る理由を探していた。
キーダーとしての仕事を無視して、この瞬間に俺の未来は決まったんだと思う。
「なら、お前がこれからどうするか考えようぜ。俺がお前の側に居てやる」
それから俺たちは何度か会って、答えを出した。
俺がキーダーを辞めるという選択だ。
馬鹿げていると思うけれど、後悔はしていない。
忍と会ってからの記憶だ。録画しておいたつもりはないのに、能力を縛った事でスイッチが入ったのか、一通りの過去が脳裏に再生された。
あれは1ヶ月ほど前の事だ。
『よし、これでお前はもう能力者じゃないぜ』
能力者の力を消してトールにする作業は、そんなに難しい事じゃない。
アルガスでは『能力者の体力を考慮して』なんて理由を付けて15歳まではそれを禁止するという規則を作ったが、そんなのは上の都合に過ぎない。
実際、忍はまだ9歳だ。生まれた時に銀環を付けないと覚醒が早いとは聞いていたが、ヤツはもう大人のキーダー並みに力を使うことが出来る。
アルガスへ来ないかと何度か誘った事もあるが、心変わりする事はなく決して首を縦に振らなかった。
忍と初めて会ったのは、それから更に3ヶ月ほど前になる。
アルガス解放で自由を得た俺は、暇があると外をぶらついていた。そんな夕方の繁華街で、唐突に声を掛けられたんだ。
『お兄さん、キーダーなの?』
銀環を付けている事がイコールでキーダーだという認識は、もう大分浸透しているらしいが、問題はそこじゃない。
そこは9歳のガキがうろつく場所でも時間でもなく、訳アリなのは一目瞭然だった。
ガキは育ちの良さそうな身なりを見せつけるように行く手を阻み、何か焦ったように銀環ごと俺の左手を掴む。
「何すんだよ」
大人げなく声を強めたのは、面倒事に巻き込まれたと思ったからだ。
けれど触れた接点から気配が流れ込んできて、ガキも能力者だという事を悟る。
「お前バスクか」
「分かる?」
そう言った顔が嬉しそうに緩んだのは一瞬だった。すぐにそれが陰ったのは、この状況が何を意味するか分かっていたからだろう。
キーダーはバスクを見つけたらアルガスに連れて行かなければならない。それがキーダーの仕事だ。
けれどガキはそれを拒んだ。
「アルガスには行かないよ。ウチの親はキーダーを悪だって言ってる。だから俺がキーダーになる訳には行かないんだ」
「だったら何でお前から声掛けて来たんだよ」
そっちから来なければ気付かなかった。それくらいにちゃんと力を制御できている。
キーダーを嫌っている奴なんて腐るほどいるだろう。世の中にはこんなガキがまだまだ居ると思ったら、俺は魔が差してしまったのかもしれない。
『助けて欲しい』と言われた訳じゃない。けれどこれはSOSだ。
俺はずっとアルガスの外へ出る理由を探していた。
キーダーとしての仕事を無視して、この瞬間に俺の未来は決まったんだと思う。
「なら、お前がこれからどうするか考えようぜ。俺がお前の側に居てやる」
それから俺たちは何度か会って、答えを出した。
俺がキーダーを辞めるという選択だ。
馬鹿げていると思うけれど、後悔はしていない。
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