509 / 620
Episode4 京子
214 非常ボタンの受信機
しおりを挟む
「田中さん!」
急に途切れた通話に声を上げると、席に戻っていた美弦が「ひゃあ」と肩を震わせた。
「あぁ、ごめん」
「いえ。何かあったんですか……?」
驚いた彼女に謝ってツーと鳴るスマホを暗転させると、今度は机上にあった小さな機械がけたたましいアラーム音を響かせる。
彰人が田中に持たせているという、非常ボタンの受信機だ。久志が作ったものらしいが、『使った事はないですよ』と笑いながら田中に渡された。
「これは……」
通話の最後に、田中が松本の名前を口にしていた。
「居るのか?」
「居る? 誰がですか?」
ドンドンと扉が叩かれて、綾斗は慌てて受信機のスイッチをオフにした。『どうしました?』と聞こえてくる声は、音に反応した施設員のものだ。
「何でもないよ、ごめん」
綾斗が扉に向かって答えると、男は『分かりました』と去っていく。
綾斗は改めて美弦に説明した。
「詳しくは分からないけど、電話の様子だと向こうで何かが起きたんだろうね。さっき田中さんが、松本さんの名前を呼んでた。もしかしたら、そこに居るのかもしれない」
「松本? 田中さんてのは、さっき言ってたスパイの事ですよね」
今日の事を、美弦や修司に話してはある。ただ、あまり騒ぎ立てたくない事情から二人には通常業務をするように指示を出した。
けれどこれは異常事態なのかもしれない。
忍は佳祐を躊躇なく殺した男だが、京子には少なからず好意さえ抱いているように見えた。
今回の京子の提案を危険だと感じつつも、殺意を剥き出しになどしてこないだろうと思った考えは甘かったのだろうか。
空間隔離に入る事も、そこまで危険視はしていない。むしろ時間制限のある隔離壁の内側ならどこかへ移動されるよりも対話の場としては悪くないだろう。
もちろん、二人のどちらかが戦闘を仕掛けなければという前提条件はあるが、京子には念を押したつもりだ。
「まさか……」
最悪の事態を予感しつつ、田中の事も気になる。もし京子たちの消えた隔離壁の外で松本と接触していたら、ただでは済まないかもしれない。
綾斗は「美弦」と席を立った。
彼女も状況を察して、詳細を求めるよりも先に「大丈夫です」と胸を叩く。
「ここは任せて下さい」
「うん、頼むよ」
残っていた仕事を美弦に任せて、外へ急いだ。ヘリを使えば速いだろうが、生憎コージは別の場所へ行っている。
仕方ないと割り切って、綾斗は自分の車で東京駅を目指した。
急に途切れた通話に声を上げると、席に戻っていた美弦が「ひゃあ」と肩を震わせた。
「あぁ、ごめん」
「いえ。何かあったんですか……?」
驚いた彼女に謝ってツーと鳴るスマホを暗転させると、今度は机上にあった小さな機械がけたたましいアラーム音を響かせる。
彰人が田中に持たせているという、非常ボタンの受信機だ。久志が作ったものらしいが、『使った事はないですよ』と笑いながら田中に渡された。
「これは……」
通話の最後に、田中が松本の名前を口にしていた。
「居るのか?」
「居る? 誰がですか?」
ドンドンと扉が叩かれて、綾斗は慌てて受信機のスイッチをオフにした。『どうしました?』と聞こえてくる声は、音に反応した施設員のものだ。
「何でもないよ、ごめん」
綾斗が扉に向かって答えると、男は『分かりました』と去っていく。
綾斗は改めて美弦に説明した。
「詳しくは分からないけど、電話の様子だと向こうで何かが起きたんだろうね。さっき田中さんが、松本さんの名前を呼んでた。もしかしたら、そこに居るのかもしれない」
「松本? 田中さんてのは、さっき言ってたスパイの事ですよね」
今日の事を、美弦や修司に話してはある。ただ、あまり騒ぎ立てたくない事情から二人には通常業務をするように指示を出した。
けれどこれは異常事態なのかもしれない。
忍は佳祐を躊躇なく殺した男だが、京子には少なからず好意さえ抱いているように見えた。
今回の京子の提案を危険だと感じつつも、殺意を剥き出しになどしてこないだろうと思った考えは甘かったのだろうか。
空間隔離に入る事も、そこまで危険視はしていない。むしろ時間制限のある隔離壁の内側ならどこかへ移動されるよりも対話の場としては悪くないだろう。
もちろん、二人のどちらかが戦闘を仕掛けなければという前提条件はあるが、京子には念を押したつもりだ。
「まさか……」
最悪の事態を予感しつつ、田中の事も気になる。もし京子たちの消えた隔離壁の外で松本と接触していたら、ただでは済まないかもしれない。
綾斗は「美弦」と席を立った。
彼女も状況を察して、詳細を求めるよりも先に「大丈夫です」と胸を叩く。
「ここは任せて下さい」
「うん、頼むよ」
残っていた仕事を美弦に任せて、外へ急いだ。ヘリを使えば速いだろうが、生憎コージは別の場所へ行っている。
仕方ないと割り切って、綾斗は自分の車で東京駅を目指した。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる