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Episode4 京子
198 夜の提案
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「綾斗」
ホールに満ちる強い気配に「凄いな」と焦りを覚えながら、京子は大の字に寝転ぶ彼の所へ駆け寄った。普段感じないほどの気配は、全身がザワリと殺気立つ程だ。
トンと頭の横に膝をついて綾斗の顔を覗き込むと、彼の目がゆっくりと開く。
「何かどんどん強くなってない? ちょっと驚いちゃった」
「その分暫く起き上がるのもしんどいけどね」
綾斗は京子を仰ぎ見るように顎を上げて「お疲れ様」とはにかんだ。
バーサーカーの力は他の能力者に比べて数段に火力は上がるが、力を維持する持久力は乏しく疲労も半端ないらしい。
「綾斗もお疲れ様」
「ありがと。松本さんがどれだけの力で何を仕掛けて来るか分からないけど、俺も同じバーサーカーだって名乗り出たからには、肩書通りに戦えるようにしておかないとね」
天井へ向けて腕を伸ばし、綾斗はゆっくりと上半身を起こした。傍らに座る京子を振り返って、「あれ」と眉を顰める。
「何かあった?」
「え?」
じっと見つめられて戸惑う京子に、綾斗は「だって」と苦笑した。
「涙の痕があるから。彰人さんと何かあった?」
「そうじゃないよ。これはマサさんに会ったから。制服着てるの見たら止まらなくなっちゃって」
「その事か。俺もちょっと震えた。まさかマサさんの力を失った原因が佳祐さんだなんて思いもしなかったからね。マサさんがずっと戻りたかったのは知ってるから。けど、だからこそ特殊能力は怖いって思ったよ」
「それは綾斗もだけどね」
綾斗はバーサーカーだ。銀環を付けたまま暴走レベルの威力を出せるというその力は、京子にとって十分な脅威だ。
「俺が怖い?」
「綾斗が怖い訳じゃないよ。同じ力を持った松本さんが敵で、自分はどれだけ戦えるんだろうって思う」
不安気な京子に手を伸ばして、綾斗は涙の痕に指を這わせた。
「威力だけでどうにかなるわけじゃないよ」
「うん、そう思いたい。マサさんと手合わせしたんでしょ? どうだった?」
「ずっと鍛錬してきたんだなって思った。昔はここで色々教えて貰ったけど、キーダーとしてのブランクなんて殆ど感じられなかったよ」
「そうなんだ。私もうかうかしていられないな」
綾斗は「俺も」と頷いて、身体を支えるように手を床へ着いた。
ここ数日バーサーカーとしての訓練をしてきた彼は、疲労が溜まっているように見える。九州から戻って休む暇もない程慌ただしかったせいもあるだろう。
明日はようやく土曜日で、二人の非番が重なっていた。
「今日はもう無理しない方が良いよ。それよりスタミナ付けにお肉でも食べに行かない?」
食べたいものをガッツリ食べて、明日はいつもより遅めの起床でぐっすり休めたら──そんな京子流の疲労回復術を提案してみたが、綾斗は「うーん」と言い淀んで、ニコリと笑って見せた。
「肉も魅力的だけど、夕飯はここの食堂で食べて俺の部屋に来ない? ちょっとゆっくりしたいなと思って」
確かにこれだけ疲れていたら、外に出るよりも中で過ごした方が良いのかもしれない。
「分かった」と返事した後、京子はふと忘れていた事実に気付いた。
綾斗の部屋に行くのは、これが初めてだったのだ。
ホールに満ちる強い気配に「凄いな」と焦りを覚えながら、京子は大の字に寝転ぶ彼の所へ駆け寄った。普段感じないほどの気配は、全身がザワリと殺気立つ程だ。
トンと頭の横に膝をついて綾斗の顔を覗き込むと、彼の目がゆっくりと開く。
「何かどんどん強くなってない? ちょっと驚いちゃった」
「その分暫く起き上がるのもしんどいけどね」
綾斗は京子を仰ぎ見るように顎を上げて「お疲れ様」とはにかんだ。
バーサーカーの力は他の能力者に比べて数段に火力は上がるが、力を維持する持久力は乏しく疲労も半端ないらしい。
「綾斗もお疲れ様」
「ありがと。松本さんがどれだけの力で何を仕掛けて来るか分からないけど、俺も同じバーサーカーだって名乗り出たからには、肩書通りに戦えるようにしておかないとね」
天井へ向けて腕を伸ばし、綾斗はゆっくりと上半身を起こした。傍らに座る京子を振り返って、「あれ」と眉を顰める。
「何かあった?」
「え?」
じっと見つめられて戸惑う京子に、綾斗は「だって」と苦笑した。
「涙の痕があるから。彰人さんと何かあった?」
「そうじゃないよ。これはマサさんに会ったから。制服着てるの見たら止まらなくなっちゃって」
「その事か。俺もちょっと震えた。まさかマサさんの力を失った原因が佳祐さんだなんて思いもしなかったからね。マサさんがずっと戻りたかったのは知ってるから。けど、だからこそ特殊能力は怖いって思ったよ」
「それは綾斗もだけどね」
綾斗はバーサーカーだ。銀環を付けたまま暴走レベルの威力を出せるというその力は、京子にとって十分な脅威だ。
「俺が怖い?」
「綾斗が怖い訳じゃないよ。同じ力を持った松本さんが敵で、自分はどれだけ戦えるんだろうって思う」
不安気な京子に手を伸ばして、綾斗は涙の痕に指を這わせた。
「威力だけでどうにかなるわけじゃないよ」
「うん、そう思いたい。マサさんと手合わせしたんでしょ? どうだった?」
「ずっと鍛錬してきたんだなって思った。昔はここで色々教えて貰ったけど、キーダーとしてのブランクなんて殆ど感じられなかったよ」
「そうなんだ。私もうかうかしていられないな」
綾斗は「俺も」と頷いて、身体を支えるように手を床へ着いた。
ここ数日バーサーカーとしての訓練をしてきた彼は、疲労が溜まっているように見える。九州から戻って休む暇もない程慌ただしかったせいもあるだろう。
明日はようやく土曜日で、二人の非番が重なっていた。
「今日はもう無理しない方が良いよ。それよりスタミナ付けにお肉でも食べに行かない?」
食べたいものをガッツリ食べて、明日はいつもより遅めの起床でぐっすり休めたら──そんな京子流の疲労回復術を提案してみたが、綾斗は「うーん」と言い淀んで、ニコリと笑って見せた。
「肉も魅力的だけど、夕飯はここの食堂で食べて俺の部屋に来ない? ちょっとゆっくりしたいなと思って」
確かにこれだけ疲れていたら、外に出るよりも中で過ごした方が良いのかもしれない。
「分かった」と返事した後、京子はふと忘れていた事実に気付いた。
綾斗の部屋に行くのは、これが初めてだったのだ。
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