上 下
474 / 597
Episode4 京子

182 特別な場所

しおりを挟む
 まるで荷物を運び出すように連れて行かれた佳祐けいすけの遺体は、九州支部の地下に数日安置された。
 在籍のキーダーが居なくなった支部は事後処理に追われ、京子とたち本部の3人がその手伝いをする。勝手の分からない事も多くてんてこまいの日々を送り、ようやく仕事も落ち着いた頃、佳祐の葬儀がり行われた。

 勿論もちろんやよいの時のような式を上げることはできず、その場にいるキーダーのみという限定措置そちだ。福岡の病院に入院していた久志ひさしの許可は下りたが、同期組のマサも例外なく除外され、九州で一緒だった桃也とうやも海外から駆け付ける事はなかった。

 佳祐は親戚とは疎遠そえんになっていて、連絡を入れてはみたものの反応は薄い。
 修司しゅうじも前日に東京へ戻っていて、残った京子と綾斗あやと、そして久志の三人で数年前に亡くなったという佳祐の父親が眠る寺へ向かった。

「佳祐の馬鹿野郎」

 読経どっきょうの最中、久志がずっと佳祐への想いを微かな声で吐き出していた。
 椅子の前へ放り出された右足は、白いギプスでガチガチに固定されている。喪服を着ることが出来ず、Tシャツとハーフパンツに黒い腕章という姿だ。伸びきった髪は、耳の後ろでぎっちりと結わえられている。
 松葉杖で何とか歩くことはできるが、完治までは暫くかかるという。

 短い法要は午前のうちに終わり、火葬した骨を寺に預けて支部へ戻った。
 まだ明るい夕方に三人を迎えたのは、アルガス長官の宇波誠うなみまことだ。暫く本部に居た彼は、昼にヘリで福岡へ入ったらしい。

「お疲れ様」

 「ありがとう」とねぎらう誠に、京子が無言のまま頭を下げた。
 佳祐の粛清しゅくせいを任されたが、彼に止めを刺したのはしのぶだ。それがずっと京子の胸につかえている。

「長官、今回の件は申し訳ありませんでした」
「何を謝っているの? 一條くんの粛清は、手段を選ばないと言ったでしょう?」
「はい。でも……」
「良いんだ。それよりホルスの男と接触したんだろう? 本部に戻ったら三人ともその話を
聞かせて欲しい。もちろん空閑くがくんはオンラインで構わないからね」
「分かりました」

 京子は二人の後ろで小さく「はい」と答えた。
 ここぞという時に、私情が入る。
 この先に控える忍との戦闘に向けて、キーダーとしての自覚をもっと持たねばならないと思う。

 支部を出る誠の背を神妙な顔で見送ると、綾斗がそっと京子の背に触れた。ずっと緊張していた気持ちが少しだけ和らぐ。

「じゃあ、僕はそろそろ戻るよ」

 晴れない顔のまま、久志は病院へ戻る車に乗り込んだ。
 「またね」と後部座席から手を振る彼に会釈した綾斗は、「京子さん」と走り出す車から視線を返した。

「ちょっと行きたい場所があって。もし良かったら一緒に行って貰えると嬉しいんだけど」
「これから?」

 夜まではまだ時間がある。
 明日の午後に二人で東京へ戻る事になっていて、それまでは特に用事もなかった。
 彼の誘いが楽しいデートでない事は表情でわかる。

「いいけど、どこだろう……」
「特別な場所。じゃあ着替えたら部屋に迎えに行くね」

 「良かった」とはにかんだ綾斗につられて、京子は数日振りに笑顔を零した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サラマ・アンギュース~王位継承者

若山ゆう
ファンタジー
神の民〈サラマ・アンギュース〉を探し出せ――第一級神官にして第三王位継承者のエルシャは、300年ぶりといわれる神託を聞いた。 サラマ・アンギュースとは、神の力を宿すという不思議なかけらの持ち主。その力には破壊・予見・創造・操作・記憶・封印の6種類があり、神の民はこれらの神力を操るが、その詳細やかけらの数はわかっていない。 神は、何のために彼らを探し出せと命じたのか? 絶大な力を誇る彼らが、人々から忌み嫌われる理由とは? 従者であり親友のフェランとともに旅に出たエルシャは、踊り子の少女ナイシェとの出会いをきっかけに、過酷な運命に身を投じることとなる――。 勇気と絆に彩られた、戦いの物語。逃れられない運命の中で、彼らは何を失い、何を得るのか。 ※「完結」しました! ※各部初めに、あらすじ用意しています。 ※本編はじめにワールドマップあります。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

国一番の美女を決めるミスコン(語弊)にエントリーしたら優勝しそうな件…………本当は男だし、なんなら皇帝の実弟なんだが、どうしよう?

黒木  鳴
キャラ文芸
とある時代、華胥の国にて麗しく、才媛たる美女たちが熱い戦いを繰り広げていた。国一番の美女を決めるそのミスコン(語弊)に傾国という言葉が相応しい美貌を誇る陵王はエントリーした。そして優勝しそうになっている。胡蝶という偽名で絶世の美女を演じる陵王は、実は女装が趣味なナルシスト気味な男性であり、しかも皇帝の実弟というどえらい立場。優勝する気はなかった。悪戯半分での参加で途中フェードアウトするつもりだったのに何故か優勝しそうだ。そもそも女じゃないし、正体がバレるわけにもいかない。そんな大ピンチな陵王とその兄の皇帝、幼馴染の側近によるミスコン(語弊)の舞台裏。その後、を更新中。

今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-

秋濃美月
ファンタジー
月1、第一日曜日正午更新になります。よろしくお願いします。 ◎どちらの個人企画にも参加していません。参加予定もありません。応募関係はタグのみです。 ◎小説表紙 https://www.pixiv.net/artworks/69630403 からお借りしました。ありがとうございます。 前世である現代日本で ・実家の製薬会社がネット炎上事件をこじらせて中学にして一家心中し↓ ・異世界転生したら伯爵令嬢、麻疹をこじらせて前世の心中の記憶を思い出し↓ ・そこが大人気漫画ないとなう!の世界だと気づくも親はモブ↓ ・漫画の中の魔大戦においてもモブの伯爵にして騎士の両親は本編で紹介すらされずコマとコマの間で戦死↓ ・それでも国は勝ったし親のライバルにして親友の侯爵家に養女として引き取られました、わーい地位が上がった!?二階級特進!?↓ ・などと喜ぶはずもなく、すっかり生きる気力も何もありませんけど、養い親が帝国学院に入学させたいというので帝都に引っ越し↓ ・戦勝祝いと新年祝いを兼ねたお城のパーティに引きずり出されるが、キラキラした世界になじめずさっさと一人で帰宅しようとしたところ↓ ・救国の英雄アスランの暗殺イベントに巻き込まれたんだけど という前世友原のゆり、異世界では転生養女エリーゼの、英雄×モブが成立するかどうかの物語!!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜
キャラ文芸
東大医学部卒。今は港区の大病院に外科医として勤める主人公。 親友夫婦が突然の事故で亡くなった。主人公は遺された四人の子どもたちを引き取り、一緒に暮らすことになった。 資産は十分にある。 子どもたちは、主人公に懐いてくれる。 しかし、何の因果か、驚天動地の事件ばかりが起きる。 幼く美しい巨大財閥令嬢 ⇒ 主人公にベタベタです。 暗殺拳の美しい跡取り ⇒ 昔から主人公にベタ惚れです。 元レディースの超美しいナース ⇒ 主人公にいろんな意味でベタベタです。 大精霊 ⇒ お花を咲かせる類人猿です。 主人公の美しい長女 ⇒ もちろん主人公にベタベタですが、最強です。 主人公の長男 ⇒ 主人公を神の如く尊敬します。 主人公の双子の娘 ⇒ 主人公が大好きですが、大事件ばかり起こします。 その他美しい女たちと美しいゲイの青年 ⇒ みんなベタベタです。 伝説のヤクザ ⇒ 主人公の舎弟になります。 大妖怪 ⇒ 舎弟になります。 守り神ヘビ ⇒ 主人公が大好きです。 おおきな猫 ⇒ 主人公が超好きです。 女子会 ⇒ 無事に終わったことはありません。 理解不能な方は、是非本編へ。 決して後悔させません! 捧腹絶倒、涙流しまくりの世界へようこそ。 ちょっと過激な暴力描写もあります。 苦手な方は読み飛ばして下さい。 性描写は控えめなつもりです。 どんなに読んでもゼロカロリーです。

ヘンリエッタの再婚約

桃井すもも
恋愛
ヘンリエッタは学園の卒業を半年後に控えたある日、縁談を打診される。 それは王国の第二王子殿下からの勧めであるらしく、文には王家の金色の封蝋が見えていた。 そんな事ってあるだろうか。ヘンリエッタは第二王子殿下が無理にこの婚約を推し進めるのであれば、一層修道院にでも駆け込んで、決して言うがままにはされるまいと思った。 それもその筈、婚約話しの相手とは元の婚約者であった。 元婚約者のハロルドとは、彼が他に愛を移した事から婚約を解消した過去がある。 あれ以来、ヘンリエッタはひと粒の涙も零す事が無くなった。涙は既に枯れてしまった。 ❇短編から長編へ変更致しました。 ❇R15短編→後半より長編R18へ変更となりました。 ❇登場人物のお名前が他作品とダダ被りしておりますが、皆様別人でございます。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。史実とは異なっております。 ❇外道要素を含みます。苦手な方はお逃げ下さい。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく公開後から激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

秘伝賜ります

紫南
キャラ文芸
『陰陽道』と『武道』を極めた先祖を持つ大学生の高耶《タカヤ》は その先祖の教えを受け『陰陽武道』を継承している。 失いつつある武道のそれぞれの奥義、秘伝を預かり 継承者が見つかるまで一族で受け継ぎ守っていくのが使命だ。 その過程で、陰陽道も極めてしまった先祖のせいで妖絡みの問題も解決しているのだが…… ◆◇◆◇◆ 《おヌシ! まさか、オレが負けたと思っておるのか!? 陰陽武道は最強! 勝ったに決まっとるだろ!》 (ならどうしたよ。あ、まさかまたぼっちが嫌でとかじゃねぇよな? わざわざ霊界の門まで開けてやったのに、そんな理由で帰って来ねえよな?) 《ぐぅっ》……これが日常? ◆◇◆ 現代では恐らく最強! けれど地味で平凡な生活がしたい青年の非日常をご覧あれ! 【毎週水曜日0時頃投稿予定】

処理中です...