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Episode4 京子
152 背の高いイケメン
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あれは今年の正月の事だ。
別れたばかりの桃也にお守りを渡す為、飛び立つ前の彼を追って羽田空港へ向かった。
そこで出会った迷子少女『かの』の母親は、過去に自分もキーダーに助けられた事があるという。その相手を『背が高くて、カッコ良かった』と言っていたが、誰の事なのだろうか。
「ねぇ綾斗、曳地さんって背の高いイケメンだと思う?」
「はぁ?」
少し大きめな京子の声にぎょっとして、綾斗が「駄目だよ!」と小さく声を上げた。
もう既に本人の姿は視界から消えているが、どこにどんな耳が潜んでいるか分からない。
京子は右手で口を押さえ、スッキリしない表情で「うーん」と唸った。
「突然どうした?」
困り顔を傾ける綾斗に、京子は空港でのことを話す。
「ずっとそれが曳地さんの事だと思ってたんだけど、久しぶりに会ってみると何か違うような気がして。背が高いっていうのは、どのくらいを指すんだと思う?」
「俺に喧嘩売ってる?」
「そうじゃないよ。私からすれば綾斗だって高いもん。あのお母さんも、私と同じくらいの身長だったと思うんだ」
「京子さんがそう言ってくれるのは嬉しいけど、俺くらいの高さをわざわざ高いなんて言わないんじゃないかな。せめて175は軽く超えるくらいじゃないと」
「175か」
照れ臭そうな表情を堪えながら答える綾斗は、172か3だと言っていた気がする。そんな彼とほぼ同じ背の曳地は、京子の古い記憶よりもだいぶ視線が近かった。
「じゃあ、曳地さんは違うのかな。けど他に30代居ないよね? イケメンってのも……」
「駄目だよ、そこは個人の主観なんだから」
「はぁい」
悪ノリしそうになった所で止められ、京子は肩をすくめた。
「けど、結局誰の事なんだろう。15年以上前の爆発騒ぎで助けられたって言うけど、暴走事件が起きたって事?」
「『大晦日の白雪』以前に大規模な騒ぎはなかった筈だけど、小規模の物なら幾つかあったと思うよ」
京子もアルガスに来て長いが、過去にあった事件の話など耳にする機会は殆どなかった。
胸騒ぎを覚え、京子は不安な気持ちで綾斗を見上げる。
「何だろう、気になるな」
「朱羽さんに聞いてみるのが早いんじゃない? 彼女が一番詳しいと思うし、資料庫も当てにならない時があるから」
「確かにそうかも。連絡してみようかな」
朱羽はキーダーの中で一番の事情通だと思っている。
昼食後、京子は早速彼女に電話した。
☆
「15年くらい前の事なんだけど、暴走事件がどこかで起きてないかなと思って」
『その頃だと高松かしら。そこまで大きな事件ではないけど、暴走を起こした本人は、その時に亡くなってるわ』
「そんな事があったんだ。すごいよ朱羽、多分それの事だと思う」
正月に空港で会ったかの達は、帰省から戻ったのだと言っていた。確か四国からの便だった気がする。
四国は中国支部の管轄だが、曳地はまだ別の支部に居た筈だ。
とりあえず事件まで辿り着けたことに京子は「やった」とはしゃぐが、朱羽は『けどね』と言葉を濁す。
『詳細は殆どないのよ』
「小規模だったからってこと?」
『逆よ。御遺族の希望で消されてしまっているの』
「犯人の、じゃなくて? 他に死人が出てるって事?」
『えぇ』
朱羽の返事は重かった。
『大晦日の白雪』でさえ、桃也の暴走で亡くなったのは強盗犯の一人だけだ。犯人と被害者の二人も死人が出ているシークレット事案に、京子は目を見開いた。
「朱羽も知らないの?」
『私の口からは言えないって事よ。だから聞かないで』
「そういう事か。ごめん」
情報開示に関して、朱羽は一般のキーダーよりも権限がある。
京子には伝えられていない事実を、彼女はどれだけ持っているのだろう。
『謝らないで。それよりその事件がどうしたのよ。京子、何か探ってるの?」
「探ってるわけじゃないよ。昔、その事件の時にキーダーに助けられたって人が居てね、誰なんだろうって思ったの」
『そういう事か……けど、上が秘密にしているならそれなりに理由があるって事よ? あんまり首を突っ込まないようにね』
「うん」
秘密を知っている彼女が、そんな言葉をくれる。
詮索してはいけないと分かっているのに、『それなりの理由』が気になってしまう。
「それより京子、桃也くん大変な事になったわね。私たちもできる限り応援してあげなきゃ」
「そうだね」
桃也の事も気になるが、京子の頭は高松の事件で一杯になってしまう。
けれど、その哀しい答えに辿り着くまでそう時間は掛からなかった。
別れたばかりの桃也にお守りを渡す為、飛び立つ前の彼を追って羽田空港へ向かった。
そこで出会った迷子少女『かの』の母親は、過去に自分もキーダーに助けられた事があるという。その相手を『背が高くて、カッコ良かった』と言っていたが、誰の事なのだろうか。
「ねぇ綾斗、曳地さんって背の高いイケメンだと思う?」
「はぁ?」
少し大きめな京子の声にぎょっとして、綾斗が「駄目だよ!」と小さく声を上げた。
もう既に本人の姿は視界から消えているが、どこにどんな耳が潜んでいるか分からない。
京子は右手で口を押さえ、スッキリしない表情で「うーん」と唸った。
「突然どうした?」
困り顔を傾ける綾斗に、京子は空港でのことを話す。
「ずっとそれが曳地さんの事だと思ってたんだけど、久しぶりに会ってみると何か違うような気がして。背が高いっていうのは、どのくらいを指すんだと思う?」
「俺に喧嘩売ってる?」
「そうじゃないよ。私からすれば綾斗だって高いもん。あのお母さんも、私と同じくらいの身長だったと思うんだ」
「京子さんがそう言ってくれるのは嬉しいけど、俺くらいの高さをわざわざ高いなんて言わないんじゃないかな。せめて175は軽く超えるくらいじゃないと」
「175か」
照れ臭そうな表情を堪えながら答える綾斗は、172か3だと言っていた気がする。そんな彼とほぼ同じ背の曳地は、京子の古い記憶よりもだいぶ視線が近かった。
「じゃあ、曳地さんは違うのかな。けど他に30代居ないよね? イケメンってのも……」
「駄目だよ、そこは個人の主観なんだから」
「はぁい」
悪ノリしそうになった所で止められ、京子は肩をすくめた。
「けど、結局誰の事なんだろう。15年以上前の爆発騒ぎで助けられたって言うけど、暴走事件が起きたって事?」
「『大晦日の白雪』以前に大規模な騒ぎはなかった筈だけど、小規模の物なら幾つかあったと思うよ」
京子もアルガスに来て長いが、過去にあった事件の話など耳にする機会は殆どなかった。
胸騒ぎを覚え、京子は不安な気持ちで綾斗を見上げる。
「何だろう、気になるな」
「朱羽さんに聞いてみるのが早いんじゃない? 彼女が一番詳しいと思うし、資料庫も当てにならない時があるから」
「確かにそうかも。連絡してみようかな」
朱羽はキーダーの中で一番の事情通だと思っている。
昼食後、京子は早速彼女に電話した。
☆
「15年くらい前の事なんだけど、暴走事件がどこかで起きてないかなと思って」
『その頃だと高松かしら。そこまで大きな事件ではないけど、暴走を起こした本人は、その時に亡くなってるわ』
「そんな事があったんだ。すごいよ朱羽、多分それの事だと思う」
正月に空港で会ったかの達は、帰省から戻ったのだと言っていた。確か四国からの便だった気がする。
四国は中国支部の管轄だが、曳地はまだ別の支部に居た筈だ。
とりあえず事件まで辿り着けたことに京子は「やった」とはしゃぐが、朱羽は『けどね』と言葉を濁す。
『詳細は殆どないのよ』
「小規模だったからってこと?」
『逆よ。御遺族の希望で消されてしまっているの』
「犯人の、じゃなくて? 他に死人が出てるって事?」
『えぇ』
朱羽の返事は重かった。
『大晦日の白雪』でさえ、桃也の暴走で亡くなったのは強盗犯の一人だけだ。犯人と被害者の二人も死人が出ているシークレット事案に、京子は目を見開いた。
「朱羽も知らないの?」
『私の口からは言えないって事よ。だから聞かないで』
「そういう事か。ごめん」
情報開示に関して、朱羽は一般のキーダーよりも権限がある。
京子には伝えられていない事実を、彼女はどれだけ持っているのだろう。
『謝らないで。それよりその事件がどうしたのよ。京子、何か探ってるの?」
「探ってるわけじゃないよ。昔、その事件の時にキーダーに助けられたって人が居てね、誰なんだろうって思ったの」
『そういう事か……けど、上が秘密にしているならそれなりに理由があるって事よ? あんまり首を突っ込まないようにね』
「うん」
秘密を知っている彼女が、そんな言葉をくれる。
詮索してはいけないと分かっているのに、『それなりの理由』が気になってしまう。
「それより京子、桃也くん大変な事になったわね。私たちもできる限り応援してあげなきゃ」
「そうだね」
桃也の事も気になるが、京子の頭は高松の事件で一杯になってしまう。
けれど、その哀しい答えに辿り着くまでそう時間は掛からなかった。
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