414 / 620
Episode4 京子
127 若かりし頃の顔
しおりを挟む
颯太が地下の資料庫から持ち出してきた青いファイルは、解放以前のアルガスに在籍していたキーダーの名簿だった。
最初に捲ったページに、入学式よろしく当時居た全員の集合写真を見つけて、京子は「見せて下さい!」とテンションを上げる。
「俺がアルガスに入ってすぐの時だな。新人は久しぶりだからって言って、誠さんが俺たちを並べて写真撮ったんだ。まさかまだ残ってたとはな」
薄っすらと黄ばんだ紙に貼られた集合写真の右下には、今から三十年程前の春の日付がオレンジ色の文字で刻まれていた。
前列と後列に並ぶ十数人の男女はいずれもキーダーで、今とは違うデザインの制服を着ている。
「あ、これ浩一郎さんだ!」
アルガス解放でその殆どがトールになってしまったが、彼だけは一目で当てることが出来た。息子である彰人と同じ顔をしていたからだ。
「まんまだよな? 俺も彰人に初めて会った時、うわって驚いたもんな」
「彰人くんを、もう少しクールにした感じ──ですかね」
髪型は違うが、端正な顔立ちと薄く目を細めて笑う表情が良く似ている。
ハナと恋人同士だったこの時代の彼は、今よりも優しい顔をしていた。
「なら、この真ん中の男子が颯太さんですね」
「あぁ、そうだよ」
上から覗き込んだ銀次が、自信あり気に指差す。はっきりとした顔立ちに、まだあどけなさを残した颯太は、ムッスリとカメラを睨みつけていた。
「まだ髭がない」と京子が思ったままを口にすると、颯太は「当たり前だ」と笑う。
「高校生だぜ? 良い男だろ」
「はい。女子には全然興味なさそうですけどね」
「それは事実だから仕方ねぇよ。んで、こっちが勘爾さん。分かるか?」
前列の端にぽつんと立つ男子にその面影を見て、京子は「本当だ!」と声を上げる。英雄と言われる以前の彼は、今のような存在感をまだ持ち合わせてはいなかったようだ。
「颯太さん……?」
ふと颯太の目が一点を見ている事に気付いて、京子は彼の視線を追う。
写真に触れた彼の指先が、中央に立つ二人の男の間にあった。どちらを指しているかは分からないが、二人とも京子が初めて見る顔だ。
「その人が、颯太さんの見たかった相手ですか?」
ページの下に注釈があって、一人が『松本秀信』、もう一人が『加賀泰尚』と書かれている。
彼ら二人と颯太の間に物悲しい空気を垣間見て、京子は先日の会話を思い出す。
「確か、松本さんがバーサーカーなんですよね?」
黙る颯太に質問を重ねると、彼はハッとしたように顔を上げて「そうだよ」と眉を下げた。
「そういや、こんな顔してたわ」
憂鬱そうに吐いて颯太が改めて松本を指差す。彼はもうトールになってしまったという元バーサーカーの男らしい。
彼の話をした時、あまり好意的な相手ではない事には気付いていた。
面長の顔で、タレ目に少し大きな泣きボクロがある。やる気のない颯太のすぐ下で、自信あり気な表情が対称的だ。
「この人だけじゃないけど。みんなどんな顔してたっけと思ってな」
にっこりと笑んだはずの颯太の表情が、京子にはどうしてか辛そうに見えた。
過去に何かあったのだろうか。
「あの、颯太さん──?」
聞いてみようかと尋ねたところで、京子のスマホが鳴り響く。
事務所からの連絡だった。
東京湾に水死体が上がったらしい。
最初に捲ったページに、入学式よろしく当時居た全員の集合写真を見つけて、京子は「見せて下さい!」とテンションを上げる。
「俺がアルガスに入ってすぐの時だな。新人は久しぶりだからって言って、誠さんが俺たちを並べて写真撮ったんだ。まさかまだ残ってたとはな」
薄っすらと黄ばんだ紙に貼られた集合写真の右下には、今から三十年程前の春の日付がオレンジ色の文字で刻まれていた。
前列と後列に並ぶ十数人の男女はいずれもキーダーで、今とは違うデザインの制服を着ている。
「あ、これ浩一郎さんだ!」
アルガス解放でその殆どがトールになってしまったが、彼だけは一目で当てることが出来た。息子である彰人と同じ顔をしていたからだ。
「まんまだよな? 俺も彰人に初めて会った時、うわって驚いたもんな」
「彰人くんを、もう少しクールにした感じ──ですかね」
髪型は違うが、端正な顔立ちと薄く目を細めて笑う表情が良く似ている。
ハナと恋人同士だったこの時代の彼は、今よりも優しい顔をしていた。
「なら、この真ん中の男子が颯太さんですね」
「あぁ、そうだよ」
上から覗き込んだ銀次が、自信あり気に指差す。はっきりとした顔立ちに、まだあどけなさを残した颯太は、ムッスリとカメラを睨みつけていた。
「まだ髭がない」と京子が思ったままを口にすると、颯太は「当たり前だ」と笑う。
「高校生だぜ? 良い男だろ」
「はい。女子には全然興味なさそうですけどね」
「それは事実だから仕方ねぇよ。んで、こっちが勘爾さん。分かるか?」
前列の端にぽつんと立つ男子にその面影を見て、京子は「本当だ!」と声を上げる。英雄と言われる以前の彼は、今のような存在感をまだ持ち合わせてはいなかったようだ。
「颯太さん……?」
ふと颯太の目が一点を見ている事に気付いて、京子は彼の視線を追う。
写真に触れた彼の指先が、中央に立つ二人の男の間にあった。どちらを指しているかは分からないが、二人とも京子が初めて見る顔だ。
「その人が、颯太さんの見たかった相手ですか?」
ページの下に注釈があって、一人が『松本秀信』、もう一人が『加賀泰尚』と書かれている。
彼ら二人と颯太の間に物悲しい空気を垣間見て、京子は先日の会話を思い出す。
「確か、松本さんがバーサーカーなんですよね?」
黙る颯太に質問を重ねると、彼はハッとしたように顔を上げて「そうだよ」と眉を下げた。
「そういや、こんな顔してたわ」
憂鬱そうに吐いて颯太が改めて松本を指差す。彼はもうトールになってしまったという元バーサーカーの男らしい。
彼の話をした時、あまり好意的な相手ではない事には気付いていた。
面長の顔で、タレ目に少し大きな泣きボクロがある。やる気のない颯太のすぐ下で、自信あり気な表情が対称的だ。
「この人だけじゃないけど。みんなどんな顔してたっけと思ってな」
にっこりと笑んだはずの颯太の表情が、京子にはどうしてか辛そうに見えた。
過去に何かあったのだろうか。
「あの、颯太さん──?」
聞いてみようかと尋ねたところで、京子のスマホが鳴り響く。
事務所からの連絡だった。
東京湾に水死体が上がったらしい。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
NPO法人マヨヒガ! ~CGモデラーって難しいんですか?~
みつまめ つぼみ
キャラ文芸
ハードワークと職業適性不一致に悩み、毎日をつらく感じている香澄(かすみ)。
彼女は帰り道、不思議な喫茶店を見つけて足を踏み入れる。
そこで出会った青年マスター晴臣(はるおみ)は、なんと『ぬらりひょん』!
彼は香澄を『マヨヒガ』へと誘い、彼女の保護を約束する。
離職した香澄は、新しいステージである『3DCGモデラー』で才能を開花させる。
香澄の手が、デジタル空間でキャラクターに命を吹き込む――。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる