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Episode4 京子
86 初めて知った事
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納棺は既に終わっていて、棺の側にはやよいの家族が居た。
祭壇のある部屋の入口ですれ違ったマサが、京子と綾斗に気付いて足を止める。
いつもジャージ姿の彼が施設員の制服に黒いネクタイを絞めるという見慣れない光景に、京子は少なからず違和感を感じてしまった。
「何だもう来てたのか」
「駅に着いたのは昼過ぎだったんですけど、ホテルでじっとしていられなくて」
「観光って気分にもならねぇか。お前たち、如月さんには会った事あるよな?」
焼香後、マサにやよいの家族を紹介される。
夫である如月は寂しさを溜め込んだような笑顔を見せて、まだ未就学の小さな娘を腰の前に抱きしめていた。
「マサさん、明日の事で打ち合わせ良いですか?」
「おぅ。ちょっと行ってくるな」
施設員の男に呼ばれて、マサがその場を離れる。
京子と綾斗は改めて如月に頭を下げた。
「この度は、お悔やみ申し上げます」
「ありがとうございます。是非やよいの事見てやってください。綺麗な顔してるんで」
たくさんの花に囲まれたやよいは、ただそこに眠っているように見えた。あまりにも普段と変わらない表情に、涙を堪えて見入ってしまう。
「やよいさん……」
返って来ない返事を待って、綾斗が呼び掛けた。
胸元に組んだやよいの手首には銀環が光っている。
──『私もこの銀環は外せない。仕方ないじゃないか、選ばれてしまったんだもの。だからキーダーとして死んで、棺桶まで持っていくつもりだよ』
暮れに居酒屋でそんな話をした。あの時やよいは、近い未来にこうなる事を予感していたのだろうか。
望み通り、彼女は制服を着たキーダーの姿で棺に納められていた。
胸部の損傷が激しかったのだと如月が淡々と説明する。止めを刺されたのかと思うと急に苦しくなって、京子は唇をきゅっと噛みしめた。
棺の中には花以外に生前彼女が好きだったという食べ物や娘の描いた絵が入っているが、京子はふと意外なものを見つけて「あれ」と首を傾げる。
「どうしました?」
「煙草がある。やよいさん吸ってたかな?」
花に半分埋もれて、煙草が一箱そっと足元に添えられていたのだ。
京子の中に、やよいが愛煙家だという記憶はない。けれど綾斗は「そうなんですよ」と頷いた。
「俺もこの間知ったんですけど、たまに吸うんだって言ってました」
「へぇ、そうなんだ。知らなかった」
「彼女、僕や娘の前でも遠慮して吸わなかったんですよ。吸うのは知ってたんですけどね」
「じゃあ本当に、たまにだったんですね」
夫である如月の前ですらその程度では、京子が知るわけもない。
こんな時になって、やよいの新しい一面に触れてしまった。
けれどそれ以上気にすることもなく、京子は綾斗とその場を離れた。
祭壇のある部屋の入口ですれ違ったマサが、京子と綾斗に気付いて足を止める。
いつもジャージ姿の彼が施設員の制服に黒いネクタイを絞めるという見慣れない光景に、京子は少なからず違和感を感じてしまった。
「何だもう来てたのか」
「駅に着いたのは昼過ぎだったんですけど、ホテルでじっとしていられなくて」
「観光って気分にもならねぇか。お前たち、如月さんには会った事あるよな?」
焼香後、マサにやよいの家族を紹介される。
夫である如月は寂しさを溜め込んだような笑顔を見せて、まだ未就学の小さな娘を腰の前に抱きしめていた。
「マサさん、明日の事で打ち合わせ良いですか?」
「おぅ。ちょっと行ってくるな」
施設員の男に呼ばれて、マサがその場を離れる。
京子と綾斗は改めて如月に頭を下げた。
「この度は、お悔やみ申し上げます」
「ありがとうございます。是非やよいの事見てやってください。綺麗な顔してるんで」
たくさんの花に囲まれたやよいは、ただそこに眠っているように見えた。あまりにも普段と変わらない表情に、涙を堪えて見入ってしまう。
「やよいさん……」
返って来ない返事を待って、綾斗が呼び掛けた。
胸元に組んだやよいの手首には銀環が光っている。
──『私もこの銀環は外せない。仕方ないじゃないか、選ばれてしまったんだもの。だからキーダーとして死んで、棺桶まで持っていくつもりだよ』
暮れに居酒屋でそんな話をした。あの時やよいは、近い未来にこうなる事を予感していたのだろうか。
望み通り、彼女は制服を着たキーダーの姿で棺に納められていた。
胸部の損傷が激しかったのだと如月が淡々と説明する。止めを刺されたのかと思うと急に苦しくなって、京子は唇をきゅっと噛みしめた。
棺の中には花以外に生前彼女が好きだったという食べ物や娘の描いた絵が入っているが、京子はふと意外なものを見つけて「あれ」と首を傾げる。
「どうしました?」
「煙草がある。やよいさん吸ってたかな?」
花に半分埋もれて、煙草が一箱そっと足元に添えられていたのだ。
京子の中に、やよいが愛煙家だという記憶はない。けれど綾斗は「そうなんですよ」と頷いた。
「俺もこの間知ったんですけど、たまに吸うんだって言ってました」
「へぇ、そうなんだ。知らなかった」
「彼女、僕や娘の前でも遠慮して吸わなかったんですよ。吸うのは知ってたんですけどね」
「じゃあ本当に、たまにだったんですね」
夫である如月の前ですらその程度では、京子が知るわけもない。
こんな時になって、やよいの新しい一面に触れてしまった。
けれどそれ以上気にすることもなく、京子は綾斗とその場を離れた。
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