346 / 597
Episode4 京子
62 125キロ
しおりを挟む
さっきまで、もう少し酔いたいと思っていたのは事実だ。
同窓会でアルコールが回らなかったのは、クラスメイトに溶け込めなかった事と、何より彰人と同席したことで、ずっと緊張していたからだと思っている。
だから彼と二人きりになるというシチュエーションは、本末転倒な気がした。
彼に何かを期待しているわけでも警戒しているわけでもないが、少しだけ後ろめたい気持ちを覚えて、すぐに返事することができない。
「それとも、誰か気になる人でもいる?」
「えっ……」
「京子ちゃんの気持ちは、もう決まってるんじゃないの? それとも桃也の事が忘れられない?」
「何の事言ってるの?」
心の底を読まれている気がして、京子は首を傾げて惚けて見せた。その感情は、まだ自分でもきちんと触れられない場所にある。
「困らせちゃったか。ごめんね」
「ううん。けど、桃也の所に戻るつもりはないから」
「それでいいんじゃない? 京子ちゃんが誰を好きでも、僕は京子ちゃんのこと応援するから。同僚で、同級生で、幼馴染み──一番の友達でしょ?」
「彰人くん……?」
「だからこれからは、そこに親友って言葉も混ぜておいて」
親友なんて言葉は、同性も含めて京子にはあまり馴染みのない言葉だった。陽菜ですら、『幼馴染み』と言う言葉を使っている。
くすぐったい響きに肩をすくめて、京子は「うん」と頷いた。
「親友なんて言われたの初めてかも」
「それは光栄だね。この間のチョコもありがとね、美味しかったよ」
「なら良かった」
何だか照れ臭い気分になって、京子は軽く勢いを付けて立ち上がる。
彼の動向にモヤモヤしていた自分が馬鹿らしく思えた。
「じゃあ、一軒だけなら行こうかな」
「うん、決まりだ」
彰人はコートを整え、広場から駅の中へと足を向ける。
「え? こっち?」
「だって、アーケードに戻ったら誰かに見られちゃうかもしれないし」
「そうだった」
駅の中にも幾つかお酒を飲める店はある。
やましい事をしているわけではないが、なるべくなら誰の目にも触れないでおきたかった。彼に好意を抱いている女子に『抜け駆け』などと思われてしまったら面倒だ。
けれど彰人はエスカレーターを上ったところで、飲食店側とは反対方向へ進んだ。戸惑う京子を気にもせず、彼は改札横の券売機前で財布を取り出す。
「ちょっと彰人くん、どこ行くつもり? ここって新幹線の──」
「うん。ホワイトデー会えそうにもないから、チョコのお礼ってことにしておいて」
「えぇ?」
まだ時間は早かった。電光掲示板には、上りも下りもこれから出発の便が表示されている。
どっちだろうとボタンを押す彼の指を追って、京子は「あっ」と目を見開いた。
「ここから仙台まで約125キロ。新幹線だと40分で行けちゃうんだよ。だから京子ちゃん、一緒にプラトーへ行こうよ」
「それって、もしかして平野さんのお店?」
懐かしい響きに、京子はパッと破願する。
「当たり」
彰人がいつものように目を細めて微笑んだ。
同窓会でアルコールが回らなかったのは、クラスメイトに溶け込めなかった事と、何より彰人と同席したことで、ずっと緊張していたからだと思っている。
だから彼と二人きりになるというシチュエーションは、本末転倒な気がした。
彼に何かを期待しているわけでも警戒しているわけでもないが、少しだけ後ろめたい気持ちを覚えて、すぐに返事することができない。
「それとも、誰か気になる人でもいる?」
「えっ……」
「京子ちゃんの気持ちは、もう決まってるんじゃないの? それとも桃也の事が忘れられない?」
「何の事言ってるの?」
心の底を読まれている気がして、京子は首を傾げて惚けて見せた。その感情は、まだ自分でもきちんと触れられない場所にある。
「困らせちゃったか。ごめんね」
「ううん。けど、桃也の所に戻るつもりはないから」
「それでいいんじゃない? 京子ちゃんが誰を好きでも、僕は京子ちゃんのこと応援するから。同僚で、同級生で、幼馴染み──一番の友達でしょ?」
「彰人くん……?」
「だからこれからは、そこに親友って言葉も混ぜておいて」
親友なんて言葉は、同性も含めて京子にはあまり馴染みのない言葉だった。陽菜ですら、『幼馴染み』と言う言葉を使っている。
くすぐったい響きに肩をすくめて、京子は「うん」と頷いた。
「親友なんて言われたの初めてかも」
「それは光栄だね。この間のチョコもありがとね、美味しかったよ」
「なら良かった」
何だか照れ臭い気分になって、京子は軽く勢いを付けて立ち上がる。
彼の動向にモヤモヤしていた自分が馬鹿らしく思えた。
「じゃあ、一軒だけなら行こうかな」
「うん、決まりだ」
彰人はコートを整え、広場から駅の中へと足を向ける。
「え? こっち?」
「だって、アーケードに戻ったら誰かに見られちゃうかもしれないし」
「そうだった」
駅の中にも幾つかお酒を飲める店はある。
やましい事をしているわけではないが、なるべくなら誰の目にも触れないでおきたかった。彼に好意を抱いている女子に『抜け駆け』などと思われてしまったら面倒だ。
けれど彰人はエスカレーターを上ったところで、飲食店側とは反対方向へ進んだ。戸惑う京子を気にもせず、彼は改札横の券売機前で財布を取り出す。
「ちょっと彰人くん、どこ行くつもり? ここって新幹線の──」
「うん。ホワイトデー会えそうにもないから、チョコのお礼ってことにしておいて」
「えぇ?」
まだ時間は早かった。電光掲示板には、上りも下りもこれから出発の便が表示されている。
どっちだろうとボタンを押す彼の指を追って、京子は「あっ」と目を見開いた。
「ここから仙台まで約125キロ。新幹線だと40分で行けちゃうんだよ。だから京子ちゃん、一緒にプラトーへ行こうよ」
「それって、もしかして平野さんのお店?」
懐かしい響きに、京子はパッと破願する。
「当たり」
彰人がいつものように目を細めて微笑んだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる