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Episode4 京子
57 初恋の幼馴染
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「綾斗さん、最近京子さんと距離置いてます?」
デスクルームで見送った京子の足音が遠退いたタイミングで、横に並んだ美弦が綾斗を見上げた。
「そんなことないけど、そう見える?」
「何となく。それとも余裕ってことですか? そんなに落ち着いていられるなんて」
美弦の目が意味深な雰囲気を醸し出しているが、綾斗はすぐにその意味を理解することができなかった。
「京子さんが帰省するくらい何てことないだろ?」
「中学の同窓会に行くんですよね? それって彰人さんが居るかもって事じゃないですか?」
「あ──」
その事実を忘れていた訳ではないが、同窓会と聞いて繋げることができなかった。
京子にとって彰人は同郷の幼馴染であり、初恋の相手だ。彼女にとっては過去の事だけれど、前に初詣で話をした時『顔を見るとドキドキする』と言っていた言葉が頭の片隅にずっと貼り付いている。
「今日は北で会議の予定入ってますけど、福島なら終わってから行けない距離じゃないと思います」
「……そうだろうね」
北海道支部とはいえ、所在地は函館だ。そこからは新幹線で移動できるし、彼の仕事によってはヘリの使用も可能だろう。
「京子さんは今フリーなんですから。のんびりしてると誰かに取られちゃいますよ?」
そんなことを言う美弦は、彰人や桃也とも仲が良い。必死に応援してくれるのは有難いが、だからと言って今何かをすることもできず、綾斗は溜息をついた。
「彰人さんと京子さんが向こうで会ったとしても、そこからどうするかは本人次第。答えを出すのは京子さんだから」
「答え?」
「美弦には俺が距離置いてるように見えるんだろ? それって、俺が保留期間中だから無意識に受け身がちになってるのかも」
彼女に話すつもりはなかったが、話しても良いと思ったらするりと声に出た。
「俺、京子さんに好きだって言ったんだ。今は返事待ち」
「ええっ、ホントですか?」
飛びつくように声を上げて、美弦は興奮を抑えるように両手で口元を抑え付けた。何故か彼女の顔が真っ赤になっている。
「京子さん、バレンタインの時何も言ってくれなかったのに……あれより後ですか?」
「ううん、前だよ。けど女子ってそういうのいちいち報告し合うものなの?」
「そういう訳じゃないです。けど、脈のない相手を保留扱いなんて絶対にしませんから!」
少しくらい期待してもいいのだろうか。
京子と桃也が別れて、正直嬉しいとは思わなかった。京子を好きなことに変わりはないが、彼女の気持ちがわかる分、最初は元気に振る舞う姿を見ているのが辛かった。
それでも、久志に背中を押されて想いを伝えた事は良かったと思う。そのお陰で、それまでずっとあった焦りは消えている。
「私、アルガスに来てずっと綾斗さんや京子さんの側に居たんですよ? 綾斗さんが居なかったら、京子さんは桃也さんと別れていなかったと思います」
「そんなことないと思うけど?」
「綾斗さんが居たから、京子さんは今の京子さんで居られるんですからね?」
突然泣き出しそうに顔を歪めて、美弦はそう訴えた。
彼女の言う事が本当かどうかは分からないけれど、綾斗は「分かったよ」とポジティブにその言葉を受け止める。
「美弦も四月の事で不安だと思うけど、大丈夫だから」
「──はい」
今日修司がここに居ないのは、来月から北陸へ移動する準備のためだ。
高校からそのまま東黄大へ進学する美弦は、本部在籍のまま訓練施設に入る彼と一年を離れて過ごす予定だ。
たった一年だと思うけれど、三年前の京子もこの直前の期間を大分落ち込んで過ごしていた。今考えると、そんなに前の事なのかと驚いてしまう。
「彰人さんは、京子さんの事好きだと思います」
三年前京子とあの夜を過ごした街で、今度は彼女が彰人と会うのだろうか。
「……分かってるよ」
普段通りに答えたつもりの声が棘を含む。
自分が思った以上に苛立っているのが分かって、綾斗は右手に拳を握り締めた。
デスクルームで見送った京子の足音が遠退いたタイミングで、横に並んだ美弦が綾斗を見上げた。
「そんなことないけど、そう見える?」
「何となく。それとも余裕ってことですか? そんなに落ち着いていられるなんて」
美弦の目が意味深な雰囲気を醸し出しているが、綾斗はすぐにその意味を理解することができなかった。
「京子さんが帰省するくらい何てことないだろ?」
「中学の同窓会に行くんですよね? それって彰人さんが居るかもって事じゃないですか?」
「あ──」
その事実を忘れていた訳ではないが、同窓会と聞いて繋げることができなかった。
京子にとって彰人は同郷の幼馴染であり、初恋の相手だ。彼女にとっては過去の事だけれど、前に初詣で話をした時『顔を見るとドキドキする』と言っていた言葉が頭の片隅にずっと貼り付いている。
「今日は北で会議の予定入ってますけど、福島なら終わってから行けない距離じゃないと思います」
「……そうだろうね」
北海道支部とはいえ、所在地は函館だ。そこからは新幹線で移動できるし、彼の仕事によってはヘリの使用も可能だろう。
「京子さんは今フリーなんですから。のんびりしてると誰かに取られちゃいますよ?」
そんなことを言う美弦は、彰人や桃也とも仲が良い。必死に応援してくれるのは有難いが、だからと言って今何かをすることもできず、綾斗は溜息をついた。
「彰人さんと京子さんが向こうで会ったとしても、そこからどうするかは本人次第。答えを出すのは京子さんだから」
「答え?」
「美弦には俺が距離置いてるように見えるんだろ? それって、俺が保留期間中だから無意識に受け身がちになってるのかも」
彼女に話すつもりはなかったが、話しても良いと思ったらするりと声に出た。
「俺、京子さんに好きだって言ったんだ。今は返事待ち」
「ええっ、ホントですか?」
飛びつくように声を上げて、美弦は興奮を抑えるように両手で口元を抑え付けた。何故か彼女の顔が真っ赤になっている。
「京子さん、バレンタインの時何も言ってくれなかったのに……あれより後ですか?」
「ううん、前だよ。けど女子ってそういうのいちいち報告し合うものなの?」
「そういう訳じゃないです。けど、脈のない相手を保留扱いなんて絶対にしませんから!」
少しくらい期待してもいいのだろうか。
京子と桃也が別れて、正直嬉しいとは思わなかった。京子を好きなことに変わりはないが、彼女の気持ちがわかる分、最初は元気に振る舞う姿を見ているのが辛かった。
それでも、久志に背中を押されて想いを伝えた事は良かったと思う。そのお陰で、それまでずっとあった焦りは消えている。
「私、アルガスに来てずっと綾斗さんや京子さんの側に居たんですよ? 綾斗さんが居なかったら、京子さんは桃也さんと別れていなかったと思います」
「そんなことないと思うけど?」
「綾斗さんが居たから、京子さんは今の京子さんで居られるんですからね?」
突然泣き出しそうに顔を歪めて、美弦はそう訴えた。
彼女の言う事が本当かどうかは分からないけれど、綾斗は「分かったよ」とポジティブにその言葉を受け止める。
「美弦も四月の事で不安だと思うけど、大丈夫だから」
「──はい」
今日修司がここに居ないのは、来月から北陸へ移動する準備のためだ。
高校からそのまま東黄大へ進学する美弦は、本部在籍のまま訓練施設に入る彼と一年を離れて過ごす予定だ。
たった一年だと思うけれど、三年前の京子もこの直前の期間を大分落ち込んで過ごしていた。今考えると、そんなに前の事なのかと驚いてしまう。
「彰人さんは、京子さんの事好きだと思います」
三年前京子とあの夜を過ごした街で、今度は彼女が彰人と会うのだろうか。
「……分かってるよ」
普段通りに答えたつもりの声が棘を含む。
自分が思った以上に苛立っているのが分かって、綾斗は右手に拳を握り締めた。
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