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Episode4 京子
30 先輩の言う事は聞くものだよ
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真っ白く曇った窓を手で拭い、すっかり暗くなった空を眺めていると、鍋を乗せたカセットコンロに火を入れた久志がシャツの袖を下ろしながら隣に並んできた。
「東京はそっちじゃないよ」
「別に、そういうつもりで見てたわけじゃないですから」
ニコニコと目を細めて、久志は東南を指差す。
「メール?」と手元を覗き込んでくる視線を逃れて、綾斗はスマホをポケットにしまった。
すぐに折り返しで来たクリスマスのメッセージに返信するか迷っていたが、これ以上続けたら京子にも久志にも悪い気がして、パーティの準備に戻る。
アルガス北陸支部にある技術部の一角が、久志の仮眠部屋を兼ねた六畳の和室になっていた。最初やよいにも声を掛けようと話していたが、彼女はクリスマスだからと数日休みをとったらしい。先日の礼を素面で言いたかったのに、今回は会えそうになかった。
テーブルには昼間買ってきた料理や食材が並んでいる。その横には久志が準備したクリスマスのグッズが置かれていて、三角帽子とクラッカー、それに鼻眼鏡まであった。
部屋の隅に飾られたクリスマスツリーは、普段技術部のデスクルームにあるものらしい。
今日は久志主催の蟹パーティだが、12月24日という日付からクリスマスパーティを兼ねている。
「鍋もグツグツ煮えて来たし、そろそろ始めようよ」
「シャンパンとってきますね」
部屋の外にある冷蔵庫へ行って、太いシャンパンの瓶を持ってくる。
久志がポンと栓を抜いて、まずはグラスで乾杯をした。
「さっきのメール、京子ちゃんに送ったんでしょ? 告白でもしたの?」
「してません。そういうのメールでするってどうなんですか?」
「今の時代はアリなんじゃない? 僕はしないけどさ」
今日がクリスマスイブだと気付いて、駅前で目についたツリーの写真を送った。深い意味はないけれど、すぐに返事を貰えたのは嬉しかった。
「だったら俺にさせないで下さい」
「もぅ、綾斗は硬いんだから。よし、じゃあ僕が綾斗の写真を京子ちゃんに──」
「やめて下さい!」
おもむろにカメラアプリを立ち上げようとする久志の腕を、慌てて掴む。ボヤッとしていたら、勝手に撮った顔写真を送られてしまいそうな勢いだ。
「余計なお世話?」
「桃也さんが居るんですよ?」
「そんなの誰だって知ってるよ。もしかして、彼女に好きだって言ったことないの?」
「……ないです」
久志は何も言わずに、綾斗の背をドンと叩く。彼と恋愛の話なんて殆どしたことがなかった。
鍋から蟹の匂いが少しずつ広がってきて、空腹感が増してくる。早く食べたいと思うのに、いつになく真剣な久志に戸惑ってしまった。
「どうしたんですか?」
「ただ側に居るだけじゃ、どうにもならないって事だよ。誰かに非難されようとも、まずは気持ちを伝えなきゃ。京子ちゃんが好きなんだろ? キーダーなんていつ何があるか分からないんだし。気持ちさえ伝えられたら、あとは京子ちゃんが決める事なんだから」
「久志さん……」
「僕だって、綾斗が好きだっていつも言ってるじゃないか」
「それって……同じなんですか?」
「同じだよ。好きな気持ちに種類なんてないよ」
若干、はぐらかされた気もする。
「綾斗が後悔しないように。ね? 好きな人ができたらちゃんと想いを伝えろって、昔やよいに言われたでしょ? 先輩の言う事は聞くものだよ」
「はい」
懐かしい会話を噛みしめながら、綾斗はもう一度久志と乾杯をした。
「東京はそっちじゃないよ」
「別に、そういうつもりで見てたわけじゃないですから」
ニコニコと目を細めて、久志は東南を指差す。
「メール?」と手元を覗き込んでくる視線を逃れて、綾斗はスマホをポケットにしまった。
すぐに折り返しで来たクリスマスのメッセージに返信するか迷っていたが、これ以上続けたら京子にも久志にも悪い気がして、パーティの準備に戻る。
アルガス北陸支部にある技術部の一角が、久志の仮眠部屋を兼ねた六畳の和室になっていた。最初やよいにも声を掛けようと話していたが、彼女はクリスマスだからと数日休みをとったらしい。先日の礼を素面で言いたかったのに、今回は会えそうになかった。
テーブルには昼間買ってきた料理や食材が並んでいる。その横には久志が準備したクリスマスのグッズが置かれていて、三角帽子とクラッカー、それに鼻眼鏡まであった。
部屋の隅に飾られたクリスマスツリーは、普段技術部のデスクルームにあるものらしい。
今日は久志主催の蟹パーティだが、12月24日という日付からクリスマスパーティを兼ねている。
「鍋もグツグツ煮えて来たし、そろそろ始めようよ」
「シャンパンとってきますね」
部屋の外にある冷蔵庫へ行って、太いシャンパンの瓶を持ってくる。
久志がポンと栓を抜いて、まずはグラスで乾杯をした。
「さっきのメール、京子ちゃんに送ったんでしょ? 告白でもしたの?」
「してません。そういうのメールでするってどうなんですか?」
「今の時代はアリなんじゃない? 僕はしないけどさ」
今日がクリスマスイブだと気付いて、駅前で目についたツリーの写真を送った。深い意味はないけれど、すぐに返事を貰えたのは嬉しかった。
「だったら俺にさせないで下さい」
「もぅ、綾斗は硬いんだから。よし、じゃあ僕が綾斗の写真を京子ちゃんに──」
「やめて下さい!」
おもむろにカメラアプリを立ち上げようとする久志の腕を、慌てて掴む。ボヤッとしていたら、勝手に撮った顔写真を送られてしまいそうな勢いだ。
「余計なお世話?」
「桃也さんが居るんですよ?」
「そんなの誰だって知ってるよ。もしかして、彼女に好きだって言ったことないの?」
「……ないです」
久志は何も言わずに、綾斗の背をドンと叩く。彼と恋愛の話なんて殆どしたことがなかった。
鍋から蟹の匂いが少しずつ広がってきて、空腹感が増してくる。早く食べたいと思うのに、いつになく真剣な久志に戸惑ってしまった。
「どうしたんですか?」
「ただ側に居るだけじゃ、どうにもならないって事だよ。誰かに非難されようとも、まずは気持ちを伝えなきゃ。京子ちゃんが好きなんだろ? キーダーなんていつ何があるか分からないんだし。気持ちさえ伝えられたら、あとは京子ちゃんが決める事なんだから」
「久志さん……」
「僕だって、綾斗が好きだっていつも言ってるじゃないか」
「それって……同じなんですか?」
「同じだよ。好きな気持ちに種類なんてないよ」
若干、はぐらかされた気もする。
「綾斗が後悔しないように。ね? 好きな人ができたらちゃんと想いを伝えろって、昔やよいに言われたでしょ? 先輩の言う事は聞くものだよ」
「はい」
懐かしい会話を噛みしめながら、綾斗はもう一度久志と乾杯をした。
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