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Episode2 修司

46 空から飛び降りるという事

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 趙馬刀ちょうばとうを構える修司。

「光は出せる? つかに力を込めて、意識は刃の先端に集中させる――って、こればっかりは感覚をつかむしかないのかなぁ。言葉で言っても分からないよね」

 説明する京子自身、首をひねってしまう。
 『刃に集中』とはいえ、実際にそれはまだ目に見えていない。
 修司は山での感覚を思い出しながら手に力を込めるが、趙馬刀の刃どころか白い光すら出て来なかった。

 「あれ?」と今度は両手でつかんだ柄を前へ突き出して、珍妙ちんみょうな構えで力を込める。必死の策にわずかに拳が光ったものの、あっという間に元の状態へ戻ってしまった。

「修司の歳なら、こんなものだよ。気にしなくていいからね?」
「えっ、そうなんですか? でも、この間はもっと……」

 以前なら律の介添かいぞえがなくても、もう少しそれらしい光を出す事が出来ていた筈だ。
 実力を発揮できずあせる修司に、美弦が何故か嬉しそうに指摘する。

銀環ぎんかんしてるんだもの、当たり前じゃない」
「そうか、銀環! キーダーはこれで力を抑制よくせいされてるんでしたっけ」

 銀環に込められたノーマルの意思をすっかり忘れていた。はっきり言ってそこまでの性能を感じないが、強すぎる能力者の力を抑え込んでいるらしい。

「そう言う事。でも、暴走の抑止力よくしりょくになってるのは確かだし。対バスク戦を想定したギリギリの数値らしいよ」

 京子は「少し座ろっか」とホールの隅に二人を誘った。三人で壁を背に並び、話を続ける。

「キーダーの力は国のもの。もし宇宙から怪獣の大群が襲ってきたら、真っ先にその群れに飛び込むのは、警察でも自衛隊でもなくて私たちなんだから。誰もがそう認識してるように、キーダーは日本の盾だよ。誰よりも先に戦わなきゃならない使命を背負ってる」

 厳しい表情でそこまで話し、京子は「でもね」と眉を上げた。

「そこをきちんと理解しておけば、ここに居ることはそんなに窮屈きゅうくつではないと思う。気構えだけしておけば、後は肩の力抜いていいと思うよ」
綾斗あやとさんにも同じようなこと言われました」

 「でしょ?」と笑顔になる京子。
 少なくとも、ここは修司がずっとイメージしていたような殺伐さつばつとした所ではないようだ。

「常に狙われるものでもないけど、キーダーを目のかたきにする奴は居るから。この力は幾らでも犯罪にからむことができる。念動力ねんどうりきがあれば、殺人だって強盗ごうとうだって簡単にできるしね。自由の定義を正すのもキーダーの役目だよ」
「ちょっと前に面倒な窃盗グループが居たのよ。それを、京子さんが一人で捕まえたのよ」
「へぇ、グループって複数人いたってことですよね。すごい」

 まるで自分の事のように胸を張る美弦の横で、当の京子は「まぁね」と苦い顔をする。

「力を使えば気配が残るから、無鉄砲に使いまくるバスクなんて滅多にいないけど。ホルスは財政難ざいせいなんって聞くし、何するか分からないから気を付けなきゃね。困窮すると何仕出しでかすか分からないでしょ? とりあえず私たちは日々の訓練することが大事」

 人差し指を立て、京子は「ね?」と話を締めた。
 美弦が「はい!」と運動部並みのノリで返事する。
 修司は何となく話を理解したものの、パッと浮かんだ『訓練』という言葉が、腕立て伏せと腹筋にしかつながらず、思い切ってたずねてみた。

「訓練って、実際どんなことするんですか?」
「とりあえず趙馬刀を使いこなすことが最優先かな。美弦も大分使えるようになってきたしね」

 「私は、まだそんな……」と美弦は首を横に振る。
 京子の口ぶりからは謙遜けんそんしているようにも見えるが、綾斗が言っていたように、本人的には不服らしい。

「いいのいいの、少しずつで。修司と一緒ならいいライバルになるね」

 京子の提案に、美弦から鋭い視線が飛んでくる。まさに『ライバル視』そのもののにらみに、修司は「オイ」と目を反らす。

「仲良いんだね、羨ましい。あとは訓練って言ったら、防御ぼうぎょとか、ヘリからの降下とか色々あるよ」
「そうなんですね。って……え?」

 今何か京子が、さらりと物凄いことを言った気がする。
 聞き間違いかと思ったが、京子はそれを「しゅっと降りるだけだよ」と上り棒を降りるような感覚で話し、そのまま話題を進めてしまった。

 そういえば山で律が『咲く』と言っていたのが、ヘリから降下するパラシュートの事だったことを思い出す。まさか自分が落ちる立場になるとは想像すらしていなかった。


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