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Episode1 京子
15 万が一の偶然か
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京子と同期でアルガスに入ったのは朱羽しかいないが、マサの時は彼を含めて四人だった。
『久志は一年遅れだったけど、いっつも四人でつるんでたんだぜ。確かに数は多いなって思うけど、キーダーが生まれるのは偶発的だし、俺たちの次が京子と朱羽だからな』
そんなマサの言葉を思い出して、京子は彼以外の三人の顔を頭に思い浮かべながらいつもの駅を目指した。
マサ以外全員が現役のキーダーだ。少々癖の強いメンバーだが、彼等の存在がマサを今もアルガスに留めているような気がする。
翌日からの出張に備え、京子は『送るわよ』と言ったセナの申し出を丁重に断り、学校帰りの桃也を呼び出した。足の腫れは引いていて、一人で歩くことに問題はない。
黄昏時の空が一変して雨が降り出す。
駅の出口で彼を待つと、ポケットのスマホが着信音を響かせた。
モニターに出たのは、幼馴染の名前だ。
「ごめんね、陽菜。突然メールして」
出張先の仙台に入るのは明後日だが、マサや大舎卿に甘えて一日早く出発することにした。明日は実家に泊まり、彼女に会おうと思う。
『いいよいいよ、久しぶりじゃん。夜は暇だから、私も嬉しいよ』
小中学校が一緒だった彼女は、未だに交流のある数少ない地元友達の一人だ。
「ありがとう。明日の夜、駅前でいいかな?」
『前行ったトコ? オッケー。ところで仕事でって書いてあったけど、一人で来るの?』
「あ、いや……。もしかしたらもう一人連れて行く事になるかも」
綾斗とは仙台で待ち合わせする予定だったが、彼が前日からの同行を希望した。
初出張の後輩を無下にすることもできず、結局二人で京子の実家に泊まることになったのは、年始でどこもホテルが満室だったからだ。
『まさか仕事場のオッサンとか? それはやめてよ』
「オッサンじゃないよ。もっと若い男の子」
『なら大歓迎。楽しみにしてる。こっちはもう雪だから、あったかくして来るんだよ』
あっさりと快諾した陽菜は、『そういえば』と声を弾ませた。
『今ね、彰人が東京に行ってるんだって!』
「そうなんだ……」
その名前を聞いただけで、胸がドキリと反応してしまう。
『この間、彰人のパパに会ってさ、仕事でそっちに行ってるって教えてもらったの。会って来たら?』
朝夢に見た、初恋の彼だ。京子が陽菜と小学校で出会う以前から、彼女と彰人は家が近所で仲が良かった。
「会ってどうするの? 連絡先も知らないし」
『教えるって。久しぶりとかでいいんじゃない?』
「ムリムリ。そんな度胸ないもん。もう昔のことだし、今は恋人がいるって言ったでしょ?」
動揺した声が周囲の視線を集めて、京子は慌ててトーンを抑えた。
『あはは。年下くんだったね。じゃあ、そのことも明日色々聞かせて』
それじゃあね、と陽菜は楽しそうに電話を切った。京子は胸に手を当ててゆっくりと息を吐く。
今朝夢を見たせいだろうか、心臓の鼓動がなかなか治まらない。
彼が東京に来ているとは言っても、約束もなしに会うことなんてまずないだろう。地元より面積は狭いが、東京は広いのだ。
偶然なんて万が一の確率もないだろうと自分に言い聞かせた瞬間、京子は「えっ」と息を呑んだ。
視線が一人の人物へと吸い寄せられる。
初詣客が多く行き交う中、道の向こうから緑色の傘を手に歩いてくる男がいた。スーツの上にコートを羽織り、改札のある京子の方へと向かってくる。
万が一の偶然なんて、ないに等しいのに。
六年の時間が刻んだ表情も、昔を思い起こさせるには十分だった。
記憶とちっとも変わらない顔が、彼をそうだと確信させる。
『久志は一年遅れだったけど、いっつも四人でつるんでたんだぜ。確かに数は多いなって思うけど、キーダーが生まれるのは偶発的だし、俺たちの次が京子と朱羽だからな』
そんなマサの言葉を思い出して、京子は彼以外の三人の顔を頭に思い浮かべながらいつもの駅を目指した。
マサ以外全員が現役のキーダーだ。少々癖の強いメンバーだが、彼等の存在がマサを今もアルガスに留めているような気がする。
翌日からの出張に備え、京子は『送るわよ』と言ったセナの申し出を丁重に断り、学校帰りの桃也を呼び出した。足の腫れは引いていて、一人で歩くことに問題はない。
黄昏時の空が一変して雨が降り出す。
駅の出口で彼を待つと、ポケットのスマホが着信音を響かせた。
モニターに出たのは、幼馴染の名前だ。
「ごめんね、陽菜。突然メールして」
出張先の仙台に入るのは明後日だが、マサや大舎卿に甘えて一日早く出発することにした。明日は実家に泊まり、彼女に会おうと思う。
『いいよいいよ、久しぶりじゃん。夜は暇だから、私も嬉しいよ』
小中学校が一緒だった彼女は、未だに交流のある数少ない地元友達の一人だ。
「ありがとう。明日の夜、駅前でいいかな?」
『前行ったトコ? オッケー。ところで仕事でって書いてあったけど、一人で来るの?』
「あ、いや……。もしかしたらもう一人連れて行く事になるかも」
綾斗とは仙台で待ち合わせする予定だったが、彼が前日からの同行を希望した。
初出張の後輩を無下にすることもできず、結局二人で京子の実家に泊まることになったのは、年始でどこもホテルが満室だったからだ。
『まさか仕事場のオッサンとか? それはやめてよ』
「オッサンじゃないよ。もっと若い男の子」
『なら大歓迎。楽しみにしてる。こっちはもう雪だから、あったかくして来るんだよ』
あっさりと快諾した陽菜は、『そういえば』と声を弾ませた。
『今ね、彰人が東京に行ってるんだって!』
「そうなんだ……」
その名前を聞いただけで、胸がドキリと反応してしまう。
『この間、彰人のパパに会ってさ、仕事でそっちに行ってるって教えてもらったの。会って来たら?』
朝夢に見た、初恋の彼だ。京子が陽菜と小学校で出会う以前から、彼女と彰人は家が近所で仲が良かった。
「会ってどうするの? 連絡先も知らないし」
『教えるって。久しぶりとかでいいんじゃない?』
「ムリムリ。そんな度胸ないもん。もう昔のことだし、今は恋人がいるって言ったでしょ?」
動揺した声が周囲の視線を集めて、京子は慌ててトーンを抑えた。
『あはは。年下くんだったね。じゃあ、そのことも明日色々聞かせて』
それじゃあね、と陽菜は楽しそうに電話を切った。京子は胸に手を当ててゆっくりと息を吐く。
今朝夢を見たせいだろうか、心臓の鼓動がなかなか治まらない。
彼が東京に来ているとは言っても、約束もなしに会うことなんてまずないだろう。地元より面積は狭いが、東京は広いのだ。
偶然なんて万が一の確率もないだろうと自分に言い聞かせた瞬間、京子は「えっ」と息を呑んだ。
視線が一人の人物へと吸い寄せられる。
初詣客が多く行き交う中、道の向こうから緑色の傘を手に歩いてくる男がいた。スーツの上にコートを羽織り、改札のある京子の方へと向かってくる。
万が一の偶然なんて、ないに等しいのに。
六年の時間が刻んだ表情も、昔を思い起こさせるには十分だった。
記憶とちっとも変わらない顔が、彼をそうだと確信させる。
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