136 / 171
13章 魔王
136 ラノベのヒロイン
しおりを挟む
「美緒も連れて行くの?」
チェリーに聞かれて、俺は「はい」と即答した。
「せっかく連れ戻したんだから、危険な場所にわざわざ連れていくこともないのよ?」
それはもっともだとは思うけれど、離れていることが安全だとも思うことができない。
「ついていけます」と主張する美緒は読書好きのイメージが強いが、実は俺よりも足が速い。
チェリーはそんな美緒の白いロングワンピース姿を下からゆっくりと顔へと見上げて、「そうね」と唇に手を当てて呟いた。
「とりあえず、着替えましょうか。あの赤いチャイナもダメよ? あんな短いの。ユースケの気が散っちゃうから」
「ちょっ、俺ですか?」
「だってアレ、貴方がデザインした服だって言うじゃない。全く、発情期の男子は……」
「チーガーイーマース!」
両手を振って否定するが、実は殆ど間違ってはいない。
美緒は困り顔を見せつつも笑っていた。流石、俺の幼馴染だ。
「けど、他に何かある……?」
「向こうから持ってきた服があるんで、準備してきます」
美緒は何か思い出したように「あっ」と声を上げて、「急ぎます」と俺の腕を掴んだ。
「じゃあ、僕は何か移動手段を探しておくよ」
「ありがとな、ヒルド。じゃあ、準備したら入口んトコ行くから」
エルドラへ行く、ということが簡単じゃないという事は重々承知だ。
彼の申し出に甘えて、俺は絶望に暮れる人々の間をすり抜けるように城へと向かった。
☆
「俺が来るまで、絶対に扉を開けるなよ?」
子供に言い聞かせるように、俺は二回も同じことを言ってから自分の部屋へ駆け込んだ。
ビショ濡れのジャケットを渋々脱いだが、ラッキーなことにズボンは殆ど乾いていた。
この国の服ならば他にも替えがあったが、ここはあえて学校の制服で行きたいと思ってしまう。
後から部屋に駆け込んできたヒルドが、やたら慌てた様子で、
「やっぱりトード車で行くのが良いみたい。城で手配してくれるって言うから、先に行ってるね」
と颯爽と着替えを済ませ、あっという間に部屋を出て行ってしまった。
俺は再び腰にベルトを巻いて、剣を提げる。
俺はまだ戦うためにこの剣を抜いたことが無い。この世界に来てから2本目の剣は、最初長めの柄が邪魔だと思っていたのに、もう体の一部として馴染んでしまった。
ジャケットに入れてあったカーボの髪飾りをシャツの胸ポケットを入れて準備完了だ。
ふと目に入ったヒルドの自画像に「行ってきます」と声を掛けて、美緒を迎えに行く。
そして、扉の影から恥ずかしそうに出てきた彼女の姿に驚愕したのだ。
「み、美緒?」
彼女が向こうの世界から持ってきたという服を見た瞬間、俺は思わず「ええっ」と声を上げてしまった。
濃紺に白のラインが入った、見覚えのありすぎるセーラー服。
「それ着てこっちに来たのか?」
「う、うん」
予想の斜め上を行く展開。美緒が着ているのは、俺たちが通っていた中学の夏服だった。
チラリと俺を見上げる瞳に緊張が走る。
「変かな?」
「そんなことないよ。か、かわいいよ。けど、それって本の……」
「言わないで!」
それを見透かされたことに強く反応を示す美緒。図星らしい。
異世界に来る前に、美緒が俺に貸してくれた本こそ『異世界の魔王とセーラー服の女王様』なのだ。異世界行きと魔王を掛けて、それなりに意識していたようだ。
「わ、分かった。久しぶりすぎて新鮮だと思うし、いいんじゃねぇの? 俺だって制服だし」
この世界で再会してからの美緒はずっとハーレムメンバーと揃いの服を着ていたから、まさかこんな服を持ってきているなんて思っても居なかったのだ。けど、考えることは俺も美緒も一緒らしい。
当時の教師たちがうるさかったスカートの長さが校則の膝丈より少し短いのは、美緒の背が伸びたせいだろうか。
ツッコミどころは多すぎるけれど、俺はそれ以上言わずに「行こう」と美緒の手を引いて待ち合わせ場所へ急いだ。
城の出口で待ち構えるトード車は、いつもの荷馬車タイプだった。屋根のない浅い箱がついたもので、簡素な椅子が内側にめぐらされている。雨が止んでくれたのが救いだ。
「有難うな、ヒルド」
「屋根付きのは借りれなかったけどね。親衛隊はもうエルドラへ向かったらしいよ」
魔法師は本人だけなら、瞬間移動的な能力で遠くへ移動することができるのだ。
「後れを取ったって、これが一番の方法だからね」
そう言うヒルドの視線がキョロキョロと何度も正門の方へ向いている。
「どうしたの?」と首を傾げるチェリーに、「この間さ」と答え掛けて、ヒルドはパッと眉を上げた。
「来たぁ。間に合って良かったよ」
正門の兵にぺこりと頭を下げた少女が、大きく手を振るヒルドに気付いてやってくる。
その姿に、俺は再び驚愕したのだ。
猫耳の付いたフワフワの金髪を揺らしながら、しっぽの付いたミニのワンピース姿でこっちに駆け寄ってくる彼女は、俺たちも良く知っている人物だった。
「シーラ!」
俺は思わず彼女の名前を口にして、黙って口を閉じた美緒の視線を振り返った。
チェリーに聞かれて、俺は「はい」と即答した。
「せっかく連れ戻したんだから、危険な場所にわざわざ連れていくこともないのよ?」
それはもっともだとは思うけれど、離れていることが安全だとも思うことができない。
「ついていけます」と主張する美緒は読書好きのイメージが強いが、実は俺よりも足が速い。
チェリーはそんな美緒の白いロングワンピース姿を下からゆっくりと顔へと見上げて、「そうね」と唇に手を当てて呟いた。
「とりあえず、着替えましょうか。あの赤いチャイナもダメよ? あんな短いの。ユースケの気が散っちゃうから」
「ちょっ、俺ですか?」
「だってアレ、貴方がデザインした服だって言うじゃない。全く、発情期の男子は……」
「チーガーイーマース!」
両手を振って否定するが、実は殆ど間違ってはいない。
美緒は困り顔を見せつつも笑っていた。流石、俺の幼馴染だ。
「けど、他に何かある……?」
「向こうから持ってきた服があるんで、準備してきます」
美緒は何か思い出したように「あっ」と声を上げて、「急ぎます」と俺の腕を掴んだ。
「じゃあ、僕は何か移動手段を探しておくよ」
「ありがとな、ヒルド。じゃあ、準備したら入口んトコ行くから」
エルドラへ行く、ということが簡単じゃないという事は重々承知だ。
彼の申し出に甘えて、俺は絶望に暮れる人々の間をすり抜けるように城へと向かった。
☆
「俺が来るまで、絶対に扉を開けるなよ?」
子供に言い聞かせるように、俺は二回も同じことを言ってから自分の部屋へ駆け込んだ。
ビショ濡れのジャケットを渋々脱いだが、ラッキーなことにズボンは殆ど乾いていた。
この国の服ならば他にも替えがあったが、ここはあえて学校の制服で行きたいと思ってしまう。
後から部屋に駆け込んできたヒルドが、やたら慌てた様子で、
「やっぱりトード車で行くのが良いみたい。城で手配してくれるって言うから、先に行ってるね」
と颯爽と着替えを済ませ、あっという間に部屋を出て行ってしまった。
俺は再び腰にベルトを巻いて、剣を提げる。
俺はまだ戦うためにこの剣を抜いたことが無い。この世界に来てから2本目の剣は、最初長めの柄が邪魔だと思っていたのに、もう体の一部として馴染んでしまった。
ジャケットに入れてあったカーボの髪飾りをシャツの胸ポケットを入れて準備完了だ。
ふと目に入ったヒルドの自画像に「行ってきます」と声を掛けて、美緒を迎えに行く。
そして、扉の影から恥ずかしそうに出てきた彼女の姿に驚愕したのだ。
「み、美緒?」
彼女が向こうの世界から持ってきたという服を見た瞬間、俺は思わず「ええっ」と声を上げてしまった。
濃紺に白のラインが入った、見覚えのありすぎるセーラー服。
「それ着てこっちに来たのか?」
「う、うん」
予想の斜め上を行く展開。美緒が着ているのは、俺たちが通っていた中学の夏服だった。
チラリと俺を見上げる瞳に緊張が走る。
「変かな?」
「そんなことないよ。か、かわいいよ。けど、それって本の……」
「言わないで!」
それを見透かされたことに強く反応を示す美緒。図星らしい。
異世界に来る前に、美緒が俺に貸してくれた本こそ『異世界の魔王とセーラー服の女王様』なのだ。異世界行きと魔王を掛けて、それなりに意識していたようだ。
「わ、分かった。久しぶりすぎて新鮮だと思うし、いいんじゃねぇの? 俺だって制服だし」
この世界で再会してからの美緒はずっとハーレムメンバーと揃いの服を着ていたから、まさかこんな服を持ってきているなんて思っても居なかったのだ。けど、考えることは俺も美緒も一緒らしい。
当時の教師たちがうるさかったスカートの長さが校則の膝丈より少し短いのは、美緒の背が伸びたせいだろうか。
ツッコミどころは多すぎるけれど、俺はそれ以上言わずに「行こう」と美緒の手を引いて待ち合わせ場所へ急いだ。
城の出口で待ち構えるトード車は、いつもの荷馬車タイプだった。屋根のない浅い箱がついたもので、簡素な椅子が内側にめぐらされている。雨が止んでくれたのが救いだ。
「有難うな、ヒルド」
「屋根付きのは借りれなかったけどね。親衛隊はもうエルドラへ向かったらしいよ」
魔法師は本人だけなら、瞬間移動的な能力で遠くへ移動することができるのだ。
「後れを取ったって、これが一番の方法だからね」
そう言うヒルドの視線がキョロキョロと何度も正門の方へ向いている。
「どうしたの?」と首を傾げるチェリーに、「この間さ」と答え掛けて、ヒルドはパッと眉を上げた。
「来たぁ。間に合って良かったよ」
正門の兵にぺこりと頭を下げた少女が、大きく手を振るヒルドに気付いてやってくる。
その姿に、俺は再び驚愕したのだ。
猫耳の付いたフワフワの金髪を揺らしながら、しっぽの付いたミニのワンピース姿でこっちに駆け寄ってくる彼女は、俺たちも良く知っている人物だった。
「シーラ!」
俺は思わず彼女の名前を口にして、黙って口を閉じた美緒の視線を振り返った。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる