26 / 171
3章 死を予感した時、人は本能を剥き出しにするものだ。
26 忠告を無視した俺の最期
しおりを挟む
俺の知ってるメルは、栗色のくるくるヘアをツインテールに結んだ、サファイアの瞳をした小さな少女だ。
それなのに、カーボに襲われて目を閉じた数秒の間に、メルは俺の前から消えてしまった。
その、緋色の少女を残して。
解かれた髪は山の風景に際立つ赤色で、マーテルさんのオレンジとは全く違っていた。
幼児体系を抜け出したばかりのような、あどけなさが残る顔。
「メル……なのか?」
俺がそうだと思ったのは、彼女が新調したばかりのカーボ印の服を着ていたからだ。
頭一つ分以上身長が伸びていて、膝丈だったスカートの裾が、パンツの見えないギリギリラインまで上がってしまっている。
返り血で染めたワンピースがぴったりと身体のラインを際立たせているが、やはり胸はこの世界特有の平たいものだった。
いや、そうじゃなくて。
彼女が誰だろうなんて思ったのはほんの一瞬だけだった。
目の色も髪の色もメルとは全然違うのに、間違いであって欲しいと思いつつも俺はそうだと確信している。
いつも微笑んでいた表情は冷たく閉ざされ、彼女が何を考えているのかさっぱり読めない。
――『緋色の魔女に会ったら、一目散に逃げろ』
ヤシムの言葉。みんなこうなることを知っていたんだろうか。
だから、討伐隊に人が集まらなかったのか?
彼女は倒れたカーボを背に、赤い瞳を俺にじっと向けていた。
――『逃げろ』
ヤシムの声が頭の中でもう一度逃走を促してくるが、俺を助けてくれた彼女から逃げ出そうなんて気にはなれなかった。
彼女が居なかったら、俺はもう確実に生きてはいない。
「あの、助けてくれてありがとな」
彼女がもし本当に緋色の魔女なら、魔法が使えるという事なのだろうか。
カーボに襲われて目を閉じた時に感じた熱は、炎か何かだったのだろうか。
疑問ばかりが連なって、俺は落ち着けと頭を振り、倒れたカーボを見やった。
半開きで固まったカーボの唇。赤い目は閉じたままだ。
焼かれた様子はなく、臭いも感じない。そして恐らくこれが決め手だったと思われる、脇腹に突き刺さったメルの長い剣。
緋色の魔女は俺の視線を追ってカーボを振り向き、その剣に手を掛けた。
ズブズブと耳障りな音がして、血で染まった刃が現れる。
剣先が抜けると同時にカーボの脇腹の肉が僅かに浮いて、血液をドロリと吹き出した。
その量に俺は「うっ」と吐き気を覚えて口元に手を当てる。
赤く染まった剣を振って彼女は血を払おうと試みるが、若干飛んだだけで色はまだべったりと刃を覆っていた。
背が伸びた彼女が持つと、小さなメルの時に感じていた剣の大きさへの違和感が全く感じられない。むしろ大きい彼女のものだと言えば、疑問が一瞬で解けてしまう。
緋色の魔女は、剣を背中の鞘に収めようとはしなかった。
右手で握り締めていた柄に左手を添えて、切っ先を俺に向けて持ち上げたのだ。
「えっ――?」
彼女は何をしようとしているのか。
まさかという疑問と、現実。
きっとこの結末は、俺がヤシムの忠告を無視したからだ。
クラウは、こうなることを知ってて俺をメルの所によこしたのか――?
それ以上の何かを考える余裕なんてなかった。
1秒後の俺が、緋色の魔女によって心臓を突き刺されていたからだ。
それなのに、カーボに襲われて目を閉じた数秒の間に、メルは俺の前から消えてしまった。
その、緋色の少女を残して。
解かれた髪は山の風景に際立つ赤色で、マーテルさんのオレンジとは全く違っていた。
幼児体系を抜け出したばかりのような、あどけなさが残る顔。
「メル……なのか?」
俺がそうだと思ったのは、彼女が新調したばかりのカーボ印の服を着ていたからだ。
頭一つ分以上身長が伸びていて、膝丈だったスカートの裾が、パンツの見えないギリギリラインまで上がってしまっている。
返り血で染めたワンピースがぴったりと身体のラインを際立たせているが、やはり胸はこの世界特有の平たいものだった。
いや、そうじゃなくて。
彼女が誰だろうなんて思ったのはほんの一瞬だけだった。
目の色も髪の色もメルとは全然違うのに、間違いであって欲しいと思いつつも俺はそうだと確信している。
いつも微笑んでいた表情は冷たく閉ざされ、彼女が何を考えているのかさっぱり読めない。
――『緋色の魔女に会ったら、一目散に逃げろ』
ヤシムの言葉。みんなこうなることを知っていたんだろうか。
だから、討伐隊に人が集まらなかったのか?
彼女は倒れたカーボを背に、赤い瞳を俺にじっと向けていた。
――『逃げろ』
ヤシムの声が頭の中でもう一度逃走を促してくるが、俺を助けてくれた彼女から逃げ出そうなんて気にはなれなかった。
彼女が居なかったら、俺はもう確実に生きてはいない。
「あの、助けてくれてありがとな」
彼女がもし本当に緋色の魔女なら、魔法が使えるという事なのだろうか。
カーボに襲われて目を閉じた時に感じた熱は、炎か何かだったのだろうか。
疑問ばかりが連なって、俺は落ち着けと頭を振り、倒れたカーボを見やった。
半開きで固まったカーボの唇。赤い目は閉じたままだ。
焼かれた様子はなく、臭いも感じない。そして恐らくこれが決め手だったと思われる、脇腹に突き刺さったメルの長い剣。
緋色の魔女は俺の視線を追ってカーボを振り向き、その剣に手を掛けた。
ズブズブと耳障りな音がして、血で染まった刃が現れる。
剣先が抜けると同時にカーボの脇腹の肉が僅かに浮いて、血液をドロリと吹き出した。
その量に俺は「うっ」と吐き気を覚えて口元に手を当てる。
赤く染まった剣を振って彼女は血を払おうと試みるが、若干飛んだだけで色はまだべったりと刃を覆っていた。
背が伸びた彼女が持つと、小さなメルの時に感じていた剣の大きさへの違和感が全く感じられない。むしろ大きい彼女のものだと言えば、疑問が一瞬で解けてしまう。
緋色の魔女は、剣を背中の鞘に収めようとはしなかった。
右手で握り締めていた柄に左手を添えて、切っ先を俺に向けて持ち上げたのだ。
「えっ――?」
彼女は何をしようとしているのか。
まさかという疑問と、現実。
きっとこの結末は、俺がヤシムの忠告を無視したからだ。
クラウは、こうなることを知ってて俺をメルの所によこしたのか――?
それ以上の何かを考える余裕なんてなかった。
1秒後の俺が、緋色の魔女によって心臓を突き刺されていたからだ。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
新人神様のまったり天界生活
源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。
「異世界で勇者をやってほしい」
「お断りします」
「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」
「・・・え?」
神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!?
新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる!
ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。
果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。
一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。
まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる