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9章 旗
118 どっちが好き?
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夕飯は前回のお泊り会に引き続いて、またもやカレーを作ることになった。
色々と悩んだ末、簡単な所に落ち着いた次第だ。
みさぎは料理が得意ではない。女子二人で作るという事でカレーならと張り切ってみたが、結局は手際の良すぎる咲の手伝いをしているだけだ。
「あとは煮込んでルウを入れるだけだから、洗いもの頼むぞ? 僕はサラダを作るから」
「うん、わかった」
姉に持たされたという咲のエプロンは、やたら少女趣味でレースがフリフリと付いたものだった。
嫌だと文句を言いながらつける咲を遠目に見る蓮は嬉しそうで、みさぎはそんな新旧の兄たちを複雑な気持ちで見守る。
男子二人はすぐそこのリビングで、対戦ゲームの真っ最中だった。テンションが高めの蓮の横で、湊が涼しい顔のままコントローラーを握りしめている。
最初得意気だった蓮が劣勢に追い込まれて、三回バトルの末勝ったのは湊だった。
グツグツと音を立てる鍋から灰汁をすくいながら、咲はそんな二人を伺いつつ、みさぎの側に身体を寄せる。
蓮が「くそぅ」と残念がって、湊に再戦を申し出た。
「結構強いんだな。家でゲームとかするの?」
「弟がいるんで、たまに」
「そういうことか。小学生?」
「いえ、中二です」
「へぇ、知らなかった」
二人の会話にみさぎが一番驚いて、目を丸くする。そういえば湊と家族の話はあまりしたことがなかった。
「弟もアイツに似て堅物なのかな」
「湊くんは堅物じゃないよ。それより、咲ちゃん大丈夫だった?」
グツグツという音に隠して、みさぎはこっそり蓮の部屋の話をする。
「大丈夫って?」
「凄い部屋だったでしょ?」
家に着いてから、それぞれに別れてニ時間ほど過ごした。
湊と居る緊張が七割で、みさぎの頭の三割は蓮の部屋にいる咲の事でいっぱいだった。リビングで湊と借りてきたDVDを見ていたのに、内容を殆ど覚えていない。
咲は「あぁ」と笑って、階段の上をチラと見る。
「確かに凄い部屋だったな。未来形っていうか、派手だった」
「でしょ?」
「けど、嫌だなんて思わなかったよ。蓮と居ると楽しいし、あぁこういうの好きなんだって色々教えてもらったし」
「惚気はいいよ。けど本気?」
「本気って?」
あの部屋に入って、そんな程度の感想で済ませられる咲を尊敬してしまう。
咲はくし形に切ったトマトを皿に盛り付けると、満足そうに「よし」と手を叩いた。
「だって、兄様の部屋はあんまり物がなかったって言うか、アレとは真逆だったでしょ?」
「僕はインテリアとかこだわらないよ。アレが蓮の趣味なら、僕の趣味はリーナだからね」
「えっ……う、うん」
突然真っすぐな視線を向けられて、みさぎは洗っていた皿を取り落としそうになる。
そう来るとは思わなかった。
再び対戦を始めた蓮に、咲は「がんばれよ」と手を振った。
「なぁみさぎ、蓮と僕と、どっちがお兄ちゃんとして好きだ?」
「えぇ? そんなこと聞かないでよ」
考えたこともないし、考えようとも思わない。
「だって」と不満を零す咲に、みさぎは洗い終えた手を拭きながら不満顔を返した。
「私はお兄ちゃんも兄様も好きだよ。それより咲ちゃんこそお兄ちゃんが好きなんでしょ? どこがいいの?」
「蓮の好きなとこか。まぁ、僕を僕として受け入れてくれるところかな」
もっと凄い返事が来るかもと期待したけれど、みさぎはこの答えがやたら腑に落ちいてしまい、「そっか」と納得する。
「私にはよく分からないけど……」
「僕だって、湊のどこがいいのかサッパリ分からないぞ?」
「咲ちゃんに分かってもらわなくてもいいもん」
「けど僕は蓮がみさぎのアニキで良かったと思ってる。みさぎの両親はやさしい人か?」
「うん、優しいよ。二人で会社をやってるから、いつも忙しそうだけど。とってもいい人」
「そうか、良かったな。僕の親もアネキもいい人だよ」
こうして生活への不安もなく家族のもとで暮らせることを幸せだと思える。
「僕とリーナの親も優しかったよな」
「うん……そうだね。とっても」
戦争で死んでしまった両親を思い出して、みさぎ込み上げる涙に瞼を塞ぐ。
「あぁ、ごめんな。泣かせるつもりじゃ……」
「いいよ。大丈夫だよ、兄様」
咲がキッチンの影でそっとみさぎの手を握った。
大好きな兄の手だと思うと、込み上げた衝動も収まってくれる。
温かい手だった。
あとひと月も経たないうちに、またあのハロンとの戦いが起きるなんて想像できないくらい、穏やかな休日だった。
今日は客室に湊が寝て、咲がみさぎの部屋に泊まる予定だ。
このまま何もなく夜が過ぎる筈だった。
色々と悩んだ末、簡単な所に落ち着いた次第だ。
みさぎは料理が得意ではない。女子二人で作るという事でカレーならと張り切ってみたが、結局は手際の良すぎる咲の手伝いをしているだけだ。
「あとは煮込んでルウを入れるだけだから、洗いもの頼むぞ? 僕はサラダを作るから」
「うん、わかった」
姉に持たされたという咲のエプロンは、やたら少女趣味でレースがフリフリと付いたものだった。
嫌だと文句を言いながらつける咲を遠目に見る蓮は嬉しそうで、みさぎはそんな新旧の兄たちを複雑な気持ちで見守る。
男子二人はすぐそこのリビングで、対戦ゲームの真っ最中だった。テンションが高めの蓮の横で、湊が涼しい顔のままコントローラーを握りしめている。
最初得意気だった蓮が劣勢に追い込まれて、三回バトルの末勝ったのは湊だった。
グツグツと音を立てる鍋から灰汁をすくいながら、咲はそんな二人を伺いつつ、みさぎの側に身体を寄せる。
蓮が「くそぅ」と残念がって、湊に再戦を申し出た。
「結構強いんだな。家でゲームとかするの?」
「弟がいるんで、たまに」
「そういうことか。小学生?」
「いえ、中二です」
「へぇ、知らなかった」
二人の会話にみさぎが一番驚いて、目を丸くする。そういえば湊と家族の話はあまりしたことがなかった。
「弟もアイツに似て堅物なのかな」
「湊くんは堅物じゃないよ。それより、咲ちゃん大丈夫だった?」
グツグツという音に隠して、みさぎはこっそり蓮の部屋の話をする。
「大丈夫って?」
「凄い部屋だったでしょ?」
家に着いてから、それぞれに別れてニ時間ほど過ごした。
湊と居る緊張が七割で、みさぎの頭の三割は蓮の部屋にいる咲の事でいっぱいだった。リビングで湊と借りてきたDVDを見ていたのに、内容を殆ど覚えていない。
咲は「あぁ」と笑って、階段の上をチラと見る。
「確かに凄い部屋だったな。未来形っていうか、派手だった」
「でしょ?」
「けど、嫌だなんて思わなかったよ。蓮と居ると楽しいし、あぁこういうの好きなんだって色々教えてもらったし」
「惚気はいいよ。けど本気?」
「本気って?」
あの部屋に入って、そんな程度の感想で済ませられる咲を尊敬してしまう。
咲はくし形に切ったトマトを皿に盛り付けると、満足そうに「よし」と手を叩いた。
「だって、兄様の部屋はあんまり物がなかったって言うか、アレとは真逆だったでしょ?」
「僕はインテリアとかこだわらないよ。アレが蓮の趣味なら、僕の趣味はリーナだからね」
「えっ……う、うん」
突然真っすぐな視線を向けられて、みさぎは洗っていた皿を取り落としそうになる。
そう来るとは思わなかった。
再び対戦を始めた蓮に、咲は「がんばれよ」と手を振った。
「なぁみさぎ、蓮と僕と、どっちがお兄ちゃんとして好きだ?」
「えぇ? そんなこと聞かないでよ」
考えたこともないし、考えようとも思わない。
「だって」と不満を零す咲に、みさぎは洗い終えた手を拭きながら不満顔を返した。
「私はお兄ちゃんも兄様も好きだよ。それより咲ちゃんこそお兄ちゃんが好きなんでしょ? どこがいいの?」
「蓮の好きなとこか。まぁ、僕を僕として受け入れてくれるところかな」
もっと凄い返事が来るかもと期待したけれど、みさぎはこの答えがやたら腑に落ちいてしまい、「そっか」と納得する。
「私にはよく分からないけど……」
「僕だって、湊のどこがいいのかサッパリ分からないぞ?」
「咲ちゃんに分かってもらわなくてもいいもん」
「けど僕は蓮がみさぎのアニキで良かったと思ってる。みさぎの両親はやさしい人か?」
「うん、優しいよ。二人で会社をやってるから、いつも忙しそうだけど。とってもいい人」
「そうか、良かったな。僕の親もアネキもいい人だよ」
こうして生活への不安もなく家族のもとで暮らせることを幸せだと思える。
「僕とリーナの親も優しかったよな」
「うん……そうだね。とっても」
戦争で死んでしまった両親を思い出して、みさぎ込み上げる涙に瞼を塞ぐ。
「あぁ、ごめんな。泣かせるつもりじゃ……」
「いいよ。大丈夫だよ、兄様」
咲がキッチンの影でそっとみさぎの手を握った。
大好きな兄の手だと思うと、込み上げた衝動も収まってくれる。
温かい手だった。
あとひと月も経たないうちに、またあのハロンとの戦いが起きるなんて想像できないくらい、穏やかな休日だった。
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