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26 ユーカリの用事

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「陛下に面会しに行ったけど、追い返されたぁ? はあ、それは災難だったな、ユーカリ」

 王都のとある喫茶店にて。ユーカリは同じ部隊に所属していた旧友のメイスを呼び出していた。
 彼は終戦後、ユーカリと同様に魔法部隊を辞め、新聞記者に転職したらしい。煙草を吸いながら、ユーカリの愚痴に付き合っている。

「どっかの公爵夫妻との急用が入っただとよ。たく、先約はこっちだってのに」

「個人が一国の王と面会できる時点で大概だろ。さすが戦争の英雄。つーか、なんで素直に追い出されたんだ。会談が終わるまで居座るタイプだろ、お前」

「待っている間は王妃様がお相手してくださるって言われたら、逃げるだろ。俺は精霊側の魔法使いだぞ」

「破格の待遇じゃねえか。もったいねえ。王妃様は精霊が苦手って、デマだぞデマ。第一、現王は精霊を信仰し、彼らの子孫である亜人差別解消に積極的だし、先王も竜と契約して歴史的な飢饉を解決した。むしろ王族は、精霊に友好的じゃねえの?」

「……そうだったらいいんだけどな」

 ユーカリの表情に陰が落ちる。メイスは、煙草を灰皿に押し付け、話題を変えた。

「それはそうと、俺を呼び出した理由はなんだ。まさか、ただ愚痴を言いにきたんじゃないんだろう?」

「まあな。王都の精霊使いについて尋ねにきたんだ」

「精霊使い? なんでまた急に」

「色々あるんだよ。貴族で、若い娘の精霊使い。ブン屋のお前なら知っているだろう」

 メイスは何も言わず、懐から使い古した手帳を取り出すと、あるページを開いてユーカリに渡した。

「その条件が当てはまる娘なんぞ、一人しかいねえよ。ちょっと前まで、王都の有名人だったぜ」

 ページを読んだユーカリが、ひくりと頬を引き攣らせる。メイスは、また煙草を口に加え、火を点けた。

「サリクス・セントアイビス。四大公爵家の一つ、セントアイビス家の長女で、ノエル王太子殿下の婚約者だ。ただし、三か月前から行方不明。今、お貴族様たちは彼女の後釜を狙って絶賛争い中……って、どうしたユーカリ」

 ユーカリが急にうなだれたので、メイスは思わず声をかけた。
 人嫌いのはずの竜人は、手で顔を覆って、ぶつくさと独り言を呟いている。

「お嬢様だとは知っていたが、よりによって次期王太子妃……道理で国王も言葉を濁すわけだ……師匠も師匠で重要なことは先に伝えろよ……」

「おーい。もしかして、サリクス・セントアイビスについて何か知っているのか? なら、情報くれよ。旧友のよしみで」

「友人だからこそ、下手に首を突っ込むなと忠告しておく」

 ユーカリは手帳を返すと、机に三枚の銀貨を置いた。二人分の茶代にしては、随分と多い金額だ。

「ありがとな、また困ったらよろしく頼む」

「こちらこそ今後もどうかご贔屓に。今度は飲みにでも行こうぜー」

 ユーカリが席を立つと、メイスは煙を吐きながら笑った。ユーカリは手を上げて応じ、喫茶店を出た。

(参ったな、こりゃあ長引きそうだ。サリクスに伝えとかねえと)

 ユーカリが店を空けて今日で三日目だ。彼はサラマンダーを呼び出し、サリクスにまだ帰れないことを伝えてもらおうとした。
 が、その前に、サラマンダーに引っ付いてきたシルフが話す方が早かった。

『サリクス、あっちにいないよ』

「は? なんだ、どっか出掛けているのか」

 あのサリクスが、とユーカリが首を傾げていると、シルフが不機嫌そうに教えた。

『あの裏切者の子孫と一緒に、こっちに来た』

「………」

『あいつら、嫌い。約束を守れない人間は、大嫌い』

『じゃあ燃やしちゃうー? 灰にするー?』

 不穏な空気を出すシルフと、無邪気に笑うサラマンダー。ユーカリは「やめろ」と両方宥め、気が逸れるように菓子をやり精霊界に帰した。

「……この件が片付いたら、サリクスと飲みにでも行くか」

 ユーカリは宿への道を返し、城へ向かった。
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