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第23話・相場の“神”

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 よく分からない場所、よく分からない時間。
 よく分からない人物が、自分に向かって話をしている。
 逆光で顔がよく見えず、年齢や男女の区別もつかない。
 しかし、それは聞き覚えのある声で。

 巷で言われる通り、鎖が切れる時、切れるのは一番弱いコマではなく最も強いコマの隣のコマだ。
 意外だが実際にもそうなのだ。
 
 人も同じ。
 強い人の傍に居る時は、気をつけていないと、その人の力のアオリを受ける事がある。
 
 逆に、自分が強い人間になったのなら、傍に居る人を気遣わなければならない。
 人は一人では生きていけない。
 だから、周囲には否応無しに気をつけなければならない。
 それは、分かってはいても実行は中々難しいことではあるが。

 …………

 微かに聞こえる空調の音。
 その中、人が近づいてくる気配。
 抑えられた足音。
 気遣いも顕わに。

 止まる足音。
 そして何事か言おうとする、その直前の気配。
 しかし、声は聞こえてこない。

 見られている。売り方は、薄目を開けている自分に気が付いた。
 視界の隅に、申し訳なさげに立っている白衣の端が見える。
 こんな中年男の寝顔なぞ、何が面白いのか。
 売り方は、その観察者にそう問いかけようとした。

 はっきり目を開けたそこには、売り方に向かって片手を伸ばしかけたナースの姿が。

「お早うございます、お時間です」

 手を戻し、売り方に軽くお辞儀をする。

「あ、あぁお早う」

 上半身を起こして、売り方。
 壁時計を見る。午前6時ちょうど。
 売り方は、昨夜ナースに、この時間に起こしてくれる様頼んだ事を思い出した。

 ナースは、少女のベッドの方へ向いて行った。
 年齢は30絡みといったところだろうか、長そうな髪を後ろ頭でお団子にしている。
 そして、少女のベッドの横にある大きな機械を見て、表示されている数値を、手に持っているボード様のものに書き込み始めた。

 売り方はそれをボンヤリと見ながら、目覚める寸前にみた夢の事を思い出していた。
 病院に居ると、よく昔の事を思い出す。
 とすると、あの夢も昔に言われた事なのだろうか。
 確かに内容は聞いた事のあるものだったが、それが誰に言われたのかは、頭を振ってみても思い出せなかった。

「シャワーを使っても?」

 ベッドから降り、隣室との壁側に造りつけてあるシャワールームへ向かう売り方。
 ベッドは、それと反対側の壁際に置いてある。つまり、広い部屋を横断する形だ。

「はいどうぞ」

 流石に慣れているのか、売り方の下着姿を見ても、眉ひとつ動かさず返答するナース。

 部屋の中央にある少女のベッド。
 その主の様子を見る売り方。
 相変わらず、不安になる程に白い顔色。
 規則正しい呼吸と、おそらくは脈拍を検知しているのだろう機械の発信音。
 それらに変化は見られなかった。

 シャワールームに入る。
 ビジネスホテル等によくある、規格もののトイレ一体式の造り。
 入室と同時に室内灯が点き、ファンが回り始める。
 病院の内部らしく、壁やバスタブは、寒々しさを覚える程の白色で統一されている。

 トイレを済ませ、下着を脱ぎ、シャワーからお湯を出す。先ずは洗髪だ。

 頭に掛けられる熱めのお湯。それが湯気となってシャワールームを満たす。
 白い室内に白い湯気。
 その白一色の世界は、売り方に少女の顔色を連想させた。
 未だ元気だった頃。
 病気が発症してきた頃。
 倒れて手術が行なわれた日。
 入院し、加療を続けていた先日まで。

 洗髪を終え、ボディソープをタオルに取り、簡単に体を洗っていく。

 その間、自分はどうだったろうか。
 考えてみる売り方。
 すると、少女の生命力が細るのと反比例する様に、自分の資産や地位が向上していった事に気付いた。
 まさか、少女は自分の力のアオリを受けて、今の状態になったのではないのか?
 それは、事柄が奇妙にかみ合う怖ろしい仮定。
 まるで、自分が少女の生命力を吸い取っているかの様にも思えて。

 体の泡を嫌な考えと共に洗い流さんとするかの様に、乱暴にシャワーを浴びる。
 シャワーを止め、バスタオルで頭と体を拭く。
 ファンによって湯気が排出され、室内の見通しが良くなった。

 バカバカしい、考え過ぎだ。
 整髪の為のドライヤーの音に紛れて、自分に毒づく。
 仮にそうだとしても、今の少女を見放す事など出来る筈も無いのだから。

 持って来ていた新品の下着を身に着け、シャワールームを出る。
 部屋の向かい側、売り方の寝ていたベッドの周囲。持ち込んだ服などで、その場所だけ変に所帯じみていた。

 少女の容態は、目先の峠は越した様なので、荷物を隣の自宅マンションへ戻そうか。
 そう考える売り方の視界の端に、男性の姿が映る。
 青年かと思ったが、どうやら違う様だ。
 彼は、昨夜あれから、実家(隣の県。父親が某総合病院の経営者)へ戻ると言っていた。父親へ状況を伝える為にと。
 それで、病院に戻るのは、朝の8時以降になるという事だった。

 少女のベッドの横にある機械。その横で、ナースと何か投薬に関するらしき会話をしているその男性。年齢は売り方と同い年の42歳前後と言ったところか。中肉中背、明るいグレーのスーツ、伸ばしっぱなしの長髪、飾りっ気の無い黒縁の眼鏡、無精ヒゲ。
 ナースから渡された書面らしきものを見るたびに、いちいち眼鏡をずらしている。
 視力の都合なのか、見た目に反して神経質な性格なのか。

 軽く会釈をし、その男の横を通り過ぎる売り方。

 寝ていたベッドの傍らで服を着る。
 よくプレスされた白いワイシャツを着、滅多に使わないが、相場では縁起が良いとされる淡い黄色基調のネクタイを締める。

 その上に昨日の濃紺のスーツを着ていると、件の男が朝の挨拶と共に話しかけてきた。
 曰く、自分は製薬会社の研究部門に勤務している者だと。
 ここの院長と青年医師の要望を営業社員から聞き、会社の業務としてやって来たと。
 売り方の事も聞いているとも。
 それらを、初対面の相手に対しては普通しないレベルでの、ぞんざいな口調で語った。
 研究職とはこういうものなのか、それとも、売り方とは直接の関係が無いので、気を使う必要が無いと判断しての事なのか。

 知っているとは言われたが、売り方も軽く自己紹介した。
 スーツを着終え、気持ちを引き締める。
 今日は初老と相場で取引をするのだ。少女を救えると思える、例の紙を手に入れる為に。
 おかしな夢見を引きずっている場合ではない。

 しかし、件の男は話の途中のつもりだった様で、話を続けてきた。
 曰く、昨夜青年から、製剤の為の機械も持ってきて欲しい旨の連絡を受けたと。
 そして、その機械を設置するのは、この少女の部屋が希望との事だったが、この様子ではとても設置は出来ないという事。

 それらを、部屋の隅の所帯じみた様子を見ながら、男は話した。
 それで売り方は、これらの荷物は今から部屋の外に出すので問題は無い、と言った。
 しかし男は、そういう事ではないとぶっきらぼうに言った。
 こんな事も分からないのか? という表情と共に。

 つまり、製剤をする環境ではないという意味か。
 売り方は思った。この部屋には、いわゆる雑菌などが多すぎるという事かと。
 健常な人間には問題にならない雑踏の空気も、重病人には悪影響を及ぼす場合もあるかもしれない。増してや、今の少女は落ち着いたとは言え、生死の境をうろついていたのだ。だから……

 そこまで考えて、売り方はまたも鬱な考えに落ち込んだ。
 雑踏の中で汚れた上着、それに顔をうずめる少女。
 病院にカネを入れる自分、それを見咎められない病院関係者。
 鎖は、最も強いコマの隣のコマが切れる。
 フリーハンドとまで呼ばれる様になった自分は、知らず知らずの内に周囲の人間を潰す存在になっていたのか。

 不衛生だからなのだな、と男に問い掛ける売り方。
 それを受けたのは、傍で会話を聞いていたナース。少女の病気はそういう事で悪化する様なものではないと。
 しかし、男はそれに納得しない風で言った。現状は余り感心出来ないと。

 この男は、売り方のカネの流れの外に居る。
 だから、歯に衣を着せない物言いが出来るのだろう。
 それ故に信用出来る。皮肉な話だが。

 売り方は、持ち込んでいたモノを部屋の外に出した。
 昨夜の妙な高揚感は、とっくに消え去っていた。
 鬼女をからかってさえいたというのに。
 ただひたすらに、荷物を自室の在る隣のマンションへ運んで行く。
 まさか、自分が少女の命を縮めていたとは。
 認識が焦燥に変わり、売り方を突き動かした。


  ◆    ◆    ◆    ◆


 着始めてまだ3日目、やはり御仕着せは体への馴染みが今ひとつ。
 軍服には体の方を合わせるものだって話だったか。そんな精神論が通るのなら戦争には負けていなかっただろう。

 東証。8時30分。立会い場内の、山師の会社のブースの前。
 未だ慣れない場服をぎこちなく着た売り方は、東証の役員や証取からの出張者達によって散々に注意を受けていた。

 内容は、昨日の山師の危惧の通りだった。
 仮に、生保が売り方に貸し出す金額と見せ金の割合を5%とすると、原資(即ち、売り方が青年に与えて山師の会社に入金させたカネ)の20倍の金額分は売買出来るという事だ。
 それは当時の、東証1部の一日の出来高を越えるものだった。
 つまり売り方がその気になれば、通常の買い注文と同等以上の額の売りを出すことが可能となり、事実上の価格決定権を持っているに等しかった。

 当時の法では、個人がそうする事を規制する手立ては無かった。
 売り方は、言うなれば法の網目を潜った状態にあったのだ。

 そして最後に、東証の役員がこの日の大雑把な予定を聞いてきた。

「今朝の電話連絡通り、現物買いの先物売りだ」

 売り方は、そっけなく答えた。

 それに聞き耳を立てていた他社の場立ち達が、一斉に自社のブースに戻る。
 そして、連絡員達が場電でその内容を連絡し始めた。

「いいんですか?」

 立ち去る役員達と入れ替わる様に近寄って来た従業員。
 他社のブースの動きを見ながら。

「いいのか、とは?」

 訝しむ様な表情で、売り方。ブースの席に着く。
 昨夜、青年と一緒に見た立会場。それは人気の無い薄明かりの中でひっそりとしていた。
 それが今はこの喧騒の坩堝。
 当然の変化ながら、売り方は、その差異に少し疎ましさを感じていた。

「あ、いえ……」

 少しうろたえる従業員。

「では、発注も今朝の打ち合わせ通りで良いのですね?」

 取り繕う様に尋ねた。

「ああ、変更無しだ。さっさと注文を出してきてくれ」
「分かりました」

 軽く会釈して、カウンターに向かって行く従業員。

 それを見送る売り方は、今朝の事を思い出していた。
 慌しく荷物をマンションの自室に押し込んだ事。
 急いでタクシーを拾い、山師の会社で打ち合わせをした事。
 それは、昨日の話からは少し違う内容になった事。

 それら進む雑事と、売り方の他言出来ない本来の目的―初老から例の紙を買い取る事―の進まなさとの落差が、立会場の変化に疎ましさを感じた原因かと、売り方はそう自己分析した。

 そこへ着信を告げる場電。時刻は8時53分だった。
 インカムを着け、場電に出る売り方。
 相手は山師だった。
 予定通り先物に売りを建てたと。

 了解の旨を告げる売り方の向こうで、場立ち達が喚声を上げる。
 8時45分に開場する、日本国債の先物の価格表示が下げを示したからだ。

 注文を出し終えた従業員が、売り方の傍らに戻って来る。
 それと同時に、従業員の出した注文を見た他社の場立ち達が、自社のブースへその内容を報告する。わずか数百万円分しか出ていないと。
 それでまた声が上がる。今度はざわめきと言った感じだが。

「ホントに良かったんでしょうか」
「ん? ああ、良かったも何も」

 売り方は、従業員が何を気にしているのかを理解した。

「奴らが勝手に勘違いしただけの話だ」

 9時ちょうど。株式相場が取引を開始。
 他社の場立ちや連絡員達は、困惑の中に居た。
 売り方は、現物を買いで先物を売りではなかったのか。

 通常、株式で先物と言えば、大証(大阪証券取引所。地名から、単に北浜とも呼ばれる)で売買される日経225先物の事を指す。
 他社は、株式の現物を此処の立会場で買い、大証に225先物の売り注文を入れるという裁定取引をするのだろうと思ったのだ。

 しかし売り方の出した注文は、明らかに個人からのしょぼいもののみ。

 従業員は、売り方の傍で立ったまま株価の表示を眺めており、追加の注文を出すという雰囲気ではない。
 また、売り方は、腕組みをして目前のテーブルを見つめている。インカムすら着けてない。

 つまり、売り方は日本国債にカネを入れようとしているのだ。
 それで、国債先物の値が上がり始めている。
 価格が板の厚い方に行くのは、国債の先物でも同様だ。つまり、売り板にかなりの指値注文が入っているという事だ。

 殆どの連絡員がその事に気付き、会社に連絡を入れようとした。
 売り方は、国債を本尊に据えようとしていると。
 しかし、その前に会社から指示が入ってくる。曰く、国債先物を買い向かう為、株を売ってカネに替えろと。

 連絡員達は動揺した。
 売り方は、国債の先物に売り玉を建てた後に、間違いなく現物を買ってくるだろう。
 国債の現物は、証拠金率が株の80%に対し、最低でも95%と高く、殆ど現金と同じだ。
 国債の現物を手元に揃え終えたら、それを証拠金として自分たちが売って下げた株を買ってくるに違いない。
 それでもし、会社から再度株の買いを指示されると、売り方の言い値で買わされる羽目になる! しかも、こちらが買いを入れた後にも、資金力に物を言わせて徹底的に売り浴びせてくる。なにせ、悪夢の売り方と呼ばれた男だ。間違いない。

 そして、売り方は往復で儲け、自分らは往復で損を計上する羽目になる。
 それが見えているのに……!

 株価の表示板を眺めている売り方を、恨めしそうな目で見る連絡員達。
 彼らもサラリーマンだ。渋々ながら、場立ち達に売り注文を出す。
 かなりの数だ。
 それで、この日は株下げの国債上げで相場が始まった。

 国債の先物は東証の3階で売買されている(現在は大証に移動しています)が、現物は、通常は銀行の店頭で売買するものだ。
 東証でも売買出来るが、その相場は12時30分から15時までだ。
 つまり、売り方がいつ何処で国債の現物を買い終えるのか、この立会場に居る人間には、この時点では分からないという事だ。
 売り方が大量のカネを振り回すのなら、自分らもコバンザメ宜しく同じ方向に乗れば良い。そう思って準備していた彼らは、完全に裏を取られた形になった。

 その一方で、売り方の気分は優れなかった。
 昨夜に引き続き、立会場に初老の気配が無いのだ。

 売り方は、或る程度は初老の呼び出し方を理解していた。つまりそれは、相場の流れをイメージするのだと。その思考の中で初老を確認出来る状態になると。
 それで、昼休みの間にチャート図を描いて流れをイメージする、その為の準備をしていたのだ。
 だが、今日は前2日とは雰囲気が違う。この自分の行為は無駄になるのではないか?

「なんというか、平和ですね」

 手持ち無沙汰の従業員が、そんな事を言う。

「こういう時にしか見られないものもある。とりあえず板の動きを見てくると良い」

 売り方は、そう言って従業員をカウンターへ追い払った。
 時刻は10時過ぎ。相場は木曜の午前中には珍しく、最初の15分で大きく下げた後は、薄商いのヨコヨコ状態で推移していた。

 売り方は、先日と同じく、バイオリンをケースごと持ち込んでいた。
 これで初老の例の楽譜を買い取るのだと。
 しかしこのままでは、昼休みに初老に会えないのではないか?
 結局自分は、少女に何もしてやれないのではないのか?

 11時ちょうど。前場引け。

 売り方の危惧は現実味を帯びた。
 2階で軽く食事を済ませた売り方は、会社に戻るという従業員を見送って、一人立会場に戻った。
 そして、先日と同じ様に前場の株価の動きをチャートに描いて、それの後場からの動きを先見しようとした。
 だが、それは上手くいかなかった。

 それは当然。何故なら、後場からの値動きは、売り方自身の注文出しによって幾らでも変えられるのだから。
 山師からフリーハンドとまで呼ばれ、更に証取から認められる程になった売り方には、もはや先見をする事自体が無意味となっていたのだ。

 12時30分。後場の開始。
 後場からは、一昨日と同様に、会社から営業マンが2人応援で来ていた。
 だが、当面は出番無し。従業員と雑談をしている。

「ようフリーハンド、ご機嫌は如何かな?」

 13時ちょうど。山師から場電が入った。

「悪い。その一言だ」

 吐き捨てる様に、売り方。
 このままでは、本当に欲しいものが手に入らない!

「いや、国債って凄いな。馬鹿みたいに儲かるぞ。これなら、昔先輩が“国債やると株は先物のオプションみたいに思えてくる”と言ってた気持ちが分かるわ」

 山師は、そんな売り方の焦燥を知る由も無く、前場の国債の状況を話して聞かせた。
 どうやら国債の現物は、昨日の予定通り、資金の半分は取引先の銀行から、残り半分は東証での相場で買い入れを完了したらしい。

「国債の現物は口座に入れ終えた。後は任せたぞ」
「いや、そう言われてもな」

 売り方は、相場に買いから入るのには抵抗があった。
 それに何より、今は株の売買が目的でこの場所に居るワケではないのだから。

 13時30分。相場は、昼のバスケットを後場の寄りで吸収した後は、また閑散に戻っていた。
 あくまでも売り方の出方を待っているのだ。

 売り方自身も焦れていた。
 証拠金である国債の現物は準備完了した。
 他社は、当面は国債を買う作業で忙しいらしい。
 今なら買いで楽に相場を動かせる。

 だが、自分で相場を動かしても、初老に会えるワケではない。
 逆に遠ざかる様な気さえしてきた。
 初老が本当に相場の神ならば、確かに現状は正しいのだろう。
 今売り方は、相場に関しては誰の助けも必要としていない。
 寧ろ、売り方自身が神の様なものなのだから。

 14時ちょうど。
 この日は、欧州の早起き組みすら相場に顔を出してこなかった。
 変わらずに薄商いを続ける相場。

 このままでは、本当に二度と初老に会えなくなってしまうかもしれない。
 そう考えた売り方は、初老を強引に呼び出す事にした。

 初老が例の楽譜をばら撒くのは、主に相場を上げる時だった筈。
 ならば、ここで意表を突いて、売り建てをしたらどうだろう?
 周囲が買い上がりを予測している時に、膨大な数の売り浴びせ。
 それは、非常に短期ながら、相場を破壊する事になるのではないか?
 少なくとも、今自分が動かせる金額なら決して不可能な話ではない。
 それで初老を呼び出せて、例の楽譜を買い入れる事が出来るのなら――

 応援の人間と共に、カウンターの前で板を覗き込んでいる従業員。
 彼に向かって、売り方は、大型株に売り建ての注文を出そうとした。
 売り方の大声(喧騒で殆ど聞こえないが)と気配で、売り方の方に向く従業員。
 売り方は、手サインを出そうと両腕を振り上げた、その刹那。

(無茶な事はお止め下さい)

 唐突に初老が登場した。


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