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第62話・来るなと言えば来るし無視していてもやっぱり来るしどうすれば?

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「…………」

 行く先は同じのようだし、先行車や対向車もほとんどいない。
 だから相手してやるのも吝かではなかった。
 スタリオンの加速力が速そうなバイクにどこまで通用するのかにも興味があるし。
 だが……

「……っと、こっちも手漕ぎだったか」

 ハンドルを左手に任せ、右手でドアのウィンドウレギュレータをクルクル回す。
 そしてその右手を窓の外に出し、先に行けと振って見せた。
 いくら峠道でそれっぽい車を走らせてるからと言っても、俺は一応仕事の最中なんだからな。
 遊んでる場合じゃないんだよ。

「さあ、さっさと行っちまいな……って?」

 右手を振りつつ、スタリオンをわずかに左に寄せてアクセルも緩めた。
 すると同時にバイクが追い越しにかかり、あっという間にスタリオンの右斜め前方に位置する。
 そしてこちらに一瞥をくれた後(スモークシールドなので目は見えなかったが)、スタリオンの前方に出た。

 ライダーの小柄な体躯に似つかわしくない大柄な車体。
 排気管が後ろタイヤの両側に一つずつ、そしてテールランプの両側にまた一つずつの計4本。
 それらを収める為なのか、白ベースに赤い四角ラインの派手なフルカウルは、ふくよかな形状になっている。

 それがスムーズに車線変更するのを見て、今日の午前中の、祢宜さんの巫女舞を思い出した。
 素直に綺麗だと思った。
 加速するのだろうが、可能なら少しの間ついて行って眺めてようかと思ったほどに。

 だがこの紅白バイクはそれ以上増速しなかった。
 いやむしろ減速し始めてる……?

「なんだってんだ?」

 ライダーは左の掌をこちらに向けて振ってきた。
 止まれのゼスチャーだ。
 まるで白バイ隊員が違反車両に対してそうするように。
 しかし俺はそんな違反をしていないはずで。

「…………」

 ちょっとムッとしたので、わざとキツめにブレーキをかけた。
 もちろん後ろに他のクルマやバイクが来てないことを確認した後でだ。
 もしコイツが覆面白バイ(有るのかそんなもん?)だとしても知った事か。

「……よし」

 こちらは完全に停車した。
 紅白バイクのライダーは、もっとゆっくり減速すると思っていたのか、バックミラーを覗き込んで慌ててブレーキをかけ直して止まった。
 それで、彼我の距離は20メートルほどに開いた。

「よしよし」

 少しの間ライダーは上体を捻ってこちらを見ていたが、諦めたかバイクを降りてこちらに向かって歩いてきた。
 止まれのゼスチャーは堂に入ったものだったが、バイクを降りた途端に頼りなく見える。
 こういうのってライダーあるあるなのか?
 まあ、ともかく……

「バカじゃね?」

 ヘルメットを被ったままのライダーが運転席側に来て中をのぞき込んだところで、辛辣な言葉を投げつけた。
 そしてスタリオンを急発進させる。
 のけぞるライダーの焦った様子が視界の端に残った。

「ごくろーさん」

 停めてある紅白バイクを抜いてシフトアップ。例の強烈な加速が体を襲う。
 が、構わず加速し続けた。

 止まらせた後の対応のまずさから、少なくとも訓練を受けた人間や警察関係者でないのは分かった。
 だから遠慮しなかった。
 つーか、こんな怪しげな奴に止まらされて(多分)イチャモン付けられるのなんて冗談じゃねーっての!

 ライダーが走りにくそうなブーツで駆けてるとこがルームミラーに映ったが、バイクに跨った頃にはこっちはとっくに地平線の彼方さ。
 ざまあ。

 と思った時、直線だった道路はキツそうな右カーブに変わろうとしていた。
 3速にシフトアップしようかと思っていた左手が戸惑う。
 が、ギアはそのままで行くことにする。回転計の針がレッドゾーンに入ってもいいだろうと。

 ある程度は本気で走らないと、簡単に追いつかれそうな気がしたからだ。
 そういう雰囲気を持ってたからな、あの紅白バイクは。

「いけっ!」

 カーブの入り口、アクセルを半分ほど戻し、同時にハンドルを軽く切り込む。
 得意のバッタコーナリングだ。
 スタリオンは意を酌んでくれたか、再度踏み込んだアクセルにも忠実な反応を示して半分グリップ・半分滑りの状態でコーナリングしてくれた。

「よっし」

 カーブの出口に続くは、またしても長めの直線。
 ハンドルとアクセルを戻し、クラッチを切って3速にシフトアップ。
 強烈な加速に目がくらみながらも、ルームミラーで後ろを確認。
 当然ながら、まだ紅白バイクはその中に映ってはいなかった。

「ぶっちぎりだ」

 このスタリオンだって、加速力だけならなかなかのものの筈だ。
 だからいくら大型のバイクといえど、この差はそう簡単に詰められはしまい。
 と、次の緩めの左カーブをアクセルを緩めただけでクリアしながら考えた。

 あのライダーが何を目的にしてたのか知らんが、これで諦めてくれればいいのだが……

 ………………

 …………

「まあ、ここまで来ればもう大丈夫だろう」

 走り続ける山岳道路。
 道は上りの直線主体から、アップダウンが少なくカーブが多いものに変わっていた。
 そこでとうとう先行車に追いついた。

 ブラインドカーブが多いので、安全の為に先行車(家族連れっぽいミニバンだ)の後を大人しくついて行くことにした。
 あれから十数分。もう諦めてるだろいくらなんでも。

 と思ったのだが……

「おいおいマジかよ」

 何か嫌な感じがして見たルームミラー。
 そこには今まさにさっき通ったばかりのカーブを立ち上がってくる紅白バイクの艶やかな姿が。
 こ、これは万事休すか?

「だがしかし(ニヤリ)」

 右隣に並びかけてくる紅白バイク。
 しかし完全に追い越すことは出来ないでいた。
 それは当然。
 俺がスタリオンと先行車の車間を極端に詰めてやったからだ。

 そこへ丁度やって来た対向車。
 已む無くといった感じでスタリオンの後ろに戻る紅白バイク。
 すれちがう対向車を見送って、さてどうしたもんか、と思ったところで紅白バイクのライダーが意外な行動に出た。

「……うへぇ」

 ビッビーと、クラクションを鳴らしてきたのだ。
 ご丁寧にパッシングまで追加で。
 
 そして、それで初めて後方を確認したのか、先行のミニバンがハザードを出して道の端に寄って減速した。
 俺らに邪魔者扱いされたと思ったんだろう。

 ちょうど長めの直線。対向車も来てない。
 抜かないわけにいかず、渋々と対向車線に出て抜いた。
 紅白バイクもついてきた。

「っく」

 車線に戻って2速に落としアクセルベタ踏み。
 強烈な加速が体をシートに食い込ませる。
 前に出させるわけにはいかんからな。
 
 だが、驚くことにそんな加速の中でも紅白バイクが右隣に並んできた!

「チキンレースしようってのか!?」

 道は狭いながらもほぼ平らの直線、300メートルほど向こうにカーブ。
 そこまでどっちが速く行きつけるかの勝負だと?

「怖すぎるううううううっ!!」


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