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第57話・現役JCへのお礼の品は何が適当でしょうか?

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 因みに、ショートコースでは基本的にホールインワンというものは存在しないらしい。
 俺の2周目3番ホールは、チップインイーグル(-2)となるんだとか。

「ショートコースでホールインワンを認定してたら、保険会社が倒産しちゃうでしょ」

 まあそれはともかく。
 その後、4番ホールを終わった(+1だった)ところで、倍音がやたらと空の様子を気にしだしたので、途中で切り上げて丸木小屋に戻った。

 すると、流石は地元民の天気予想山の天気は変わりやすい
 小屋に入ってまもなく、例の矢板スコールが近辺を襲ったのだ。
 落雷と、小屋の屋根を心配してしまうほどの豪雨。
 コース上に居たらエラいことになってたな……

 …………

 雨は30分ほどであがった。

 おばさんの、ついでに夕ご飯を食ってけという誘いを謝辞して。
 更にこの2日間のもてなしに最大限の感謝を言って。
 (もちろんプレイフィーその他支払いも全て済ませて)
 ショートコースを後にした。

 バックミラーの中の二人の姿が小さくなり、カーブを曲がり見えなくなって。
 そう言えばこの2日間、客は結局俺一人だけだったなと。
 今更ながらに気が付いた。

 …………

 那須の町中の飯屋で晩飯食って、近くのコンビニで弁当買って館に戻った。
 やっぱ自作のカレー(冷凍済み)だけでは飽きるからなあ。
 で、買ってきた弁当2つを厨房の冷蔵庫に入れる。
 これで明日の食事はなんとかなる。ちょっと安心。

 自室に戻り、PCのメールをチェック。
 すると、予想通り祢宜さんからメールが入っていた。
 内容は『依頼のモノは明日の朝ダウンロード可能』だった。

 昨日の朝に依頼だったから、2日弱で基板図と配線図それに各々のCADデータまで手配が付いてしまうとは。

 宇治通は今回の問題に対してかなりの危機感を持ってることが分かる。
 まだ原因を突き止められていないようだし、俺のような市井の基板描きの力ネコの手さえ借りようってんだからな。

 まあ、とにかくこれで明日からまた仕事の日々だ。

 とりあえずPCを落とし、シャワーや洗濯などを粛々とこなして。
 けっこう早い時間にベッドに入った。

 この4日間、色々あったな。
 関内で基板設計してたんじゃ経験できないことだらけだったな。

 純音は普段、何してるんだろうか。
 米国から来たとかいう話だったが。
 また会えるだろうか……

 それと、昨日今日のショートコースの倍音。
 なんであんなに親しくしてくれたのかな。
 まあおかげで楽しい休暇を過ごせたけどさ……

 目先の仕事が落ち着いたら、関内に戻る前にお礼に行った方が良いな……

 ……倍音は、何を貰ったら喜ぶかな……

 …………

 ………………

 8月20日 水曜日

 今朝も昨日と同じく早くに目が覚めた。
 だが昨日と違うのは、体全身が筋肉痛だという事だ。
 い、痛ぇ……全身がギクシャクしている。

 そんなひどい状態の体をなんとか厨房まで連れて行き、やっとの思いでコーヒーを入れる。
 朝食本体は、昨日コンビニで買っておいた菓子パンだ。

 なんかこの館での朝食は菓子パンというイメージが付いてしまってたようで。
 非常に美味しく感じたし、それに筋肉痛が幾分和らいだような気もした。
 糖分は筋肉痛に効くんだろうか?
 いや知らんけどね。

 …………

 自室へ行き、PCを立ち上げる。
 そして、昨日のメールに書いてあったURLへ接続する。
 すると、大企業のページとは思えないとても簡素なダウンロードページが開いた。

「まあ仕事で使うページなんてこんなもんか」

 そして、これもメールにあったパスワード(たぶんワンタイムだろう)を入力し、指定のデータをダウンロードする。

「さて、その間にメールのチェックでも」

 とか思ったところで、ダウンロードが完了した。
 うへぇ速すぎ……

 ゼロデータだったのかもと思い降りてきたデータを確認したが、それらしいデータ量が表示されている。
 そうか、この館のネット環境やPCの性能は超一流だったな。

 解凍先を指定し、データを解凍する。
 (これも一瞬だった)
 それで開かれたデータの一覧を確認した。
 すると、配線図が30枚あったのはまあいいとして、基板図のデータも十枚ほどあったのだ。
 もちろん紙図用の.jpgデータは別でだ。
 いくらなんでも多すぎる……

 と疑問を持ったが、配線図を開いてみて納得がいった。
 このコンピュータシステムなろうヘッドは、スーパーコンピュータという話だったが、要は大規模なサーバーシステムだったのだ。

 だから、機械としてはマスタとスレイブの2種がある。
 それで基板データの数も通常の2倍になってるということだ。

 ああなるほどねと思いながらも、こんな多くの基板や配線図の検図が俺一人で出来るだろうか? と新たな疑問に取りつかれた。
 あまりにも気軽に考えすぎてたんじゃないのか? と。

 しかし、そう後悔を開始しようとした俺の目に、ファイルリストの一番下の“Read me”が目にとまった。
 それで何気なくその.txtを開いてみたのだが。

 そこには、美原さんからのメッセージが綴られていた。

 曰く、先週の金曜日はロクに挨拶も出来ずに大変失礼しましたと。
 曰く、俺からの検図の提案があった時はサラと一緒に喜んだと。
 曰く、それでも一人で無理をしないで欲しいこと。
 曰く、出来れば不具合を直して、またあの楽しかった日々を再開させたいということ。

 などなどの丁寧な文面が、あのモブキャラ然とした美原さんを思い出させて。
 しかも、金曜に帰る間際のワンボックスの中での俯いた表情や、何か言いたげだったサラの事をも思い出させて。

『二人のことをよろしく』

 純音に言われるまでもなく、出来る出来ないなんかでもなく。
 可能な限り力になってやるべきだと。
 そう思い直したのだった。


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