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第47話・死の路地裏ドライバー

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 S225は、道路に出たところで40絡みの男に停められていた。

「お、ラッキー!」

 かどうかは判断が難しいところだったが。
 (残り半分も走りきることが確定したのだから)
 それでもとりあえず口にした。

 向きが塩原方向だったのも大きいだろう。
 あちら側は確か占有とかで通れないって話だったからな。

 それでペースをちょっと落として走り続けて……

「はあっはあっ、お、追いついたぞ……」

 S225の運転席側に取りついた。
 傍らに40絡み。場所をあけてくれる。

「純音っ!」

 窓を閉めっぱなしの運転席から、純音はチラとこっちを見ただけで。
 いきなりS225を発進させた。

「ああクソっ!」

 完全に無視された40絡みが、全く同感なことを言う。
 しかし地団太踏んでる場合じゃない。
 速攻でスタリオンの元へ行き、運転席にもぐりこんだ。

「あ、あいつっ……」

 エンジンをかけて前方を見ると、S225は50メートルほど向こうで。
 歩くほどの速度で動いてるのだ。
 早くついて来い、ってなもんか。
 舐められてる……

 とりあえずライトを点灯させ、スタリオンを発進させる。
 しかし留められるかな、と思って40絡みの男の方を見ると。
 男は交通整理用(?)の赤色の棒ライトを払うように振って。

「クソったれが、ブチ抜いてやれ!!」

 と怒鳴ってきた。

 それに対し、窓から右手の親指を立てて見せる。
 なんかの映画みたいだと思いながら。
 高揚感の中2速にシフトアップ、加速を開始。

 例の強烈で不快な加速。
 だがこれなら簡単に前に出れる、カッコつけるまでもなかった……

 と思った瞬間、S225はハザードを一度だけ閃かせ。
 リアをグッと沈み込ませて加速を開始した。
 
 それでも右に出て横に並んだ瞬間、スタリオンのエンジンは伸びなくなる。
 ギア比の都合なのかS225はそのまま加速を継続。
 抜くどころか4車身ほど差を付けられた。

「くっ!」

 左車線に戻って3速にシフトアップ。
 スタリオンは息を吹き返したように加速再開。
 道路はわずかに下りで緩やかな右カーブ。
 3速のまま加速しながら回っていく。

 縮まらない差にスピードメーターを見ると。
 その白い針は160キロ辺りで震えていた。
 それでさっきの高揚感はどこかに吹っ飛んで。

「うへ……」

 カーブを抜ける。
 そこで機械的に4速へシフトアップ、してしまった。
 それはエンブレによる車体の不安定化を嫌ってのものだったが。
 しかし更なる恐怖の増加も意味していて。
 実際、スタリオンは無垢な喜びの声エキゾーストノートとともに増速したのだ。

「お、おいおい」

 ビビって減速を考える俺の目に、なおも加速していくS225の後ろ姿。
 直線の向こう100メートルほどには、キツそうな左カーブの入り口が。

「死ぬ気か!?」

 アクセルを緩め、エンブレで減速に入る。
 それで速度差は一気に広がり、S225は吸い込まれるようにカーブの外へ。
 っと思ったところでブレーキランプが点灯。
 同時にテールパイプから真っ黒い煙を吐いて。

「ゲッ」

 一瞬捩じれる感じで向きを変えたS225は、カーブの中へ消えて行った。

「なんだそれっ!」

 心配する場合ではなく、今度はこちらの番となった。
 なんと無慈悲な物理の法則。
 下り坂に4速のエンブレでは十分に減速できていなかったのだ!

「っ……!」

 カーブは目前。
 先ずブレーキで減速する。
 しかし3速にシフトダウンもすべき。
 だがそのままでは回転が合わずにギアが入らないかリアタイヤがロックする。

「っく」

 体が勝手に動いた。
 先ず左足でクラッチを切る。
 同時にブレーキを踏みながら、右足をよじって踵でアクセルをあおるヒールアンドトゥ
 左手でシフトレバーを前に押して3速へシフトダウン。

「ぉおっ!」

 クラッチを合わせてエンブレをリアタイヤに伝えながら。
 右手でハンドルを押し込んで左カーブにターンイン!

 その瞬間リアタイヤから殺気を感じたので、アクセルを少し強めに踏んだ。
 (後ろへ荷重移動のつもり)

「……!」

 すると、今までに経験したことのない横Gが体をドアの方に押し付けた。
 たまらずハンドルを戻す。
 だがそれは幸運なタイミングだった。
 その時には、スタリオンはカーブの出口を向いていたのだから。

 アクセルを緩め、弾かれるように左カーブを脱出する。
 それでみた前方には、今のと同じようにキツそうな左カーブと。
 それに先ほどと同じように捩じれて曲がりこむS225の姿があった。

(あのコーナリング、どうやるんだ?)

 謎だった。
 そして分析してる場合でもなかった。
 またしてもキツそうな左カーブが目前に。

「このっ!」

 とりあえずスキーのターンだ。
 
 まず後傾で加速して(アクセルを踏んで)。
 前が上がったままターンするポイントまで行き。
 ポイントで前傾して減速(アクセルを緩め)。
 そして外側の板に荷重をかけて(ハンドルを切り込んで)。
 外板を滑らせつつ内板のエッジを噛ませつつで向きを変える。
 そして向きが変わるちょっと前に後傾に戻し(アクセルを踏んで)。
 ターン終了。

 結果的にアクセルだけで加減速が完了。
 この安直な走り方は上ってきた際に体得したものだが。
 速度さえ合えば下りでも使えることが分かった。
 シフトダウンの必要が無ければ、これが一番いいな。

 道路は緩やかな右カーブで、わずかに加速しながらS225の後につけた。

 つうかさ、こんなクネクネした狭い峠道を。
 4速で走ろうってのが間違いだったんだろうなあたりまえっ!


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