上 下
27 / 67

第27話・通観

しおりを挟む
 
「こっちアタシのー」
「ぜんぶアタシのー」

 両足に纏わりついてくる、黒と白のフリルの塊。
 今日のゴスロリは白基調。
 どうも2~3日おきに、お召し変えをしているようだ。

「ヤシャずるいよー」
「じゃあフリツには、お靴をあげるわ」
「ほしくないもーん」

 相変わらず、俺の所有権を主張しあう双子。
 つうか、俺は俺のものなんだが。

「ああ、加治屋さん、動いちゃ……」
「おおっと」

 カメラを構えてる祢宜さんからクレームがつく。
 それであわてて姿勢を直した。

「じゃあ、はいチーズ」

 フィルムカメラのそれを模したシャッター音。
 昔取った杵柄。学生時代の趣味。
 その記憶から出たアドバイスの通り、音は2度繰り返された。

「祢宜さん、次はそっちの花壇の前で」
「はい」

 涼しい風と明るい日の光の中で、CAD酔いもすっかり治まった。
 それで、双子を引き摺るようにして移動する。
 結局、法帖老のリクエストは、この双子を写真撮影することだったのだ。

「助かりました、加治屋さんが手伝ってくれて」

 近寄ってくる祢宜さん。
 手にしてるのは、昨夜も使った一眼レフだ。

「いやこれ、手伝ってる内に入らないのでは」

 基本的に双子を抑えてる(押さえつけられてる?)だけなのだ。
 写真を撮ると言われたときは、てっきり俺がシャッター切るのだと思ったのだが。

「いいえ、カメラの使い方を教えてもらって、その上構図のとり方まで」

 今までも双子を撮影したことはあったのだが、それはシンプルなデジカメで行われたらしい。
 そして今回は、昨日宅配便で送られてきたこの一眼レフで撮影するようにと、法帖老から指示があったのだとか。

「それでもそんな大したことでは……あ、もう少し左を向いて」
「は、はい……これでいいですか?」
「オケです」

 言ってシャッターを切る。
 まずは祢宜さんを被写体にして撮影、それを祢宜さんに見てもらって、同じ構図で双子(と俺)を撮ってもらう段取りだ。
 こうすれば、いちいち言葉で説明するよりもずっと早い。

「レフ板がありませんから、館の白い壁を流用する形で影を無くすと……」

 少しはにかんだ明るい顔色の青メイドさんが、手前の花壇の赤と黄色の花と共に写っていた。
 放送局によくある、色度調整用のカラーバーみたいな色合いになってしまい、ちょっと失敗したかな、と思ったのだが。

「わあ、私じゃないみたい」

 こちらに来た祢宜さんが。
 けっこう好評なので、まあ良しとした。
 どうせ保存しないしな。

「「みせてー」」

 足にしがみついてる双子が見たがったので、見せてやる。

「わーわー」
「きれー」

 ふっ、幼女の感想はシンプルでいいな。

「今度はキミらが写るんだよ」

 言って、先ほどまで祢宜さんが居た場所へ移動する。
 祢宜さんの写り具合が良かったせいか、双子は素直について来た。
 こういうところは、幼くてもやっぱり女の子なのかねえ。

 ……足にしがみついてるのは相変わらずだが。

「先ほども言いましたが」

 さっき祢宜さんが居た位置について。

「この子らの胸辺りが画面の中心に来るように、高さを調整してください」
「は、はい」

 双子に正面を向かせながら。
 祢宜さんは、アドバイスに従って一眼レフの画面を見ながら中腰になった。
 真剣な眼差しがいい感じだ。

「あ、加治屋さん、もう少し右の方を向いてくれませんか?」
「はいな」

 こちらを見ずに祢宜さんが。

「あ、はいそこです」

 体の動きを止める。
 微妙な動きだったが、双子も大人しく合わせてきた。
 祢宜さんの真剣な表情に押されてるのかもな。

「じゃあいきます、はいチーズ」

 パシャリ、パシャリと2度シャッターが切られる音。

「「わーい」」

 双子なりに緊張していたのか、それから解放されて喜んでいるように、祢宜さんの元に駆け寄った。
 そして、今撮ったばかりの画像を見せてとせがんでいる。

「ああ、はいはい」

 こちらから見ると逆光気味だから、彼女らの左側に行って見る。
 すると、シャッターを切った中腰のまま一眼レフの画像を見せる祢宜さんと、両サイドからその画像を興味深そうに覗き込む双子。その間を夏の白い光が通っていて……

 思わず手指で四角を作って覗き込んでしまう。
 なんというシャッターチャンス!

「こっちアタシ?」
「そっちがフリツ?」
「「ええー?」」

 双子が、祢宜さんを俺に見立てて、ふんわり広がってるスカートの端を摘まんでどちらがどっちかと首を傾げている。
 そして、それを見てる祢宜さんもまた、いつもの仕草で小首を傾げていた。

 ああ、これもまた最高の――

「でもホント、加治屋さんに手伝ってもらって良かったです」

 一瞬だと思った時に、なんでカメラを持ってないんだと思ったその時に。

「私だけじゃこの子たち、こんなに笑ってくれませんから」

 祢宜さんが意外な事を言った。

「笑ってる……?」

 たしかに、笑い声は聞こえていた。
 しかし、顔までは見えてなかったのだ。
 なんせ、この双子は始終俺にへばりついてるから。

「ええ、いつもニコニコ笑顔ですよ」

 気づいてなかったのですか? と、いかにも意外そうな顔で祢宜さんが。

「30男の顔見て、何が面白いのやら……」

 ふてくされた俺の自虐に、明るい笑顔を見せる祢宜さん。
 それを見て、今こそが絶好の機会だと思った。
 もちろん、それは写真を撮るのではなく……

「この子らは、いったいどこの誰の娘たちなんですか?」

 ………………

 …………

 ……

「おじい様の会社の、社長さんの娘たちなんだそうな」

 午後0時25分、PCルーム、テーブルの席。
 傍らに宇藤、正面斜め上のディスプレイにサラと美原さん。

「幼稚園が夏休みなんで、会長である法帖さんが預かってるのだと」

 昼前に祢宜さんから聞いた話を公開した。
 分かってみれば、どこにでもあるような話だった。

「で、なんでアンタらはこの事を教えてくれなかったんだ?」

 当惑してる風の三人に問いただした。

「それを何故、本当の事だと思えるのかしら」

 質問に対して疑問で返す宇藤。相変わらず失礼な。
 でもまあ、普通のツッコミではあるだろうな。
 但しそれは、昨日までの俺にしか通用しない。

「それは当然、祢宜さんを信用してるからさ」

 決まった……そう思った。
 これが後の世に言う、那須のお山への誓い、ってやつなのだ!
 しかし……

(宇)「え……」
(美)「あ……」
(サ)「む……」

 概ね不評だった。
 これはひょっとすると、何かヤキモチ系の悪感情なのだろうか?
 いかん、急ぎフォローしなければ!

「も、もちろんアンタらも信じている、そりゃもう心の底からっ!」

 と、青年の主張よろしく、テーブルをダンと叩いて立ち上がり宣言した。
 無論、いちいち三人の目を見ながらだ。
 すると……

(宇)「ちょ……マジレス?」
(美)「加治屋さん、そういうとこですよ……」
(サ)「加治屋、キモい」

 と、冷ややかな反応を返されたのだった。
 っく、納得いかねえ。

「じゃ、じゃあ、アンタらはどういう風に聞いてたんだよ?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

胡桃の中の蜃気楼

萩尾雅縁
経済・企業
義務と規律に縛られ生きて来た英国貴族嫡男ヘンリーと、日本人留学生・飛鳥。全寮制パブリックスクールで出会ったこの類まれなる才能を持つ二人の出逢いが、徐々に世界を揺り動かしていく。青年企業家としての道を歩み始めるヘンリーの熾烈な戦いが今、始まる。  

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

処理中です...