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第27話・通観
しおりを挟む「こっちアタシのー」
「ぜんぶアタシのー」
両足に纏わりついてくる、黒と白のフリルの塊。
今日のゴスロリは白基調。
どうも2~3日おきに、お召し変えをしているようだ。
「ヤシャずるいよー」
「じゃあフリツには、お靴をあげるわ」
「ほしくないもーん」
相変わらず、俺の所有権を主張しあう双子。
つうか、俺は俺のものなんだが。
「ああ、加治屋さん、動いちゃ……」
「おおっと」
カメラを構えてる祢宜さんからクレームがつく。
それであわてて姿勢を直した。
「じゃあ、はいチーズ」
フィルムカメラのそれを模したシャッター音。
昔取った杵柄。学生時代の趣味。
その記憶から出たアドバイスの通り、音は2度繰り返された。
「祢宜さん、次はそっちの花壇の前で」
「はい」
涼しい風と明るい日の光の中で、CAD酔いもすっかり治まった。
それで、双子を引き摺るようにして移動する。
結局、法帖老のリクエストは、この双子を写真撮影することだったのだ。
「助かりました、加治屋さんが手伝ってくれて」
近寄ってくる祢宜さん。
手にしてるのは、昨夜も使った一眼レフだ。
「いやこれ、手伝ってる内に入らないのでは」
基本的に双子を抑えてる(押さえつけられてる?)だけなのだ。
写真を撮ると言われたときは、てっきり俺がシャッター切るのだと思ったのだが。
「いいえ、カメラの使い方を教えてもらって、その上構図のとり方まで」
今までも双子を撮影したことはあったのだが、それはシンプルなデジカメで行われたらしい。
そして今回は、昨日宅配便で送られてきたこの一眼レフで撮影するようにと、法帖老から指示があったのだとか。
「それでもそんな大したことでは……あ、もう少し左を向いて」
「は、はい……これでいいですか?」
「オケです」
言ってシャッターを切る。
まずは祢宜さんを被写体にして撮影、それを祢宜さんに見てもらって、同じ構図で双子(と俺)を撮ってもらう段取りだ。
こうすれば、いちいち言葉で説明するよりもずっと早い。
「レフ板がありませんから、館の白い壁を流用する形で影を無くすと……」
少しはにかんだ明るい顔色の青メイドさんが、手前の花壇の赤と黄色の花と共に写っていた。
放送局によくある、色度調整用のカラーバーみたいな色合いになってしまい、ちょっと失敗したかな、と思ったのだが。
「わあ、私じゃないみたい」
こちらに来た祢宜さんが。
けっこう好評なので、まあ良しとした。
どうせ保存しないしな。
「「みせてー」」
足にしがみついてる双子が見たがったので、見せてやる。
「わーわー」
「きれー」
ふっ、幼女の感想はシンプルでいいな。
「今度はキミらが写るんだよ」
言って、先ほどまで祢宜さんが居た場所へ移動する。
祢宜さんの写り具合が良かったせいか、双子は素直について来た。
こういうところは、幼くてもやっぱり女の子なのかねえ。
……足にしがみついてるのは相変わらずだが。
「先ほども言いましたが」
さっき祢宜さんが居た位置について。
「この子らの胸辺りが画面の中心に来るように、高さを調整してください」
「は、はい」
双子に正面を向かせながら。
祢宜さんは、アドバイスに従って一眼レフの画面を見ながら中腰になった。
真剣な眼差しがいい感じだ。
「あ、加治屋さん、もう少し右の方を向いてくれませんか?」
「はいな」
こちらを見ずに祢宜さんが。
「あ、はいそこです」
体の動きを止める。
微妙な動きだったが、双子も大人しく合わせてきた。
祢宜さんの真剣な表情に押されてるのかもな。
「じゃあいきます、はいチーズ」
パシャリ、パシャリと2度シャッターが切られる音。
「「わーい」」
双子なりに緊張していたのか、それから解放されて喜んでいるように、祢宜さんの元に駆け寄った。
そして、今撮ったばかりの画像を見せてとせがんでいる。
「ああ、はいはい」
こちらから見ると逆光気味だから、彼女らの左側に行って見る。
すると、シャッターを切った中腰のまま一眼レフの画像を見せる祢宜さんと、両サイドからその画像を興味深そうに覗き込む双子。その間を夏の白い光が通っていて……
思わず手指で四角を作って覗き込んでしまう。
なんというシャッターチャンス!
「こっちアタシ?」
「そっちがフリツ?」
「「ええー?」」
双子が、祢宜さんを俺に見立てて、ふんわり広がってるスカートの端を摘まんでどちらがどっちかと首を傾げている。
そして、それを見てる祢宜さんもまた、いつもの仕草で小首を傾げていた。
ああ、これもまた最高の――
「でもホント、加治屋さんに手伝ってもらって良かったです」
一瞬だと思った時に、なんでカメラを持ってないんだと思ったその時に。
「私だけじゃこの子たち、こんなに笑ってくれませんから」
祢宜さんが意外な事を言った。
「笑ってる……?」
たしかに、笑い声は聞こえていた。
しかし、顔までは見えてなかったのだ。
なんせ、この双子は始終俺にへばりついてるから。
「ええ、いつもニコニコ笑顔ですよ」
気づいてなかったのですか? と、いかにも意外そうな顔で祢宜さんが。
「30男の顔見て、何が面白いのやら……」
ふてくされた俺の自虐に、明るい笑顔を見せる祢宜さん。
それを見て、今こそが絶好の機会だと思った。
もちろん、それは写真を撮るのではなく……
「この子らは、いったいどこの誰の娘たちなんですか?」
………………
…………
……
「おじい様の会社の、社長さんの娘たちなんだそうな」
午後0時25分、PCルーム、テーブルの席。
傍らに宇藤、正面斜め上のディスプレイにサラと美原さん。
「幼稚園が夏休みなんで、会長である法帖さんが預かってるのだと」
昼前に祢宜さんから聞いた話を公開した。
分かってみれば、どこにでもあるような話だった。
「で、なんでアンタらはこの事を教えてくれなかったんだ?」
当惑してる風の三人に問いただした。
「それを何故、本当の事だと思えるのかしら」
質問に対して疑問で返す宇藤。相変わらず失礼な。
でもまあ、普通のツッコミではあるだろうな。
但しそれは、昨日までの俺にしか通用しない。
「それは当然、祢宜さんを信用してるからさ」
決まった……そう思った。
これが後の世に言う、那須のお山への誓い、ってやつなのだ!
しかし……
(宇)「え……」
(美)「あ……」
(サ)「む……」
概ね不評だった。
これはひょっとすると、何かヤキモチ系の悪感情なのだろうか?
いかん、急ぎフォローしなければ!
「も、もちろんアンタらも信じている、そりゃもう心の底からっ!」
と、青年の主張よろしく、テーブルをダンと叩いて立ち上がり宣言した。
無論、いちいち三人の目を見ながらだ。
すると……
(宇)「ちょ……マジレス?」
(美)「加治屋さん、そういうとこですよ……」
(サ)「加治屋、キモい」
と、冷ややかな反応を返されたのだった。
っく、納得いかねえ。
「じゃ、じゃあ、アンタらはどういう風に聞いてたんだよ?」
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