【完結】婚姻届けの行方

青村砂希

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第9章

09-04 悪い魔法が解けた様に

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 私が目を覚ますと、世界は一変していた。
 まるで、悪い魔法が解けた様に……

「サク、サク、サク、サク」
 野菜を切る包丁の音。
 暖かいスープの湯気が伝わってくる。
 香ばしいトーストと、コーヒーの香り。
 そこに……昔の明里がいた。

「おじさ~ん、早くしないと、会社遅刻しちゃうよ~」
「あ、ああ」

「野菜サンド、作ってみました」
「あ、ああ。ありがとう」

「仕事終わったら、どこかで待ち合わせて、一緒に帰りましょうよ~」
「ああ……そうだな」

「おじさ~ん……」
 ……ああ……やっぱり……明里は……い~な~

 ・・・・・・

 明里と一緒に朝食を頂き、一緒に玄関を出た。
 駅まで一緒に歩いて行くが、電車は別の車両に乗る事にした。
 一緒にいる所を会社の誰かに見られると面倒である。

 明里も私が犯罪者と呼ばれる事を望んでいない様だ。
 電車を降りてから会社まで徒歩10分。
 お互い知らん顔で会社に向かう。

 ・・・・・・

 昼休みになり、会社の食堂へ行くと明里を見つけた。
 女性どうしで大テーブルを囲み、楽しく食事している。

 リーダー君が私を見つけ、大テーブルへ誘ってくれた。
 そのテーブルは、明里のテーブルの隣だった。

 元ストロベリーのメンバーが集まって来た。
 5人……あれ?
「佐伯さんは?」

 碧が答えた。
「ただいま産休を取っています」
「ええ?」
 インテリ君が頭を下げた。

 綾乃が不満気な顔で言った。
「こっそり籍入れて、誰にも教えなかったんですよ~」
「……あ~そうなんだ~……おめでとう」
 私はインテリ君に、お祝いの言葉を送った。

 その時、スコッチの主任が御盆を持って現れた。
「私も混ぜて下さい」
「ど~ぞ、ど~ぞ」
 私がそう言うと、彼は碧の隣に座った。

 碧がぼやく様に言った。
「佐伯さんに先越されちゃったな~……綾乃さんも、あまりゆっくりしていると、大変ですよ~」

 すると、綾乃が爆弾を落とした。
「私、主幹狙いですから」
 リーダー君が凍り付いた。

 すると碧も爆弾を投下した。
「あ~主幹は……諦めた方がいいですよ~」
 私は凍り付いた。

 そして碧は私を見て言った。
「3年の予定の赴任が、何で5年になったのでしょう」

 すかさず綾乃が私に向かって言った。
「え~、みんなで主幹の帰り、首を長くして待っていたのに……主幹は東北の研究所で、いい事してたんですか~」
 ……私は答えなかった。

 そう、碧は明らかに誤解させる様な言いまわしをした。
 皆は私が東北研究所へ赴任している間、良い人が出来たと思った様だ。
 スコッチの主任が、安堵の表情を浮かべている。

 ……なんだろう。
 隣のテーブルから約1名、険しい視線を感じる。

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 次回:あの婚姻届は
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