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プロローグ
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笑い声が聞こえる。
やや高めの、しかし不快には感じない少女と思われる笑い声。
聞き慣れた声だ。
一年か、二年。いやもっともっと長い間聞いていたかのような。
もはや俺の生活の一部になってるかのように、違和感なくすんなりと耳に入り、脳に溶け込んでいくような感覚におそわれる。
誰の?
そこまで考えた所で初めて自分の周りが視界に入る。
そこは真っ白な空間だった。
空も地面も周りの景色も、一片の色素のない純白の世界。
そう思っていた俺の視界の先に、唐突に一本の色彩が奔る。
木だ。
新緑を一杯に広げた一本の木が、自分の目の前に唐突に現れた。
再び聞こえる笑い声。
すると、今度は木の根元に一人の少女が現れた。
肩のあたりまで伸ばされた白に近い銀髪に幼い顔立ち。
遠めだが近づけばその身長が俺の首あたりまでしかない事が直ぐにわかっただろう。
シンプルな白いワンピース姿で、体の前で両手を合わせている姿は一見清楚な雰囲気に見えるが、あからさまなしかめっ面がその全てを台無しにしていた。
最も、それは俺が普段一番目にする彼女の表情である為、なんの違和感も感じない。
感じるとすれば今自分が立っている空間に向けるべきなのだろうが、ここまでくればここがどこなのかほぼ確信を持ってわかっていた。
「夢か」
呟いた瞬間、世界の全てが彩られた。
緑に覆われた大地に小高い丘。
丘の上には一本の木が生えており、傍らにはひとりの少女。
見渡せば十件ほどの木造住宅が点在し、いくつかの煙突からはうっすらと煙が見て取れる。
更に先を見れば頂上を雪に覆われた山脈と、うっすら白い雲をたたえた青空がとても美しく見える。
視線を落とせばどこまでも続く大森林。
その中では様々な動植物が思い思いの人生を歩んでいるのだろう。
視線を戻す。
木の下の少女は相変わらずだ。
相変わらずの仏頂面を貼り付けたまま、こちらをじっと見つめている。
夢の中の俺はため息を一つつくと、ゆっくり少女に向かって歩き出す。
近づくにつれてはっきりしてくる表情は、俺がよく目にする少女の表情そのままだ。
再び笑い声。
今度はやけにはっきりと聞こえたそれに、俺の脳がなにか刺激を感じたのかもしれない。
あと少しで手が届くその距離で。
少女はニッコリと微笑んだ。
「あはははは!」
目が覚めると見慣れた天井と、微笑とはどう転んでも結びつかないような無遠慮な笑い声が出迎えた。
先程までやけに鮮明な夢を見ていたからか、少々だるい体を起こしつつ周りを見渡せば、差し込む日差しからもう陽が昇って随分経つと推察された。
欠伸を一つ。
まだ半分寝ている頭を軽く振ってベッドから降りると、多少ふらつきながら自室を隔てるドアへ向かって歩き出す。
俺の名はテオドミロ。
辺境に位置するのどかな村で静かに暮らすことを望んでいる、今年14歳になったばかりの自称狩人見習いだ。
やや高めの、しかし不快には感じない少女と思われる笑い声。
聞き慣れた声だ。
一年か、二年。いやもっともっと長い間聞いていたかのような。
もはや俺の生活の一部になってるかのように、違和感なくすんなりと耳に入り、脳に溶け込んでいくような感覚におそわれる。
誰の?
そこまで考えた所で初めて自分の周りが視界に入る。
そこは真っ白な空間だった。
空も地面も周りの景色も、一片の色素のない純白の世界。
そう思っていた俺の視界の先に、唐突に一本の色彩が奔る。
木だ。
新緑を一杯に広げた一本の木が、自分の目の前に唐突に現れた。
再び聞こえる笑い声。
すると、今度は木の根元に一人の少女が現れた。
肩のあたりまで伸ばされた白に近い銀髪に幼い顔立ち。
遠めだが近づけばその身長が俺の首あたりまでしかない事が直ぐにわかっただろう。
シンプルな白いワンピース姿で、体の前で両手を合わせている姿は一見清楚な雰囲気に見えるが、あからさまなしかめっ面がその全てを台無しにしていた。
最も、それは俺が普段一番目にする彼女の表情である為、なんの違和感も感じない。
感じるとすれば今自分が立っている空間に向けるべきなのだろうが、ここまでくればここがどこなのかほぼ確信を持ってわかっていた。
「夢か」
呟いた瞬間、世界の全てが彩られた。
緑に覆われた大地に小高い丘。
丘の上には一本の木が生えており、傍らにはひとりの少女。
見渡せば十件ほどの木造住宅が点在し、いくつかの煙突からはうっすらと煙が見て取れる。
更に先を見れば頂上を雪に覆われた山脈と、うっすら白い雲をたたえた青空がとても美しく見える。
視線を落とせばどこまでも続く大森林。
その中では様々な動植物が思い思いの人生を歩んでいるのだろう。
視線を戻す。
木の下の少女は相変わらずだ。
相変わらずの仏頂面を貼り付けたまま、こちらをじっと見つめている。
夢の中の俺はため息を一つつくと、ゆっくり少女に向かって歩き出す。
近づくにつれてはっきりしてくる表情は、俺がよく目にする少女の表情そのままだ。
再び笑い声。
今度はやけにはっきりと聞こえたそれに、俺の脳がなにか刺激を感じたのかもしれない。
あと少しで手が届くその距離で。
少女はニッコリと微笑んだ。
「あはははは!」
目が覚めると見慣れた天井と、微笑とはどう転んでも結びつかないような無遠慮な笑い声が出迎えた。
先程までやけに鮮明な夢を見ていたからか、少々だるい体を起こしつつ周りを見渡せば、差し込む日差しからもう陽が昇って随分経つと推察された。
欠伸を一つ。
まだ半分寝ている頭を軽く振ってベッドから降りると、多少ふらつきながら自室を隔てるドアへ向かって歩き出す。
俺の名はテオドミロ。
辺境に位置するのどかな村で静かに暮らすことを望んでいる、今年14歳になったばかりの自称狩人見習いだ。
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