秘密の師弟関係

ほのじー

文字の大きさ
上 下
26 / 121
第二章:恋の芽

お出かけSide:ランドルフ(前)

しおりを挟む
ランドルフは自分を犠牲にしてフェリス国の為に休むことなく精一杯生きてきた。いったいどれだけの人数を殺めてきたのだろうか。人を殺す恐怖心も感覚もだんだん忘れていってしまっていることが怖くてしかたなかった。体の傷も数知れず、結婚もしていない。大きな戦いの後でどうしても下半身が疼くときは、花街に行って沈めたり、後腐れのない未亡人にお相手してもらったりもした。地位が上がるごとに、女はすり寄ってきたが、権力や地位を求めているのが透けて見えてうんざりとした。夜這いをしてくる女もいたが、傷だらけの生々しい体を見るや歪む女の顔を見てきた。そして女は何もなかったように身を引いていった。

ランドルフはいつ死ぬか分からない状況で恋愛や結婚をすることができなかったのだ。そんなランドルフにシルベスターは「そんな生活してたらいつか心が病んでしまうよ」と言われたが、こんな状況のランドルフにどうしろと言うのだ。


そんなある日のこと、ランドルフはシルベスターの護衛役として、彼の大切な妹である第二王女シャーロットの部屋へと向かった。シャーロットの側に、新しい侍女が付いていた。その女は祖父の剣道場で教えていたエドにそっくりで、彼女は体に歪み一つない綺麗な姿勢で立っていた。目を凝らして見てもやはりそっくりだった。

アングレの外交官への歓迎パーティーでも、彼女のことは気になり目で追っていた。パーティーも後半に差し掛かったところ、廊下でアングレの男が彼女に話しかけていて、迷惑そうにしているのが見えた。すると彼女は綺麗な動作で男の手をひねりあげ、男をひれ伏させた。

(何なんだ彼女は・・・誰かの刺客か?)

疑問が次々と沸き起こる。彼女を観察していると、不思議なことに人との間合いの取り方や手の動きが剣士を嗜むもののそれと同じであった。そして彼女が化学者風の男との間で不振な動きをした。この女もちっぽけな誘惑に負けて王族を害そうとしているのかと思うと何だかがっかりした。とりあえず思惑を吐かせようと背後から体を動けなくし、誰も使っていない一室に運び入れ紐でがっしりと拘束した。刃物で脅せば女性であれば泣いて白状すると思えば彼女は頑なに口を閉ざしていた。

体を触って分かったのが、女性らしい丸みは少ないが、男性程のゴツさはなく程よい筋肉で覆われていたことだ。足も長く、滑らかな肌をしていた。犯罪者にそんな感想を持つとはなんてことだと思っていたところに、シルベスターが部屋に入ってきて、ランドルフは自分のしたことに顔が真っ青になった。

その後ミリアの拘束をすぐに解こうとしたが、キツく拘束しすぎてなかなか取れなかった。刃物で切ることもできたが、体を傷つけてはいけない。紐をひとつ外そうとするたびに色っぽい声が漏れ聞こえ、ますます平常心になれず上手くほどけなかった。

紐がようやくとけた瞬間ランドルフはミリアの白く長い手足から見える赤くうっ血した紐の跡と情後を思い浮かばせるのぼせた顔に潤んだ瞳が目に入った。ミリアのスカートの中の脚を触った感覚が急に蘇ってきた。

ランドルフは一瞬で自分の下半身に熱が集中するのが分かった。それからしばらく魔女の術に囚われたように体が動かなかった。我にかえってすぐに土下座をした。

「本当にすまなかった!!」

そう言って頭を強く床に打ち付けたのは、こんな状況で見惚れてしまった罪悪感と下半身を沈めるためでもあった。

彼女はランドルフを責めることなく、詫びも買い物につきあって夕飯を奢るだけでいいと言う。その後シルベスターにミリアを雇った経緯を一通り聞いたのだが、どうしてこのような子が危険を犯さねばならないのか到底理解できなかった。

(彼女を守らねば・・・)

その使命感だけで体が勝手に動きミリアを襲った奴らや黒幕のバロック公爵の護衛たちを次々と倒していったのだ。決して鬱憤を晴らそうとした訳ではない。

その夜は久々に花街に向かい、茶髪でストレートヘアの背の高い女を指名した。ミリアと同じ髪と背格好である女を選んだのは彼の無意識であった。そこで一夜を過ごしたが、なんだか全く気は晴れなかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?! 異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。 #日常系、ほのぼの、ハッピーエンド 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/08/13……完結 2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位 2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位 2024/07/01……連載開始

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...