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ファーストキス
しおりを挟む「エリカ、待たせたかい?」
「いっ・・・いえ!!全然ですっ!!」
レオンはいつもと違い、成り上がりの商人のような格好をしている。エリカはいつもの格好でも貴族には見えないのでそのままだ。二人は王都の高級店が並ぶロイヤルストリートに来ている。レオンの休息日であれば外出も可能で今回エリカと外出することとなったのだ。
「先週は男爵家のネネ嬢と出掛けたんだけど、まるで子守りしてる気分になっちゃったよ」
「まあ、まだ彼女十歳ですからね・・・」
レオンは建前で皆平等に接さなければならない。一人と出掛けるのであれば、全員と出掛けなければフェアでなくなってしまう。レオンは毎回休息日でさえも、働いているようなものだ。
「私のことはお気になさらず、レオン様の好きなことをなさってくださいね!!私付いていくだけですから!!」
「うーん、今日は君に服を買ってあげようと思ってね。そろそろ長ったらしい髪も切ってもらおうか」
「えっ・・・!?」
レオンの瞳がギロリと光った。エリカは後退る。
「婚約者の最終選考は僕だけじゃなくて、選考官数人と、父や母も選考に参加することになるんだ。だから君には、最終選考でちゃーんと選ばれるようにしないとね」
「ひぃっ・・・レオン王子、優しい王子像なくなってますってぇ!!」
不敵な笑みを浮かべるレオンにエリカは縮こまった。とある高級そうなドレス店に、引きずられていく。
「い、いやですぅ・・・こんな高そうな店・・・」
「やあ、久しぶりメル。この子に数着ドレス見繕ってあげて」
「お久しぶりですわね、レオン王子。あら、あら、この子光る原石ねぇ~!!腕が鳴るわ~!!」
少しふくよかな、三十代程の女性がメジャーを取り出してエリカを更衣室に入れ、服を剥いだ。
「きゃぁぁああ!!」
「あら、あなた脱いだらスタイルいいじゃない。あんなサイズの合わない服着てるから寸胴に見えるのよ。胸もこんな潰して、胸が可哀想よ」
「い、いいんですぅ・・・できるだけ安くて平凡な服でお願いしますぅ・・・」
エリカは胸や腰、足の大きさまで計られ終わったときにはゲッソリと窶れていた。
「とりあえず既製品だけど、これとこれはどうかしら」
「いいね。買おう」
エリカは値段も見ずに即決するレオンに目を見開いた。こっそりと値札を覗いたが、ゼロの数が多い。
(既製品で既に子爵家の一ヶ月分のお金!!)
「じゃ、オーダーの服は一週間後にとりあえず一着は出来上がると思うのでお送りいたしますわね」
「ああ、ありがとうメル。頼んだよ」
エリカはクリーム色のドレスに身を包み、店を出た。
「でも・・・私にこんな物買ったってバレたら・・・他の令嬢たちに妬まれるんじゃ・・・」
「ああ、適当に皆にもダイヤモンドのブレスレットとかプレゼントしてるから大丈夫だよ」
(ダイヤモンドはそんな・・・適当に買うものではありません・・・金銭感覚・・・恐るべし)
「じゃ、美容院だね」
「え、え、いやですぅ~髪だけは、ご勘弁をぉ~!!」
今まで気配を消してBLの城の世界を覗けてこれたのはエリカの地味さのお蔭だったのだ。印象をさらに薄くする前髪はエリカはとても気に入っていた。
「だーめ。ほら、こっちだよ」
「ひえーん!!鬼!!悪魔!!」
再び首根っこを捕まれて連れてかれる。エリカは美容師によってザクザクと前髪が切られた。揃えらえた髪にトリートメントをされ栗色の髪は艶のあるものへと変化した。
「お嬢ちゃん、このトリートメントを毎日するようにね。枝毛は切っておいたけど、油断は禁物だよ」
「は、はいぃ・・・」
最後にうっすらと化粧を施され、美容師が控え室で待っていたレオンを呼ぶ。レオンはエリカを見て驚きの表情を向けた。
「これほど・・・変わるとは思わなかったよ・・・とっても可愛いよ、エリカ」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
前髪が切られ、睫毛の長く大きな目が露になった。エリカはこの大きすぎる目が好きではなかったが、レオンに褒められれば満更でもない。
「本当可愛い・・・こっちおいで」
帰りの馬車の中で向い側に座るレオンはエリカのことをずっと見ていたと思えば、ポンポンとエリカを隣の席に座るように促した。
「こっち向いて・・・良く見せてよ」
エリカはレオンを見ようとするも、前髪を切り、ハッキリと見えるレオンのキラキラとした目線に耐えられず目をぎゅっと瞑った。すると唇にフニャリと生暖かい感触が生まれる。
(へっ・・・)
目を開けるとレオンがエリカにキスをしていた。レオンは唇をそっと離し、エリカに笑顔を向けた。
「なっ・・・なっ・・・なっ・・・!!」
「目を瞑ったから、キスのおねだりかと思ってね」
──プシュゥゥゥゥ
エリカは頭からボンと爆発する音がし、完全にショートしてしまった。エリカの人生初の・・・いや、前世も合わせて初のファーストキスは、なんとこの国のレオン王子であった。
「あ、ウブなエリカには刺激が強すぎたかな、ごめんね」
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