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サラ⑤
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(今日もシーガル伯爵はいらっしゃるのね)
最近ガイルの外出も減り、王都で仕事がない限りは屋敷に滞在しているようだ。そのせいで毎日彼に報告書を夜彼の寝室に渡しに行かなければいけなくなったのだが、徐々に夜が待ち遠しくなる自分がいた。
(はじめはあんなに嫌だったのに)
彼は報告書を受け取りサラと半刻程会話をする。そんな短い時間はあっという間で、もっと滞在したいと思うようになった。彼に家庭教師をしている理由を聞かれ、サラは戸惑った。自身がガイルの部下と結婚していたなどと知られれば、サラの目的に気づかれてしまうかもしれない。サラは本当のことを少し混ぜながら、ガイルに伝えた。
「まだ、そいつのことを愛しているのか」
「・・・そう、ですね、そうかもしれません」
ガイルにまだ彼を愛しているか聞かれたが、サラは一瞬答えることができなかった。
(彼をまだ愛しているのかしら・・・)
サラは彼を愛していた。政略結婚であるが、彼はサラを大切にしてくれた。彼のために復讐しようと思えるくらいには、愛しているはずだ。しかし冷静になればなるほど、この復讐は間違いであることにサラは気がついていた。サラは話をレイラのことに戻そうと、話題をふった。
「シーガル伯爵も今度是非授業を見に来てください」
「私が、か?」
(ってなんて図々しいこと言ってしまったんでしょう)
話を変えようと、口からポロと出てきてしまった言葉である。サラは訂正しようと口を開こうとする。
「今のは・・・」
「時間があれば是非行かせてもらおう」
彼女に無関心であった彼が授業を見に来ると言ったことに耳を疑った。
(社交辞令・・・よね)
サラはそう思っていたのだが、数日後その言葉が本当であることを知らされる。
+
+
+
「レイラ様、そうです、私を男性と思って身を任せながら足を動かすのです」
「む、難しいですわサラ先生」
サラが男性役を担い、レイラにダンスを教えていた。ピアノはレイラの母であるルリが演奏する。彼女はピアノを弾くのは久しぶりだそうだが、彼女の腕は衰えておらず、プロ顔負けの腕前だ。
「もう一度やってみましょう、ルリ様、宜しいですか」
「もちろん、何度でも弾いてさしあげられるわ」
──ガチャッ──
レイラはかなり上達したようだが、まだ緊張が取れないようだ。サラとレイラが踊っていると、ドアが開く音がしたような気がしたが踊りを教えるのに集中していて誰かが入ってくるのに気がつかなかった。曲が終わるとパチパチと拍手の音が聞こえた。
「お上手ですね」
「ガイルお兄様!!」
「あら、何しに来たのよ」
「姪の頑張っているところを見に来ただけですよ」
レイラとルリも驚いているようだったが、実際に来ると聞いていたサラも相当驚いた。
(本当に来るとは思わなかったわ)
「とても可愛らしい男性役だ。やはり実際に男がするべきだろう。私が姪のお相手をしてあげよう」
「ガイルお兄様が・・・?」
「小さなレディ、お手を」
「は、はい」
紳士にガイルは姪であるレイラに手を差しだし、二人は踊り始めた。固くなっているレイラを上手くリードし、なんとか踊れているようだ。
(レイラ様、三回ぐらい彼の足を踏んでるのを見たけど、今は見なかったことにしてあげましょう)
二人のダンスは終わり、レイラは満足したように礼をした。疲れたようでピアノの横の椅子に座りこむ。
「やっぱりダンスは難しいです・・・そうだ、サラ先生、見本を見せてください」
「見本を・・・?」
「ええ、そうね。せっかくガイルがいるんだもの、娘に見本を見せてくれるかしら」
レイラとルリに頼まれるとサラは断れない。チラリとガイルを見ると、彼も戸惑っているようだった。
「シーガル伯爵が、良ければそうしましょうか」
「喜んで・・・お相手致しましょうレディ」
ガイルがサラの手を取った。彼はスーツを着こなしており、顔色も良く以前あった瞳の充血もない。黒い髪も整えられ、眩しいくらいに格好いい。
──ドキン──
胸の鼓動が高鳴りだす。腰に手を添えられ、サラも背筋を伸ばしガイルの腰に左手を当て、右手を彼の手に繋いだ。曲が始まり、ゆっくりと動き出す。彼のリードは、いつもの強く逞しいイメージとは程遠く、優しく繊細だ。まるでサラの全てを分かっているかのごとく、サラを誘導していく。
(凄い、こんなに動けるのは始めてだわ)
サラは楽しくなり、口角を少し上げた。
最近ガイルの外出も減り、王都で仕事がない限りは屋敷に滞在しているようだ。そのせいで毎日彼に報告書を夜彼の寝室に渡しに行かなければいけなくなったのだが、徐々に夜が待ち遠しくなる自分がいた。
(はじめはあんなに嫌だったのに)
彼は報告書を受け取りサラと半刻程会話をする。そんな短い時間はあっという間で、もっと滞在したいと思うようになった。彼に家庭教師をしている理由を聞かれ、サラは戸惑った。自身がガイルの部下と結婚していたなどと知られれば、サラの目的に気づかれてしまうかもしれない。サラは本当のことを少し混ぜながら、ガイルに伝えた。
「まだ、そいつのことを愛しているのか」
「・・・そう、ですね、そうかもしれません」
ガイルにまだ彼を愛しているか聞かれたが、サラは一瞬答えることができなかった。
(彼をまだ愛しているのかしら・・・)
サラは彼を愛していた。政略結婚であるが、彼はサラを大切にしてくれた。彼のために復讐しようと思えるくらいには、愛しているはずだ。しかし冷静になればなるほど、この復讐は間違いであることにサラは気がついていた。サラは話をレイラのことに戻そうと、話題をふった。
「シーガル伯爵も今度是非授業を見に来てください」
「私が、か?」
(ってなんて図々しいこと言ってしまったんでしょう)
話を変えようと、口からポロと出てきてしまった言葉である。サラは訂正しようと口を開こうとする。
「今のは・・・」
「時間があれば是非行かせてもらおう」
彼女に無関心であった彼が授業を見に来ると言ったことに耳を疑った。
(社交辞令・・・よね)
サラはそう思っていたのだが、数日後その言葉が本当であることを知らされる。
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「レイラ様、そうです、私を男性と思って身を任せながら足を動かすのです」
「む、難しいですわサラ先生」
サラが男性役を担い、レイラにダンスを教えていた。ピアノはレイラの母であるルリが演奏する。彼女はピアノを弾くのは久しぶりだそうだが、彼女の腕は衰えておらず、プロ顔負けの腕前だ。
「もう一度やってみましょう、ルリ様、宜しいですか」
「もちろん、何度でも弾いてさしあげられるわ」
──ガチャッ──
レイラはかなり上達したようだが、まだ緊張が取れないようだ。サラとレイラが踊っていると、ドアが開く音がしたような気がしたが踊りを教えるのに集中していて誰かが入ってくるのに気がつかなかった。曲が終わるとパチパチと拍手の音が聞こえた。
「お上手ですね」
「ガイルお兄様!!」
「あら、何しに来たのよ」
「姪の頑張っているところを見に来ただけですよ」
レイラとルリも驚いているようだったが、実際に来ると聞いていたサラも相当驚いた。
(本当に来るとは思わなかったわ)
「とても可愛らしい男性役だ。やはり実際に男がするべきだろう。私が姪のお相手をしてあげよう」
「ガイルお兄様が・・・?」
「小さなレディ、お手を」
「は、はい」
紳士にガイルは姪であるレイラに手を差しだし、二人は踊り始めた。固くなっているレイラを上手くリードし、なんとか踊れているようだ。
(レイラ様、三回ぐらい彼の足を踏んでるのを見たけど、今は見なかったことにしてあげましょう)
二人のダンスは終わり、レイラは満足したように礼をした。疲れたようでピアノの横の椅子に座りこむ。
「やっぱりダンスは難しいです・・・そうだ、サラ先生、見本を見せてください」
「見本を・・・?」
「ええ、そうね。せっかくガイルがいるんだもの、娘に見本を見せてくれるかしら」
レイラとルリに頼まれるとサラは断れない。チラリとガイルを見ると、彼も戸惑っているようだった。
「シーガル伯爵が、良ければそうしましょうか」
「喜んで・・・お相手致しましょうレディ」
ガイルがサラの手を取った。彼はスーツを着こなしており、顔色も良く以前あった瞳の充血もない。黒い髪も整えられ、眩しいくらいに格好いい。
──ドキン──
胸の鼓動が高鳴りだす。腰に手を添えられ、サラも背筋を伸ばしガイルの腰に左手を当て、右手を彼の手に繋いだ。曲が始まり、ゆっくりと動き出す。彼のリードは、いつもの強く逞しいイメージとは程遠く、優しく繊細だ。まるでサラの全てを分かっているかのごとく、サラを誘導していく。
(凄い、こんなに動けるのは始めてだわ)
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