上 下
12 / 39

サラ⑤

しおりを挟む
(今日もシーガル伯爵はいらっしゃるのね)


最近ガイルの外出も減り、王都で仕事がない限りは屋敷に滞在しているようだ。そのせいで毎日彼に報告書を夜彼の寝室に渡しに行かなければいけなくなったのだが、徐々に夜が待ち遠しくなる自分がいた。


(はじめはあんなに嫌だったのに)


彼は報告書を受け取りサラと半刻程会話をする。そんな短い時間はあっという間で、もっと滞在したいと思うようになった。彼に家庭教師をしている理由を聞かれ、サラは戸惑った。自身がガイルの部下と結婚していたなどと知られれば、サラの目的に気づかれてしまうかもしれない。サラは本当のことを少し混ぜながら、ガイルに伝えた。


「まだ、そいつのことを愛しているのか」
「・・・そう、ですね、そうかもしれません」


ガイルにまだ彼を愛しているか聞かれたが、サラは一瞬答えることができなかった。


(彼をまだ愛しているのかしら・・・)


サラは彼を愛していた。政略結婚であるが、彼はサラを大切にしてくれた。彼のために復讐しようと思えるくらいには、愛しているはずだ。しかし冷静になればなるほど、この復讐は間違いであることにサラは気がついていた。サラは話をレイラのことに戻そうと、話題をふった。



「シーガル伯爵も今度是非授業を見に来てください」
「私が、か?」


(ってなんて図々しいこと言ってしまったんでしょう)


話を変えようと、口からポロと出てきてしまった言葉である。サラは訂正しようと口を開こうとする。


「今のは・・・」
「時間があれば是非行かせてもらおう」


彼女に無関心であった彼が授業を見に来ると言ったことに耳を疑った。


(社交辞令・・・よね)


サラはそう思っていたのだが、数日後その言葉が本当であることを知らされる。







「レイラ様、そうです、私を男性と思って身を任せながら足を動かすのです」
「む、難しいですわサラ先生」


サラが男性役を担い、レイラにダンスを教えていた。ピアノはレイラの母であるルリが演奏する。彼女はピアノを弾くのは久しぶりだそうだが、彼女の腕は衰えておらず、プロ顔負けの腕前だ。


「もう一度やってみましょう、ルリ様、宜しいですか」
「もちろん、何度でも弾いてさしあげられるわ」


──ガチャッ──


レイラはかなり上達したようだが、まだ緊張が取れないようだ。サラとレイラが踊っていると、ドアが開く音がしたような気がしたが踊りを教えるのに集中していて誰かが入ってくるのに気がつかなかった。曲が終わるとパチパチと拍手の音が聞こえた。


「お上手ですね」
「ガイルお兄様!!」
「あら、何しに来たのよ」
「姪の頑張っているところを見に来ただけですよ」


レイラとルリも驚いているようだったが、実際に来ると聞いていたサラも相当驚いた。


(本当に来るとは思わなかったわ)


「とても可愛らしい男性役だ。やはり実際に男がするべきだろう。私が姪のお相手をしてあげよう」
「ガイルお兄様が・・・?」
「小さなレディ、お手を」
「は、はい」


紳士にガイルは姪であるレイラに手を差しだし、二人は踊り始めた。固くなっているレイラを上手くリードし、なんとか踊れているようだ。


(レイラ様、三回ぐらい彼の足を踏んでるのを見たけど、今は見なかったことにしてあげましょう)


二人のダンスは終わり、レイラは満足したように礼をした。疲れたようでピアノの横の椅子に座りこむ。


「やっぱりダンスは難しいです・・・そうだ、サラ先生、見本を見せてください」
「見本を・・・?」
「ええ、そうね。せっかくガイルがいるんだもの、娘に見本を見せてくれるかしら」


レイラとルリに頼まれるとサラは断れない。チラリとガイルを見ると、彼も戸惑っているようだった。


「シーガル伯爵が、良ければそうしましょうか」
「喜んで・・・お相手致しましょうレディ」


ガイルがサラの手を取った。彼はスーツを着こなしており、顔色も良く以前あった瞳の充血もない。黒い髪も整えられ、眩しいくらいに格好いい。


──ドキン──


胸の鼓動が高鳴りだす。腰に手を添えられ、サラも背筋を伸ばしガイルの腰に左手を当て、右手を彼の手に繋いだ。曲が始まり、ゆっくりと動き出す。彼のリードは、いつもの強く逞しいイメージとは程遠く、優しく繊細だ。まるでサラの全てを分かっているかのごとく、サラを誘導していく。



(凄い、こんなに動けるのは始めてだわ)


サラは楽しくなり、口角を少し上げた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

短編まとめ

あるのーる
BL
大体10000字前後で完結する話のまとめです。こちらは比較的明るめな話をまとめています。 基本的には1タイトル(題名付き傾向~(完)の付いた話まで)で区切られていますが、同じ系統で別の話があったり続きがあったりもします。その為更新順と並び順が違う場合やあまりに話数が増えたら別作品にまとめなおす可能性があります。よろしくお願いします。

ヒーローは洗脳されました

桜羽根ねね
BL
悪の組織ブレイウォーシュと戦う、ヒーロー戦隊インクリネイト。 殺生を好まないヒーローは、これまで数々のヴィランを撃退してきた。だが、とある戦いの中でヒーロー全員が連れ去られてしまう。果たして彼等の行く末は──。 洗脳という名前を借りた、らぶざまエロコメです♡悲壮感ゼロ、モブレゼロなハッピーストーリー。 何でも美味しく食べる方向けです!

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

人妻嬲り

sleepingangel02
恋愛
長年思い続けてきた女性に対して,積年の思いを熱い調教ではらしていく

異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

あとさん♪
恋愛
リラジェンマは第一王女。王位継承権一位の王太女であったが、停戦の証として隣国へ連行された。名目は『花嫁として』。 だが実際は、実父に疎まれたうえに異母妹がリラジェンマの許婚(いいなずけ)と恋仲になったからだ。 要するに、リラジェンマは厄介払いに隣国へ行くはめになったのだ。 ところで隣国の王太子って、何者だろう? 初対面のはずなのに『良かった。間に合ったね』とは? 彼は母国の事情を、承知していたのだろうか。明るい笑顔に惹かれ始めるリラジェンマであったが、彼はなにか裏がありそうで信じきれない。 しかも『弟みたいな女の子を生んで欲しい』とはどういうこと⁈¿? 言葉の違い、習慣の違いに戸惑いつつも距離を縮めていくふたり。 一方、王太女を失った母国ではじわじわと異変が起こり始め、ついに異母妹がリラジェンマと立場を交換してくれと押しかける。 ※設定はゆるんゆるん ※R15は保険 ※現実世界に似たような状況がありますが、拙作の中では忠実な再現はしていません。なんちゃって異世界だとご了承ください。 ※拙作『王子殿下がその婚約破棄を裁定しますが、ご自分の恋模様には四苦八苦しているようです』と同じ世界観です。 ※このお話は小説家になろうにも投稿してます。 ※このお話のスピンオフ『結婚さえすれば問題解決!…って思った過去がわたしにもあって』もよろしくお願いします。  ベリンダ王女がグランデヌエベ滞在中にしでかしたアレコレに振り回された侍女(ルチア)のお話です。 <(_ _)>

甘い誘惑

さつらぎ結雛
恋愛
幼馴染だった3人がある日突然イケナイ関係に… どんどん深まっていく。 こんなにも身近に甘い罠があったなんて あの日まで思いもしなかった。 3人の関係にライバルも続出。 どんどん甘い誘惑の罠にハマっていく胡桃。 一体この罠から抜け出せる事は出来るのか。 ※だいぶ性描写、R18、R15要素入ります。 自己責任でお願い致します。

お祭 ~エロが常識な世界の人気の祭~

そうな
BL
ある人気のお祭に行った「俺」がとことん「楽しみ」つくす。 備品/見世物扱いされる男性たちと、それを楽しむ客たちの話。 (乳首責め/異物挿入/失禁etc.) ※常識が通じないです

(完結)妹に病にかかった婚約者をおしつけられました。

青空一夏
恋愛
フランソワーズは母親から理不尽な扱いを受けていた。それは美しいのに醜いと言われ続けられたこと。学園にも通わせてもらえなかったこと。妹ベッツィーを常に優先され、差別されたことだ。 父親はそれを黙認し、兄は人懐っこいベッツィーを可愛がる。フランソワーズは完全に、自分には価値がないと思い込んだ。 妹に婚約者ができた。それは公爵家の嫡男マクシミリアンで、ダイヤモンド鉱山を所有する大金持ちだった。彼は美しい少年だったが、病の為に目はくぼみガリガリに痩せ見る影もない。 そんなマクシミリアンを疎んじたベッツィーはフランソワーズに提案した。 「ねぇ、お姉様! お姉様にはちょうど婚約者がいないわね? マクシミリアン様を譲ってあげるわよ。ね、妹からのプレゼントよ。受け取ってちょうだい」 これはすっかり自信をなくした、実はとても綺麗なヒロインが幸せを掴む物語。異世界。現代的表現ありの現代的商品や機器などでてくる場合あり。貴族世界。全く史実に沿った物語ではありません。 6/23 5:56時点でhot1位になりました。お読みくださった方々のお陰です。ありがとうございます。✨

処理中です...