殺人兵器が溺愛する戦場の天使

三章:大人

リリィとヴィーが出会った森

まだ日が上がる前にヴィンセントはリリィは起き、二人の出会った森へ向かった。もう戦争時の面影はなく、森は舗装され、商人たちが行き来できるようになっている。


「ここが、私たちが出会った場所?」
「ああ、そうだ」


一見他とは変わらない風景なのだが、新しい木の芽が生えている。リスが餌を求めひょっこり顔を出している様子も伺える。


「戦争でほとんど生命が失われたと思ってたが、またこうやって芽が出始めてる」


カイルによってなぎ倒され、失われた自然は、森の強い生命力によりまた新しいものへと生まれ変わっている。


「・・・ここは、俺の全てを現しているみたいだ」



(ここ・・・が?)



「俺は毎日無心に戦地へ向かって人を殺してきた。何も心を持たず殺している俺を見て皆俺を兵器と呼び出した」


ヴィンセントは遠い目を向け、過去を思い出しているようだ。ヴィンセントはしばらくしてリリィに向かう。


「もう心が壊れそうになっていたときに、リリィ、お前に出会ったんだ」


風が吹き、リリィの髪がふわりと舞った。ヴィンセントはリリィに近づき、リリィの黒い髪をいとおしそうに撫でる。


「生命力を失った俺に、小さな芽を植えてくれた。リリィは俺に生きる力をくれたんだ」


ヴィンセントはしばらく何も言わず、森の木の揺れる音だけがリリィの耳に届く。ヴィンセントは一瞬躊躇う表情をしたが、決心したかのごとく、強い瞳をリリィに向けた。


「リリィ、俺はお前をずっと保護者として大事にしてきた。成長するのを見届けて、ちゃんとした男に嫁にやろうって決めてたんだ」


(知ってるよ・・・ヴィーはずっと私を保護者として守ってくれた)



「でも・・・成長して、誰よりも魅力的なリリィを、俺は手放したくないって思ってたしまったんだ。俺はずっと自分の気持ちを親心だって誤魔化してた」
「っ・・・」


ヴィンセントはリリィを抱きしめる。彼の胸に押さえつけられた耳から、ヴィンセントの胸の鼓動がドクドクと聞こえてくる。


(ヴィーの鼓動、すごく速い)



「俺は、リリィが好きだ」



リリィが顔を上げようとするも、ヴィンセントに阻止される。チラリと見えたヴィンセントの耳は真っ赤だ。


「仕事に反対してから、リリィとまともに話せなくなって、すごく後悔した。どんどん綺麗になっていくんだもんな・・・隈を作って必死になって命を助けようとする姿でさえ、俺の胸をぐらつかせてたんだから」


(見てくれてたんだ)



「お前を戦場の天使だと崇めるやつもいて、俺は無性に嫉妬したよ。リリィは俺だけの天使だって。バカだよな・・・リリィ、お前を突き放しといて今さらすごく後悔するなんて」
「ヴィー・・・」



(すごく嬉しい・・・ヴィーが私と同じ気持ちだって分かっただけで・・・)



「ヴィー、ありがとう。嬉しい。でも・・・ごめんなさい。私ヴィーとは一緒になれない」
「っ・・・好きな奴でもできたのか」
「違う、違うの・・・」


リリィから涙が溢れてくる。ヴィンセントはリリィの涙を手の甲で拭った。しばらくして落ち着いたリリィに、ヴィンセントは顔を近づける。


──チュッ──


ヴィンセントは唇を瞼の上に落とす。その唇はリリィの唇へと向かうも、ヴィンセントは躊躇った。


「こうされるの・・・嫌か?」
「嫌じゃ・・・ない」


リリィがそう言うとヴィンセントはリリィに口づけをする。いつもとは違う、塩辛い味がした。


(ヴィーを拒否しといて、キスは受け入れるなんて、矛盾してるわよね・・・)


リリィは神様に、これくらいは許してください、と祈りながらヴィンセントの口づけを許した。