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証拠~レオナルド視点~

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「やはり今回も兎の耳を持ったピンクの髪の女に拐われたようだ」
「おかしいですね。この時間は姉上は学校にいました」


レオナルドはチャーリーとザックと共に、奴隷オークションの証拠を探っていた。第二王子派の貴族たちが関わっているという証拠を得るために、慎重に調べなければならない。


「最近あの人間の女、ベーレ侯爵の屋敷に頻繁に出入りしているそうだぞ」
「ベーレ侯爵といえば、完全に第二王子派ですね」
「レオナルド、お前最近あの女に近づいてたんだろ?何か情報は得られなかったのか」
「それとなく探ってるんですが、いつも彼女の取り巻きの貴族たちに邪魔をされて・・・」


レオナルドたちは頭を抱えた。彼女を支える貴族は第二王子派と言われている者たちばかりだ。しかし証拠がなかなか掴めない。


「次のオークションに侵入するしかないな」
「でも、場所も時間も毎回違うそうですよ。どうやって知れば・・・」



──ザッ!!──


「だ、誰だ!!」


黒い羽を羽ばたかせ、男が着陸する。レオナルドたちは突然現れた男に身構えた。彼には気配も、匂いもない。彼に命を狙われようものなら、彼の存在にさえ気づかずに暗殺されてしまうのではないだろうか。レオナルドは目の前の男を睨み付ける。


「私のことは今は重要ではありません。フィーヌ様が拐われました」
「な、なんだって・・・?!」


男が近づくと微かにフィーヌの匂いが鼻を掠めた。彼女の匂いを持つ男にレオナルドは警戒を強める。


「嫉妬なんてしてる時間はありません。彼女を助けるのが優先です。まだ拐われてそこまで時間は経ってないはずです。今ならあなたはフィーヌ様の匂いを辿れるでしょう」
「くそっ・・・あとで色々と聞くからな」


彼女が王都にさえいれば、彼女の匂いを辿り、探し出せる自信がある。なぜこの男がそんな事実を知っているのかは分からないが、レオナルドは野生の本能を引き出し、意識をフィーヌに集中させた。


「俺たちも同行しよう。きな臭い匂いがする。応援も頼んでおくか」
「・・・わかりました」



(姉上・・・いったいどこに・・・)









第五地区は少し中心から外れており王都でも一番治安の悪いエリアだ。そこにレオナルドは導かれ、たどり着いた。



(ここだ・・・ここから姉上の匂いがする)



そこは工場のような場所であるが、馬車が数台その前に止まっている。再び一台馬車が止まったと思うと、中から高貴そうなネズミの髭を生やした男が出てきた。彼は表にいる警備員に何かを話し、中に入っていった。


「これ、もしかすると奴隷オークションの会場なんじゃないか?」


チャーリーが眉を細める。この会場に誘拐されたフィーヌ、そして微かに匂う人間の女の匂い・・・そして人間の女の言動や行動にパズルのピースが頭の中でカチリと填まった。


「・・・黒幕はあの人間の女だ。姉上に全て濡れ衣を着せるつもりだ」



すると一緒についてきた黒ずくめの男が羽ばたき、窓の隙間から会場の中を覗いた。男の顔に動揺の色が見えた。


「フィーヌ様が、オークションの見せ物に・・・!!」
「・・・くそっ」


ただ黒幕としての濡れ衣を着せるだけでなく、彼女を男たちたちの見せ物とさせようとしているようだ。レオナルドは頭の血がのぼり、会場に走った。黒ずくめの男も我慢できないといったように、レオナルドについていく。


「お、おい!!レオナルド!!まだ応援が来てないぞ!!」


チャーリーとザックが引き留めようとするがレオナルドはもう一秒も待てない。その声を無視して、警備員を殴り飛ばし会場の門を開いた。




『やだぁ~!失禁しちゃったの?きったな~い。こんな皆の前で漏らすなんて、家畜の素質あるんじゃない?』


仮面を被った女が高笑いをしている。彼女はあの人間の女であろう。



──グルルルルル──



真ん中でドレスを破かれ、下半身を露にしているのはフィーヌである。彼女は涙を流し、絶望で目の焦点が合っていないようだ。


(殺す・・・あの人間、殺してやる)


気を緩めれば失神してしまうような殺気を纏いながら飛び上がり舞台に着地したレオナルドに会場がざわざわと騒ぎだす。


「な、なんであなたが・・・」


仮面の女が逃げようとしていたのでレオナルドは彼女の肩を掴み、無理やり彼女の仮面を外した。焦った様子の女が体をばたつかせている。


「ち、ちがうの、あの女が、奴隷オークションの首謀者で、私は何も関係ないわ」
「誰が首謀者かなんて僕には興味はないよ。誰が姉上を傷つけたかだけしか興味ないね。ねえ、君でしょ?すぐに殺してあげるね」
「ひ、ひぃいいい!!あなた、あの女に虐められてたんじゃ・・・」
「まだそんなこと言ってるの?君、頭おかしいんじゃない?」


レオナルドは女の喉に狙いを定めた。腸が煮えたぎり、どんだけ彼女を殺しても殺しきれないだろう。


「フィーヌ様・・・お気をたしかに!!」


フィーヌが男たちの視界に入らないよう黒ずくめの男が大きく羽を広げ、拘束していたフィーヌの紐を外し、フィーヌを刺激しないようそっと抱き止めていた。レオナルドはハッとする。



(そうだ、彼女を守るのが先だ)


黒ずくめの男に自分がフィーヌを保護すると言うと、しぶしぶ彼は抱き止めていたフィーヌをレオナルドへと手渡した。レオナルドの上着を彼女に着せ、誰にも見えないようにしながらゆっくりと出口に向かう。焦って逃げようとする会場の男たちは応援に駆けつけたチャーリーの騎士たちにより拘束されている。人間の女も拘束され、「私は被害者よ!!」と叫んでいた。


「すみません、後は任せました」
「ああ、彼女の心の傷を癒せるのはお前だけだ。早く行け」


チャーリーはレオナルドにそう言って促した。遠慮なくレオナルドはフィーヌを抱き抱えその場を後にしたのだった。



(姉上・・・もう大丈夫ですからね)
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