堅物侯爵とじゃじゃ馬娘

ほのじー

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エレナ②

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エレナは椅子にどっしりと座り書斎の机に脚を乗せ、上を向いて目を閉じながら昨日の出来事を思い出していた。


(偉そうな奴だったわ)



考えても何も思いつかず気分転換と思い狩りの服に着替え猪を狩りに行った。大きな猪を仕留め、今日は猪鍋にしようと意気込んでいると、セインが他の男の存在に気づいた。


(これが、ブロア侯爵・・・)


彼の黒髪は毎日手入れをしているように艶があり、キリッとした眉毛に鼻筋が通り、エメラルドグリーンの瞳は完全にエレナを捕らえていた。そんな猛獣のような瞳にまるで捕らわれたかのようにエレナは固まった。


(こんな綺麗な人初めて見るわ)


「レディでしたか、申し訳ありません。ここの主人を待っていたのですが、なかなかいらっしゃらないようで」
「私がその主人よ」
「は・・・?」


男は信じられないといった様子で再びエレナを下から上へと目線を向けた。その視線にエレナはゾクリと鳥肌が起つ。


(な、なによこの感覚は)



エレナはその感覚を無視し、セインに彼を任せ、客間に通してもてなすように言った。その後もエレナは彼の表情を思いだし、もやもやとした気持ちが続く。その日あまり眠れぬ夜を過ごした。



+++



──コンコン──



(セインかしら)



「おはようセイン、ノックなんてしなくても開いてるわよ」


エレナはそう言って天井を向きながら顔の上に本を被せ目を瞑ったままである。ドアが開くとなぜかゾクリとした昨日の感覚が戻ってきた。



「そんな脚を書斎に乗せて脚を見せているなんてレディとして失格だな」
「なっ・・・」


エレナが目を開けるとそこにはブロア侯爵が厳しい表情で立っていた。その瞳の先はエレナが書斎机に乗せている脚である。スカートを履いた脚は剥き出しで、あと少しで下着も見えそうな格好であった。


「セ、セインかと思ったのよ!」
「セインであれば脚を見せても良いというのか?」


批判するような瞳にエレナは書斎机から脚を下ろした。


「何の用かしら」
「さっそく調査しようと思っている。誰かここの土地に詳しい案内人を紹介してくれ」
「分かったわ。今日の午後までに準備しておく」


エレナは気になっていることをブロア侯爵に聞いた。


「私のことは、どうするつもり?」
「書類偽造は犯罪だ。一段落したら牢屋に送ろうと思っている。一段落するまで貴族として楽しんでおくんだな。ただし少しでも逃げようとしてみろ?一家全員地獄送りにしてやる」
「・・・せめて妹たちが結婚するまで見逃してくれないかしら」
「そんなこと無理に決まっているだろう」


(あと一年、あと一年だったのに)


上の妹が結婚できる十六歳まであと一年であった。一年後であれば妹に良い人をあてがって男爵領を存続できたのであるが、そうはいかない。エレナが結婚すれば良いのだが、できない理由があった。


(どれもこれもウェイン伯爵のせいよ)



エレナに求婚してきた男がいた。ウェイン伯爵である。彼は五十歳を過ぎており可虐趣味のある人物だ。エレナに目を付け求婚してきたのだが、エレナは断った。その後婚約者ができた事があったのだが、『私以外の男と結婚することは許さない』というメモと婚約者の婚約指輪が填まった指が血まみれになって送られてきたのだ。それからエレナが結婚するという逃げ道は絶たれてしまった。


(でもブロア侯爵に渡れば確実にコルケット領は潰されてしまうわ)


赤字経営の続く領地である。もしこの土地が潰されればエレナの大切な領民も路頭に迷ってしまうのだ。ブロア侯爵は赤字の領地には血も涙もなく潰してしまうことで有名だ。


「分かったわ。でもこれは私だけがやったことで妹たちは関係ないわ。彼女たちに罪を負わせないであげて」
「ああ、俺もそこまで鬼畜ではない。交渉成立だ」


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