堅物侯爵とじゃじゃ馬娘

ほのじー

文字の大きさ
上 下
2 / 28

序章-2

しおりを挟む
「セインからまだ電報届かないのか?」
「ああ、もう二週間経つんだが」


アーネストと同じ黒髪で整った顔をしている男がソファーでウイスキーを嗜んでいた。彼フェネルは伯爵家次男だ。アーネストの従兄弟でもあり、友人である。


(事故にでもあったのか?)


コルケット領まで速馬で三日、馬車で五日かかるのだが、とっくに着いているはずである。


「アーネスト、お前が行ってきたらどうだ?」
「・・・知ってるだろう、俺が田舎が嫌いなことを」


ブロア侯爵であるアーネストは屋敷を数十棟所有しているのだがコルケット領のような小規模の町には所有していない。普通の家があるのかも謎である。もし行くとなればコルケット男爵の屋敷に泊まることとなるだろう。


「そういえば、お前を引きずり落とそうとしたバーク伯爵が賄賂と闇取引で捕まったらしいけど、お前が関与してるんじゃないだろな?」
「後ろめたいことがある奴は自然と滅びるだけだ。俺はきっかけを作ってあげたのみ」
「うわ~相変わらず冷静・鬼畜だな」

アーネストは淡々と仕事をこなしているだけだ。犯罪を犯すものは捕まるだけであるし、人情なんてものはとっくの昔に捨ててしまった。



──コンコン──


「入れ」


コルケット領の問題についてフェネルと話し合っていたのだが、部屋にノックが響いた。使用人が申し訳なさそうに入ってくる。


「歓談中申し訳ございませんが、セインから電報が届いたようです」
「やっとか」


アーネストはフェネルと共に電報を開いた。


『アーネスト様、コルケット領は素晴らしい場所で天国のようです。申し訳ありませんが、私にこの領地を潰すような手続きはできませんので他の者を派遣するようにお願い致します。この素晴らしい土地の主人の行く末を見届けるまで有給を使わせていただきたく存じます。 セイン』


アーネストの眉間にシワが寄る。フェネルも驚きを隠せないようだ。セインは仕事ができて、アーネストが学校を卒業してからずっと付いている秘書である。その彼がこう簡単に仕事を放棄するとは思えない。


「コルケット領で、いったい何があったんだ」
「天国みたいな場所だってさ、僕も行ってみたいな」


いつも冷静なアーネストでも、冷静でいられない。しかし友人であるフェネルは自由人であり遊び人であるので、コルケット領に興味を持ち出したようだ。


「フェネル、キャサリンに劇場へは行けないと断りを入れておいてくれ」
「行くの?コルケット領まで」
「仕方ないだろう、俺が行くしかない」


キャサリンはアーネストの婚約者でフェネルの妹である。彼女はフェネルのように背が高くスラリとしており百年に一度生まれるかどうかの美人だと囁かれている。彼女はまさしく次期侯爵夫人に相応しい女性だ。政略結婚であるがアーネストは生まれながら侯爵として生きてきているので、それが疑問にも思わない。


「僕も行きたいな~」
「お前はしばらくここで俺の重要でない仕事を請け負っておいてくれ。緊急のものはコルケット領まで送ってくれればいい」
「はいはい。ちぇ、俺も行きたかった」
「中間報告で来てもらうことになるかもしれない。あとセインにそちらに向かうと伝えておいてくれ」

アーネストは乗り気ではないが、しかたないと数日分の仕事をまとめ、二日後コルケット領へと向かった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

大好きな幼馴染と結婚した夜

clayclay
恋愛
架空の国、アーケディア国でのお話。幼馴染との初めての夜。 前作の両親から生まれたエイミーと、その幼馴染のお話です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

二人の甘い夜は終わらない

藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい* 年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。

処理中です...